〜逃れられない痛みの中に、明日の希望を見る〜
『ホットギミック ガールミーツボーイ』
制作 東映 AOI.Pro 配給 東映
監督 山戸結希
出演 堀未央奈/清水尋也/板垣瑞生/桜田ひより/間宮祥太朗 他
<<あらすじ>>
平凡な女子高生・成田初は、兄、妹、両親に囲まれたごく普通の家庭で暮らしていた。同じ社宅に住む幼なじみで昔から初の憧れの存在だった小田切梓。口は悪いが傷ついた初を励ましてくれる橘亮輝。初の兄で、ある秘密を持つ凌。初を取り巻く3人の男性との間で、彼女の心が揺れ動いていく。主人公の初役を堀が演じるほか、亮輝役を清水尋也、梓役を板垣瑞生、凌役を間宮祥太朗がそれぞれ演じる。
#レビュー
まず初めに申し上げておくこととして、僕は失礼ながら原作を読まずにこの作品を鑑賞した為、原作との比較はできません。ただ、この作品の公開が決まりキャストが発表された時、原作での性描写をどの様に映像化するか、しかも主人公の初を演じるのは乃木坂46の中心メンバーで映画初主演の堀未央奈ということもあり、好意的な意見ばかりではなかったと記憶しています。公開後のレビューも賛否両論。ただ、公開前よりも本質的な賛否両論とだなという印象を受けました。そこには、ただの恋愛青春映画にはない人間の醜い部分までしっかり描かれていることが影響しているのだと考えます。
このストーリーの大きなテーマは「コンプレックス」。
主人公の初を巡って登場人物各々の自尊心が見え隠れします。強く想うが故に誤解される様な言動しかとれない者、辛い過去が愛情を遮り傷つけることしかできなく怒りに頼ることしかできない者、関係を超えて愛を感じるも逃げることしか方法が見つからない者、嫉妬心から大人びて自分の方が上に立っていると信じ込もうとする者...。それぞれの強がりや意地が、ストレートに初にぶつけられ真正面から傷ついていく初。そんな初も、極端な自己肯定感の低さから、人のことを信じたい気持ちはあっても何が本当で何が嘘か、そして自分が何を思うのかさえも分からなくなってしまう。
まさに思春期に見られる「アイデンティティの探索」ですね。
そんな不安的な登場人物たちが、理不尽な事実やどうにもならない壁にぶつかり、お互い傷つき傷つけられ、強がることで保っていた自尊心が崩され自らのコンプレックスと真正面から向き合うことを余儀なくされます。
目を逸らしていたことと向き合い、見苦しい自分に対峙した時、「自分には何もない事」を知る。正直になって初めて嫉妬や強がり、怒り、葛藤から解放され「本当に自分が大切にしたい事」に気付かされます。
亮輝の言葉にこんなものがありました。「生まれて初めてバカになったんだ。」この言葉が彼にとってどれくらい重いか。人生が変わった瞬間だと僕は感じました。
生きていく中で傷つくことから逃れるのは難しい様で案外簡単なのかもしれまん。ちょっとずつ傷つくことはあっても、最小限で抑える術を大人になるにつれて知っていくのでしょう。でも、自分が自分で良かったと思える心って、そうやって予防線を張って、意図的に心を鈍感にしていくことで失われていく。心から幸せって思えるかどうかは、傷ついても自分の気持ちに正面から向き合うことでしか得られない。
だからこそ、
「思いっきり傷つけ!若者よ!妥協なんて気が早い!自分に正直であれ!」
僕はそういうメッセージを受け取りました。
こういうメッセージって、描き方にはよってはとてもイタい作品にもなりかねないと思うんですね。綺麗事としか捉えられない描き方をしている作品だってあるでしょう。この作品にある種の説得力があるのは、山戸監督の演出にあると思います。
山戸監督は『溺れるナイフ』で世間に衝撃を与え、生々しくエグたらしく人間味溢れる描写で注目を集めました。この作品でも初の不安感や周りの嘲笑感がテンポの良いカット転換、セリフの掛け合いで生々しく、時に照明やBGMを効果的に使い官能的に。キスシーンが場面転換に使われるのが印象的です。この人に思春期を描かせたら右に出る監督はいらっしゃらないんじゃないかと思う程、その不安定さゆえの綺麗さと見苦しさ、繊細さと雑さが描かれていました。
希望だけに溢れる前向きな若者なんていないですよ。御都合主義に若者を解釈せず、抱えている悩みをできる限りリアルに、そしてそれを乗り越えようと見苦しくもがく姿を描くことが山戸監督の優しさであり最大限のエールなのだと思いました。
そしてその演出に最大限今持てる力で応えた堀未央奈は素晴らしい演技でした。初の純粋がゆえの情緒不安定さや涙を流す姿はまさに「初」でしたし、時折見せる屈託のない笑顔は「堀未央奈」のものでした。演技論なんて語れませんが、彼女の人生から来る普段ファンには見せない苦しさは「初」と共鳴する部分があったのでしょうし、亮輝とのやり取りで一瞬見せた笑顔は、初の面が抱える苦しさが取り払われた「堀未央奈」の純粋な笑顔でした。
漫画原作恋愛映画に抵抗感ある方はいらっしゃるでしょうが、若い役者さんが純粋な気持ちのまま体当たりで試行錯誤し、経験を積んでいくその姿はとても魅力的に思いますし、描かれるキャラクターと同年代の子たちがどう感じるかをとことん大切にして今後も一人でも苦しんでいる学生が救われることを望んでいるし、そういうものを作れる人間にならなければと思います。
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