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その“写真”はアートかそれとも個人情報か

賛否が分かれる話を書く。

インターネットに投稿された1枚の写真から実に様々な情報を読み取ることができる時代になった。肖像権のある顔面はもちろん、指紋がDNA(遺伝子)と同じくらい個人情報として重要視されている今、指の腹が写るピースサインも安全ではなくなったと言えるかもしれない。

また、タレントが自撮りを投稿した際に、瞳に映る街の風景から自宅の場所を特定したというストーカー事件も実際に起こった。日本国内での話だ。カメラの性能が上がったことで誰もが容易に画素数の良い写真を撮ることができるようになり、さらにスマートフォンのカメラの精度もあがった今、そのデメリットが少しずつ可視化されてきたといえるかもしれない。

本題だ。
SNSで、作品と共に指定されたハッシュタグをつけて投稿するだけでエントリーすることができるフォトコンテストが頻繁に開催されるようになった。

働き方改革を筆頭にさまざまなものがデジタル化・リモート化する中、フォトコンテストもいよいよ写真として現像することなくデジタルデータという媒体で写真を応募できるようになってきているのである。

もちろん、格式の高いフォトコンテストに縁がなかったライト層を取り込むことで、より一層写真の文化的発展を期待しているということもあるかもしれない。主催者としても、広告費を使わずにコンテストの開催を周知させることができるため相応のメリットも見込めるのだろう。


だとしても、冒頭で述べた通り1枚の写真から様々な情報が読み取れるようになった今、入選するかどうかも分からないフォトコンテストのために作品がハッシュタグと共にネットに晒され続けている状況に私としてはどうしても抵抗があり、応募への一歩が踏み出せない。

もっというと、個人情報のみならずクレジットやロゴ、サインを入れていない写真を野ざらしにアップして盗作されることも懸念事項のひとつだ。悪質なものでは、絵師に有償で納品してもらった作品で金賞を取った人が問題になったケースもある。主催者がたまたま絵師のアカウントにたどり着き、事態が発覚した。発覚したからいいものの、盗作されたことに気が付かずに自分の写真がどこかで入選したとしたらどんな気持ちになるだろうか。少なくとも作品に込めた魂は死ぬ。


フォトコンテストから少し脱線するが、中にはあえて素人っぽい写真が欲しい人もいることを忘れてはならない。出会い系サイトのアイコンに自分の写真が使われていた、ということに気がつくことができた人は被害者の中で一体どのくらいいるだろうか。さらに、Twitterでなにげない平凡な赤ちゃんとの日々を綴ったアカウントの写真がすべて人の写真の転載だったという事案もあった。「私の写真が欲しい人はいないから」と自分の写真を軽く扱う人もいるが、じょうずな写真だけが狙われているわけではないことを心に留め置きいただきたい。


娘が生まれたことを機に、娘を被写体とした写真をたくさん撮影してきた。撮影総数はすでに数え切れないほどである。

顔が正面・横を向いているときは必ず文字やスタンプで加工するように家族で話をしているが、フォトコンテストだとどうだろうか。

さすがに作品の一部が意図的に隠された写真が入選することは難しいだろう。撮影した自分としても、1番こだわった被写体の表情を見てもらえないというのはどうにも不完全燃焼である。

思い出用に正面からの写真、SNS用に後ろ姿の写真と2パターン撮ったところで、人間どうしても真っ先に視線が行くのは人の顔だ。

そんなわけで、どんなに募集テーマが魅力的であろうと懸賞金がまぶしかろうと、SNSでエントリーするタイプのフォトコンテストには手が出せないまま今に至る。応募した順にエントリー作品が公開されるタイプのものも同様だ。「私はもうライト層ではないのだ」と言い聞かせて自分をなだめている。プリントした写真で勝負しなさいというお告げ、だと何度念じたことだろうか。


「フォトコンテストだったら、娘ちゃんの写真 無加工で応募していいかな」と夫に訊ねるとひとつ返事で「コンテストならいいんじゃない?」と返ってきた。どうせ入選しないだろうからという意味で受け取ったひねくれ者の私は、先日とっておきの1枚をとあるフォトコンテスト事務局に送った。

結果、その1枚が大賞をとって、撮影者であり保護者である私の本名、そして娘の顔と共に全世界に向けて公開されることとなった。

嬉し涙と冷や汗の半々で夫に見せると、夫も私としては同じリアクションだったのが可笑しい。

写真はアートだろうか、それとも個人情報だろうか。この線引きは今後ますます難しくなっていくだろう。


SNSのフォトコンテストにたくさんの顔写真がハッシュタグと共に投稿されていくのを見ながら、うらやましい気持ちも正直ある。そんな中、私は「正統派のフォトコンテストに応募するからいいの」と強がりを見せてこれからもカメラを構える。

Instagramでせめてスクリーンショットをできなくする機能がついたら有料でもお金出すのに、と思う今日だった。


2020/09/26 こさい たろ

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