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『THE BATMAN-ザ・バットマン-』でマッド・リーヴスの苦労を勝手に想像したら胸が苦しくなった件

まずこの感想日誌は、テレビ局のバラエティディレクターという職業病的観点から楽しんでしまった映画素人の戯言だということだけ、先に言い訳しておく。

まず観賞前の時点で拍手を送りたい案件。
それは、”バッドマン”という世界的超人気シリーズの世界観やイメージを根底から覆して大ヒットさせた(&作品性すら高めてしまった)クリストファー・ノーランから引き継ぐというクリエイターとしては絶対に避けたい案件を引き受けたという事実だけで賛辞に値するマット・リーヴス監督。

だって弊社のカリスマ加地さんが引退して「アメトークとロンハーとテレビ千鳥は明日から芦田がやってくれ」と言われたら私はやらない。てかやれない。

だからもう観賞前から私の気持ちはマット・リーヴス寄りだ。
「大変だったろうなあマット・リーヴス…」「DCファンからの期待や罵詈雑言を一身に背負う覚悟…計り知れない重圧…」

だがしかし、この映画を見終わった後に真っ先に浮かんでしまったのは「ダークナイトと比べるとなあ…」という、所詮バッドマンをノーランシリーズから見始めたくせに”ダークナイトって革命的だったよねマウント”をとってくる輩が安易に言いがちな感想。

だがこれは同時にバッドマンシリーズにおいて永遠に絡みつく"ダークナイト以後”のトラウマでもある。ダークナイトを生み出したノーランですら、その後遺症に悩まされていたように見える。(結局ダークナイトの衝撃をダークナイトライジングは超えなかったように個人的には思えたから)

こんなふうに私みたいな中途半端な映画好きが「アメコミって好きじゃなかった(感情的に乗れない)けどダークナイトは違った」なんていう浅はかなノリで、全てのDC・マーベルを比較して語り始めるわけだ。しかも同時多発的に。さらにそんな客だけでなく、子供から幅広い年齢層までを網羅した文字通り世界的大ヒットが至上命題なのだ。

だから私はまずマット・リーヴス監督がどんなアプローチで"ダークナイト以後"の高すぎる壁にアプローチするのか?ここが楽しみで仕方なかった。

そして彼がとった差別化の最大のアプローチが"探偵物語"だったわけだ。

これは僭越ながら感想を述べさせて頂くと、素晴らしいアプローチだと思った。

さすが猿の惑星を見事リバイバル&リニューアルさせた男。
序盤は刑事サスペンスの傑作「セブン」や「ゾディアック」のごとく猟奇的な殺人犯の挑発的な殺人をバッドマンが警察と共に謎解きしていく。
ノーラン版にも増してダークな世界観、これ以上のダークヒーロー的役俳優はいないとも言えるロバート・パティンソンの美しさの中に潜む悲しげな表情も相まって良いスタートを切る。

だが個人的にはここからがあまり乗り切れなかった。
「セブン」かのような圧倒的恐怖と狂気を帯びる犯人をこれでもかというくらいに観賞者につきつけながらも、その真相・逮捕へと牛歩の如くジワジワジワと近づく、本格重厚ミステリーバッドマンで行き切って欲しかった。

探偵物語で始まった割には、どうも探偵としてのバッドマンは心もとないのだ。相棒刑事に頼り気味だし、謎解きのセンスは松丸くん並に抜群だが、冷静に見るとコナン的な切れ味溢れる推理力はあまり発揮してない。
そんな屁理屈は役者の存在感で忘れることは可能なのだが、結局は暴力で制してる感じが否めない。

ただもちろんアクションシーンや爆破シーンのクオリティは素晴らしい。IMAXで絶対に見た方がいいと断言できるほどの見応えもある。

だけど結局あのポール・ダノ演じる犯人の真の目的や動機は何だったのか?「ダークナイト」のジョーカーにはあった、我々観賞者すらも「ジョーカーの言うこと一理あるぞ…正義とは?」と思わせる、911以降の混沌とした世界を反映して、アメコミを超えた映画としての鋭い提示。

だが今回のバッドマンは、大爆発的テロを処理して人々を救いましたという大味なヒロイズムで終わるの?と個人的には拍子抜けしてしまった。(私が鈍感なだけだったらごめんなさいマット・リーヴス)

が、よく考えると、こんな薄っぺらな批評は同じく世界的大ヒットシリーズである「猿の惑星」のリメイクを乗り切ったマット・リーヴスが予見していないわけがない。彼が背負っているものは世界的大ヒットシリーズだ。
つまり世界的に大ヒットさせながらも、そこに自分にしかない個性を乗っけつつも、老若男女を劇場に向かわせる作品を作る必要がある。そのためには人々を興奮させるド派手なアクションや目に見えた勧善懲悪要素は必須だ。

そんな彼のバランス力みたいなものが、この探偵物語+アメコミド派手アクション勧善懲悪+切ない恋の融合という形を生み、ヒット映画としてはタブーとも言える176分という編集上がりになったのかなあとか色々監督の悲哀を想像してしまった。もちろん決してつまらないとかでは無い。

ただ、こちら鑑賞者側の膀胱との戦いは制することができないくらい長いことは確か。ポップコーンも早々に役に立たなくなることも確か。


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