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Netflixドラマ「First Love 初恋」をめぐる冒険

Netflixドラマ「First Love 初恋」全9話完走。
個人的にこの作品は"テレビドラマでは出来ない恋愛ドラマ(かつヒット作)をどう作るか?"という問いに対する徹底した研究・研磨の末に辿り着いた作品に見えた。
 
まず恋愛ヒットドラマの潮流とも言える(昨今の大ヒット韓国ドラマ的)壮大な時系列を徹底的に丁寧に美しく描ききるスタイルの完遂。
そして完遂しようとなると、”夏帆”は外せないのか…という夏帆の偉大さを知る全9話。

silentに続き恐ろしい演技力を見せつけてくれた

話を戻し、”壮大な時系列を徹底的に丁寧に美しく描ききる”に関してだが…

主人公たちの出生→丁寧な家庭環境描写→壮大な伏線回収に耐えうる丁寧すぎるほどの主人公を巡る青春時代の描写→就職→現在というように、鑑賞者に容易に簡略化、説明させないぞ!という意気込みが聞こえてくるほどに”季節”を超えた"時代"を紡ぐ。
 
「梨泰院クラス」ですら、パクセロイの高校時代は実年齢30を超えたパクソジュンに演じさせたわけだが、このドラマはそこすらも妥協せず、満島ひかりの青春時代は八木莉可子が、佐藤健は木戸大聖が演じきる。
似てる似てない、繋がりで感情移入できない諸刃の刃的な演出なんじゃ?なんて思いながら見ていたが、「そんなのは邪推ですよ」と言わんばかりに「ドラマの中にドラマが二つある」ほどのハイクオリティで作り込み、潔くやりきってくるから受け入れざるを得ない剛腕演出。

そして1話ごとに描かれるロケーション(ロケ場所)の切り替わりの多さは、地上波24時台でドラマ制作をしている我々としては、その労力と予算と時間に慄かざるを得ない。(そもそも比べる次元にないんだけど) 

今話題のテレビドラマ「silent」は、ハイクオリティな俳優陣と濃密な会話劇に舵を切ることで、場面転換の少なさを補い、「冷静に考えたら1話で全然話(時間軸)進んでなくね?」という野暮な揚げ足取りを許さない。

 一方で「First Love 初恋」のスケール感は、「現在のテレビドラマでは時間、予算、全てにおいて難しいだろ?」と大マウントをとるNetflixのドヤ顔が見え隠れする。 

だが、一つ気になるのは、この作品は、「良かった」という感想は非常に生まれやすいクオリティであることは認めざるを得ないと思うのだが、現在日本で最もバズっていると言える「silent」と比較したときに、「議論になりづらい(視聴者の意見が割れづらい)」のではないか?と(個人的に)思えることだ。

 つまり、「silent」でいう「青羽って実はピュアなフリしてめちゃくちゃなこと言ってない?だんだん感情移入できなくなってきた!」などとTwitterで発信したくなるような解釈の余白みたいなものが希薄なんじゃないか?

なぜならばそれは、圧倒的に丁寧に全てを描き切っているので、物語を鑑賞し終えることで視聴者の中でも全てが完結するから。

 しかしこれは、テレビドラマのように毎週最新話が更新されるというシステムではなく、”全9話一挙配信”というサブスクの放送フォーマットだからこそ、”あえて”議論の余白を残さない作りにしているとも思える。 

つまり、毎週の放送があるテレビドラマの場合、翌週への視聴誘導(引っ張り)=1週間の間でのSNSでの盛り上がりが必須となる。

だからこそ、先述したような”意見を言いたくなる”、”口コミがいのある”物語を戦略的に展開していく。
これは「あざとくて」の連ドラも同じ構造で、鑑賞中の意見をスタジオのリアクションワイプが担っており、”あ〜だこ〜だ言いながら見るドラマ”としての機能を最大限に高めている狙いだ。 

だが、繰り返すようにサブスクのドラマは(中には毎週更新の場合もあるが)多くの場合、一挙配信だ。

だからこそ、「物語として一気見させる」壮大なパワーを込める作り方になるわけで。話数ごとに起きる中間の細かな意見割れによる口コミよりも、「なんかあっという間にのめり込んで見切った!」という読後感を目的にすべきという狙いだと思うのだが、このスタイルが今の日本人にどれだけ広がっていくのかに非常に興味がある。

 実際Twitterで「初恋 Netflix」で検索してみると「最高」「一気見」「泣けた」「役者が最高」という具体性のない感想が多くを占める。これはこれで良い現象ではあるのだが、爆発的拡散力にはつながっていないようにも見える。 

この現象の構造は、こう言ったツイートを目撃した側の気持ちになれば、すぐにわかる。具体性のない賞賛は、「私も見よう」という視聴動機にはなかなか繋がりづらい。(自分もその語りに参加したい!意見言いたい!私も見たら意見言えそう?!→見よう!!の方が日本人の気質(古くは2ちゃんねるのような掲示板文化)に合っている気がするし、この要素を強く補完しているのが、今や番組公式すらも発信するようになっている「本編切り出し」の発信&拡散だ。以下、「silent」公式Twitterより) 

ちなみに、私が前半で長々と書いてきた、内幕はなんも知らんくせにドヤで書いているような”構造への批評”みたいなものも、ほとんどの場合、視聴動機にはつながらない。

「そんな堅苦しいこと言ってないで、黙って見て、黙って楽しんで、黙って泣けよ」と思う視聴者がほとんどだ。エンタメを構造解説して楽しむ層も立派な視聴者だが、こういう層はそもそもコンテンツ好きだから、話題になっているものは勝手に放っておいても見るわけだ。 

長くなったがとにかく、このスタイルのストロング配信恋愛ドラマがどこまで広がって”ヒット作”に成り上がれるのか?を注意深く見守っている。

この作品の成績で今後の日本の配信ドラマの作り方の指標が決まると言っても過言ではない気がする。多分過言だけど。



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