「事実は小説よりも奇なり」:なぜ「刑法」研究にたどり着いたのか

皆さん、こんにちは。今日も、備忘録的な感じな記事になるかと思います(しかも、今回は少し長め)。ですが、最後までお付き合いいただけると、幸いです。


今日のお話:「事実は小説よりも奇なり」

今回は、刑法の研究に行き着いた経緯を言語化します。
読者の皆さんの中には、私が「刑法学」を積極的に選んでいるのではないか、と思っている方もおられるかもしれません。確かに、大学院に進学している以上、積極的な理由もあります。しかし、どちらかというと、「成り行き」で刑法学を研究することになった、と言った方が正確かもしれません。
※なぜタイトルが「事実は小説よりも奇なり」なのかは、今回の記事を読むと理解していただけると思われます。

「刑法」との出会い―大学1年次の秋学期

「刑法」との出会いは、大学1年生の秋でした。はっきり申し上げると、最悪な出会い方といっても過言ではありません。

刑法との出会い―甘い幻想と現実

弊学では、学部1年次向けに、「刑法Ⅰ」という必修の講義が、後期(10月~翌年2月)に開講されます。必修ということは、その授業の単位を取らなければ卒業できないということなので、法律学科1年次全員が履修します。

「刑法」を学ぶ前は、「民法よりは簡単なのでは?」と考えていました。条文がシンプル(:複雑ではない)、刑事ドラマを観たり、新聞を読んでいたということもあり、想像しやすい。実際に、刑法の講義を受ける前までは、そんな甘いイメージを持っていました。

しかし、そんな幻想はすぐに打ち消されることに。初回の授業で、犯罪の成立は、「構成要件該当性→違法性→有責性」の枠組みで考えると教わりました。その当時は、まだ「なるほどね」とすぐに理解できました。そのフレームは。

ただ、段々と授業が回を重ねるごとに、暗雲が立ち込めます。弊学の「刑法」は、各論を先に取り上げる→中間試験以降は総論、という流れでした(他大学ではあまり見かけない流れですが、弊学は総論・各論の基礎を1つの科目で、という講義設計になっています)。各論の時点で、薄々気が付いていたのですが、「条文がシンプル」ということは、何もいいことづくし…というわけでもないのです。すなわち、言葉の解釈をめぐって学説の対立が生じます。ということは、犯罪の成立を考える際、要件を当てはめる前に、条文の語句を解釈しなければなりません。それが、他の法律と比べて多いと感じました。また、窃盗罪などで要求される「不法領得の意思」のように、条文には明記されていないけど、判例法理として要求される要件もあります。そうすると、試験の際、六法を持ち込めたところとて、言葉の解釈や判例法理はしっかりと理解する(そして、暗記する)必要があり、それらができていないと、試験で答案が書けない…なんてことになります。

各論はまだマシでした。総論パートに入ると、不作為犯だとか因果関係だとか、聞いたことがないワードが続々登場。しかも、これがまた難しい。そんな感じで、刑法理論の基礎を本当に理解できているのかな…状態で期末試験を迎えることになりました。

悪夢の期末試験

期末試験は、事例問題(:事例における登場人物につき、いかなる犯罪(○○罪)が成立するかを論じさせるもの)1題でした。その試験では、いわゆる「シャクティパット事件」と呼ばれる、被告人につき、不作為の殺人罪が成立した事件をベースにした事例が出題されました(「不作為犯」という刑法上の超!典型論点です。当然、司法試験にも幾度となく出題されています)。

ただ、この事件の厄介なところは、「保護責任者遺棄致死罪」(正確に言うと、「保護責任者不保護致死罪」)と混同しやすいということ…。「保護責任者不保護罪」とは、保護責任者が要扶助者(保護を要する者:幼年者、高齢者、障害者、病者)の生存に必要な保護を怠った際に成立する犯罪、「保護責任者不保護致死罪」とは、保護を怠ったことにより、その要扶助者を死に至らしめた際に成立する犯罪です。
この「保護責任者不保護致死罪」と不作為による殺人罪は、非常によく似ています。そして、実務上、故意(被告人の主観面)によって2つの罪は区別される、とされています。しかし、両者で微妙に判断フレームが異なります。(そもそも行為として、「殺人」か「保護を怠ったか」なので)。

本来、ベースとなる事案で「不作為による殺人罪」の成否が問われている以上、そのように書くのがベターです。少なくとも、「不作為による殺人罪」にせよ、保護責任者不保護致死罪にせよ、その罪のフレームワークに従って、罪責を論じる必要があります。

しかし、このとき何を思ったのか、保護責任者不保護致死罪の成立がするか、と問題提起をしておきながら、具体的には、「不作為による殺人罪」のフレームで論証していました。これでは、両者の区別はついていません!と宣言するようなもの…。しかも、この事実を、試験終了後、友人2人と私との3人で答え合わせをしていたときに気付きました。
※ちなみに、友人2人のうち、1人は「不作為による殺人罪」、もう1人は「傷害致死」でした。なぜ「傷害致死」?といった感じでしたが…
※事例問題は、罪責自体は異なってもいい?ものの、その罪に合わせて論ずる必要があります。私の失敗は、2つの罪のフレームを混同して用いたことです。

結果、担当教員の「温情」と救済レポートを提出しており、どうにか単位は取得。しかし、成績は(当然のごとく)「可」、つまり、合格者の中でも最低ラインでした。

2年次以降のゼミ、卒業論文

弊学では、2年次と3年次にゼミを履修します。そのゼミでは、あれだけ苦戦していた刑法のゼミを選びました。

ただ、刑法の理論よりかは、国際的な話題や刑事政策的なものを(も)取り上げるゼミでした。なので、「なんだか面白そうだな…」という感じで選びました。

2年次・3年次のゼミは、あまり刑法の理論を取り扱わないこともあり、どうにか報告は(おおむね)理解できました。よかったよかった…

そして、卒業論文。「国際法」と「刑事法」の関わりに興味を抱いていたこともあり、テーマは、刑事法と国際法の両側面が交錯するテーマを選択しました。

転機-大学院進学

4年次の夏、転機が訪れます。諸事情(ここでは割愛)があり、大学院に進学することに。その際、2つの準備が必要でした。1つは、研究計画書。大学院に入学した場合、どのような研究を行うのかを記述したものです。これは、卒業論文を延長させた感じで書きました(準備はかなり大変&進学後、大幅に変わることになりますが)。もう1つは、筆記試験の対策。試験では、刑法などが課されます。あの「刑法」をもう一度勉強しなければならない!ということになりました。

基本書や判例百選、司法試験・予備試験過去問(事例問題対策のため)を購入。1か月ほど、必死に勉強しました。そして、猛勉強のおかげ?もあり、大学院入試に合格しました。

改めて刑法の勉強をして、刑法は意外と楽しいかも…と感じるようにはなりました。刑法とヨッ友、あるいは、お知り合いにはなれたのではないか、と思っています。

そして、大学院入学後。研究テーマを選ぶにあたって、4月~5月には、様々なテーマの文献を読みました。数えていませんが、50弱の文献は読んでいるはずです。文献読解を通して、刑法とお友達になれたのではないかと感じています。

まとめ

大学院生・研究者がその分野に行き着いた理由・経緯は様々です。大学入学前から、その分野を極めたい!研究したい!と思っている人も一定数いるかと思います。

1年次のとき苦手だった(むしろ嫌いだった?)「刑法」を、大学院で研究しているとは…人生は何が起きるかわかりませんね。

まさに「事実は小説よりも奇なり」です。


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