見出し画像

ミイラと仔牛のレバー・ネアンデルタール人は私たちと交配した

人類史的な知識を欲しているフェーズに入ったため、図書館でジャケ狩した一冊。メインタイトルのネアンデルタール人問題は最後の最後に花開く構成で、DNAを分析する作業の個人的な研究史エッセイな感じで、科学界のちょっとコアな業界事情ゴシップなど満載となる。

DNA解析プロセスの向上の精錬されて行く様や、DNA解析ブームみたいのが巻き起こり、正しくないのに「太古の琥珀のハエからDNA解析!」みたいな別大学の誇大発表にムカついて論破しようとエネルギーを割いたりと、科学者も人間らしくイデオロギーが対立するともう政治や国家まで絡んで慎重にことを進めないと行けないのだなと思わされる。

欧米らしく研究所も外資企業のようにみんな転職しまくっているし、当たり前のように引き抜き合戦が行われているのがシビアで面白い。特に自分のやりたい研究を看板掲げて出来る科学者なんて一握りなんだろなあと思わされる。この人はマックスプランク研究所というドイツが東西統一した後にある意味ゼロベースからの環境を手に入れているので、ホント実績と時の運というのは偉大な発見には居るよなあと実感。

そして一人称が「わたし」のため畏まった爺さん研究者が回顧録的に綴っているのかと思いきや、両刀使いのバイセクシャルというキャラクター性が中盤で明かされ、ちょっとオネエ口調で再生されて行く様が叙述トリック的で面白かった。そして先輩の奥さんと不倫し、なんだかんだいい感じで略奪成功している話もサラッと書いてて人間味ありすぎて面白い。(ノーベル生理医学賞獲ってます)

技術史的にはとにかく古いDNAを解析するのは保存状態が悪すぎてほぼ無理!となっており、大体発掘された人骨などは解析に回ってくるまで人間の手がベタベタ手垢ついており、実験室の自らのDNA混入などデリケートな諸問題が多発していた。そしてスーパークリーンルームを作ったりして観測の安定性を構築していく様や、コロナでお馴染みのPCRは限定的なDNA解釈しかできないというツールであったという事実もなるへそとなった。

とにかく後半は企業と組んで上記のような地道な作業を短縮化できるとした後、方針を巡ってもう1人の研究者と対立し、試料である「ネアンデルタール人の骨」を奪い合うというお家騒動みたいな件が生々しくて面白かった。

また、人類は各地域でそれぞれ進化したという古生物学派閥とのイデオロギー論争や、出アフリカ説とミトコンドリアイヴ説まで前者からは否定されまくるという当時は色んなパックリ割れた流れがあったというのは、科学界の面白い権力闘争である。そして全ては結果で示せば全てひっくり返って行くという流れは科学パラダイムシフトとして心地よいドラマである。(重鎮が亡くなったら一気に潮目が変わるなどアカデミアの世界も色々闇っぽさ抱えているのが面白い)

結論としては人類はネアンデルタール人の遺伝子を一部受け継いでおり、先にネアンデルタールがアフリカを出ていき、ヨーロッパや中東に進出したあと、現生人類が中東辺りで交配して少なくとも一部ハイブリッドな種が現生人類の姿らしいです。

そして後半急に現れるデニソワ人の発見などいろんな原人が群雄割拠してた太古の時代があったんだなあとホモサピエンスが単に他類人猿を滅ぼしたという訳でもないんだなあという流れらしいです。まあ交配という点でその現場はどうだったのか想像つかないが、割と友好的ニュアンスもあったんじゃないかと思います。

とにかく主題に辿り着くまでの熾烈な研究争いや科学者のバチバチなイデオロギー対立などその渦中で駆け抜けた人々の死闘という点で非常に面白い一冊である。現時点では勝者の歴史文学であるが、こっからまたひっくり返ったり軌道修正したりするのが科学史の面白いところである。

この記事が参加している募集

ノンフィクションが好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?