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未来の建設業を考える:建設論評「建物の価値とは」(2021年10月08日)

建築分野で考える「建物の価値」と一般の人が考える「建物の価値」の開き

 先般、日本建築学会全国大会で建物の価値を考えるパネルディスカッションが開催された。そこでは、建築分野で考える「建物の価値」と一般の人が考える「建物の価値」の開きが大きく、それゆえストックの健全な活用につながらないことが指摘されていた。

建物の価値

 そもそも、「建物の価値」とは何か。

経済的価値

 不動産鑑定や買い手と売り手の関係で決まる「経済的価値」がまず目に浮かぶ。それ以外に、デザイン性、地域や景観、象徴性から生じる「社会的価値」、鉄筋コンクリートの耐久性などからくる「物理的価値」、さらには建築を使うことで生まれる付加的な価値であり、個々の愛着や思い入れを含む個々人の「利用価値」も含む。
 ただし、一般的には、どうしても「経済的価値」、「貨幣価値」に重きがおかれる。

建築の耐用年数

 建築の耐用年数も、不動産鑑定などの資産価値としての「経済的耐用年数」、税法上の資産価値査定に使われる「法定耐用年数」、物理的価値に基づく「物理的耐用年数」に分けることができる。
 現在の不動産鑑定は「経済的耐用年数」を採用するため、「法定耐用年数」よりも長い期間で判定することが前提となっているが、一般的に、既設建物の価値については、法定耐用年数(住宅用木造で22年、RC造事務所50年など)を超えると、建物価値はゼロで、土地価格から除却費用を差し引いた金額が不動産価値となりがちだ。また、金融機関でも、住宅ローンの設定において総耐用年数を20年と考え、築20年を経過した建物は「建物価値無し」と判断することが多い。さらに、「法定耐用年数」は設備更新の資金調達促進や国際競争力強化のため、住宅寿命は年々伸びている事実にもかかわらず、家屋評価を低く抑える政策が導入され、ますます短くなる傾向にある。
 つまり、良好なストックが進まない大きな要因は、建物の経済的価値が減ることだ。

英米における住宅の資産評価

 一方、英米では中古住宅を良好に保ち、きちんと修繕等を行うと、当初取得価額よりも好調時の株式運用同様、資産価値が増大し、売却価額が大きくなる。それにより、現在の住まいよりも、より広い住宅やより利便性の高い場所への住み替えが可能となる。
 英米では、住宅の資産評価が単体の建物だけでなく、その地域の安全性や清潔度などからも大きな影響を受けるため、自分の家だけでなく家の周辺もきれいに保とうとするインセンティブが働き、街並みの改善にもつながっている、と聞く。
 日本は木造で、英米の石造と違い地震や災害ですぐに壊れるので、住み替えがおきない、日本人は新しもの好きだから、知らない人が住んだ中古住宅には住まない、と長年言われてきた。たしかに、日本の既存住宅の流通シェア(2020年)は約14.5%で、米国の81.0%、英国の85.9%と比べ、極端に低い。

本来の「建物の価値」

 住宅投資に占めるリフォーム投資(2015年)でも、日本は26.7%で、英米は50%を超えているのと比較して小さい。
 しかし、いままさにコロナ禍もあり、庭付きの生活重視や在宅勤務用の部屋の確保などの付加価値を求め、これまでになく中古住宅の需要が高まっている。事実、リノベーションした住宅やマンションの取引戸数は過去最高となる予測もある。
 いまこそ、建築の専門家の立場から、適切な維持管理を行った建物にこそ本来の「建物の価値」があることを、みんなで、もっともっと社会に訴えようではないか。

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