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考察『華氏451度』・思考を捨てるな

ビジネスで生き残るために必要なのは
「スルースキル」
吾輩をエグエグ泣いていても
そんなもんは流せと周囲によく言われては
そもそも、流せてたら泣いてなくない?
と考えていた

スルーするのと思考を止めるのは違う

簡単な例として、こちらに非がないのに
お前のせいだと言わんばかりの人に遭遇したら、もはやスルーしたほうが楽かもしれない

でもそれは、思考を止めるのとは違う
そのことで傷ついたのなら
その傷ついたことは受容する
なかったことにはしない
無理に悲しみを止めることもしない
ただ受け入れる
その上で流す
酒を飲んで忘れるだの、娯楽で気を紛らわすだのは一時凌ぎにはなるけど
こびりついた思考に蓋をすれば
再燃して怒りとなるかもしれない

現時点での世界は
手短で面白いコンテンツに溢れている
マスコミニケーションから
多種多様な個々の好みに合わせた
ターゲット広告がでるようになった
(個人情報保護の動きでまた変わったけど)

我々は流れてくる広告やコンテンツ動画を
たった2秒で判断し
その動画から離脱するかを決断してる
我々にはまるで「余暇」がない

華氏451度

感想

1950年代に書かれたSF小説だが
まるでこの現代を言い表してるかのような
鳥肌もの作品であった
まさに名著

小説では主人公目線で描写がされるのだが
そんな単純化された思考の世界だけど
嫌に細かく繊細に描写されてる
ここまで世界をあらゆる比喩で細かく切り取れる主人公なのに
いやだからこそ、気がついてしまった
抑え切れぬ知的好奇心

その様は誰にでも(誰かには)
身に覚えがあるのではないだろうか
単純化された平易な世界に
深い情報を、観察の、考察のその先に
新しい真理を掴もうとしたことが

誰か一人が各分野の詳しいことを知ってるわけではないだろうから、
世界に対して疑問を持つ時、
その分野の研究者に話を聞けるチャンスは多くもないし、その研究者が分かりやすい本を出してるとも限らない

だから世界はいつも謎に満ちていて
ちっぽけな自分一人の知識では
何も読み解かないかもしれない

それでも知りたい
なぜなのか、それは馬鹿らしいことだろうか?

考えすぎなんだろうか
考えすぎたら人は不幸になるだろうか

考えないことが幸福なこだろうか

他者と話す時、
その他者の顔を見ているだろうか
月の話をするとき、雨の話をしている時
そこに目をやり、雨の感触を
花のディテールに目をやってるだろうか
私たちは忙しないファストな娯楽に身を埋めては、五感鈍らせている 

その一瞬をいつも見逃している
食事をするときの、一口目を
耳を掠める街の音も樹々のざわめきも
形を変える雲に気がつくこともなく
スマホやPCの光を眺めている
今まさにこの瞬間も

仕事では要約が求められる
より早く、より早く、
ファクトを詰め込んだデータが必要だ
熟考する時間などない
より早い決断がビジネスの肝だ
だって市場は瞬く間に変わってしまう
だから良くも悪くも素早い決断が
あっという間に勝敗を分けてしまう
我々は食べていかなければならないのだから
お金を稼がなけりゃいけないのだから
それは正しいはずだ

社会に適合するためには
適度にバカでなくちゃならない
適度に賢くなくちゃならない
なぜ、なんでとか
そんな疑問を挟んで頭のリソースをとられたら
タスクがこなせないじゃないか
自分のレイヤーがオペレーターなら尚更だ
正確に、早くこなすことが仕事なんだ
クリエイティブに企画を考えることが役割じゃないなら、与えられた指示を実行して、疑問は適度に全てを受け流せ

全ては最適化なんだ
無駄な研究なんていらない
社会を研究する?無駄なことだ
それより経済学を身につけろ

哲学なんて何の意味がある?
思想にふけるのは政治のためか?
争いたいイデオロギーなんてあるのか
そんなことよりもファクトを掴め
データサイエンスを極めるんだ

伸びる分野に研究資金は投入する
それはそうだ
無駄は省け
それもそうだ

でも

何かを知りたいという好奇心の情熱が
産業を伸ばしてきた
日の目を見るまで全ては無駄にしか見えない

結局のところ、幸福も仕事をやりこなすにも
今この瞬間のあるがままを見つめ
そして
自分を掘り下げていかないと手に入らない
ずっとずっと奥に入っていくにも
必要なのはその観察眼であり
語彙であり知識

他者との関係も
自分の奥深くに入らなければ安定していかない
愛を知りたいのなら
炎の意味を知らないと掴めない

人間は考える葦である
様々なことを観察し、思考してる
頭のモヤをとりたいのなら
本を読み、ペンを取り、
自分自身の海へとダイブする

本に答えそのものはない
でも、先人の知識は必ず人を助ける

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以下、本編の解釈メモ

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