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記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。

映画「アリスとテレスのまぼろし工場」感想

この記事について

  • 映画を観た感想、それも映画の内容自体についての感想というよりは、映画をみて思ったことをつらつら書くだけ、という感じです。作品の内容に踏み込んだ考察は(あんまり)しません。

  • ネタバレには配慮していません。

  • キャスト、スタッフの方々については敬称略です。

本題の前にいくつか

感想をひとことで

観終わった後に、情緒がかき乱されているのを感じる、そんな映画だった。
この映画を知れて、そして劇場のスクリーンで観ることができて、良かったと思う。パンフレット買っちゃいました。

観たきっかけ

8月に「特別編 響け!ユーフォニアム〜アンサンブルコンテスト〜」を観に行った時の予告編で流れていた。映像は綺麗だったし、キャストは自分の好きな、実力派が揃っていたし(私はテレビアニメ「SSSS.DYNAZENON」で榎木淳弥が演じる麻中蓬も、「SSSS.GRIDMAN」で上田麗奈が演じる新条アカネも大好きだ)、主題歌が中島みゆきというのも面白いと思った(同氏の歌声も好きだ)。
9月中旬公開ということで、ちょうど自分に暇ができるタイミングだというのもあって、劇場まで足を運ぶことに決めた。

映画を観て思ったこと

自分の好み

たまに、私は尖った作品が好きな人だ、と評されることがある。
私が好きなアニメ作品を聞かれたら、「がっこうぐらし!」と「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」を真っ先に挙げる。どちらも、観る人をある程度選ぶ、という点では、尖っていると言えると思う。
そういう意味では、本作もなかなかに観る人を選ぶ作品ではないかな、と思う。ストーリーラインはそんなに難しくないけど設定は複雑だし、ヒロインは登場するなりスカートをたくし上げて下着を見せつけてくるし。
でも、私がこの作品を好きなのは、当たり前の話ではあるが、何も観る人を選ぶ作品「だから」というわけではない。

これは昔から自覚しているのだが、私は、「自分ではどうにもならない巨大な不条理の中で、生きようとする人の物語」が好きだ。
先の例で言うと、スタァライトはこれに当てはまるかは微妙だが(実際、自分が同作を好きなのは、主に別の理由からだ)、「がっこうぐらし!」はまさにそれに当てはまる。ゾンビの大量発生という、一介の高校生にはどうにもならない、のうのうとしていたら自らの命も危ない、そんな状況の中、主人公たちは「学園生活部」という架空の部活動に参加している体で、一日一日を頑張って生きようとする。
このほか、「魔法少女まどか☆マギカ」などが、自分の好みにドンピシャに当てはまる。私はウルトラマンシリーズが好きだが、ここに含めてもいいかもしれない。

そして、本作「アリスとテレスのまぼろし工場」も、まさに自分の好みにストレートに当てはまる。
詳細に紹介することはこの記事の目的ではないが、作品のあらすじを必要な限りで抽出すると、以下のとおりだ。
120分のストーリーをちゃんと要約しているわけではないので、ちゃんとしたあらすじを知りたければ、記事冒頭にリンクを載せた公式サイトに飛ぶか、劇場で本作を鑑賞するのをお勧めする。

  • 製鉄所が爆発し、街全体が外の世界と隔絶されてしまう。

  • 街を維持するために、変化が禁じられ、何事においても現状維持が求められる。ある人の感情に著しい揺れ動き(例えば、他の人に恋をするなど)があると、その人は製鉄所から発生する煙のようなものに呑まれ、街から消されてしまう。

  • しかし、街の消滅が迫っていることが明らかになる。

  • 主人公の菊入正宗は、この街に迷い込んできた将来生まれるはずの自分の娘・五実を、隔絶される前の元の世界に戻そうとする。

変化が禁じられた世界。そこでは、誰かに恋をすることも、将来の夢を新しく持つこともできない。正宗に恋をした園部も、DJになりたいという夢を抱いた仙波も、彼らが生きる世界から消されてしまった。実に不条理でありながら、どうにもならない世界。
そんな世界の中で、14歳の中学生たちが、誰かに恋をしたいと思って、あるいは五実を元いた世界に戻すために、必死に生きる姿。そんな彼らの姿に、私は心打たれるのである。
だからこそ、クライマックスの、貨物列車?での正宗・睦実と五実のお別れのシーンに、より感情移入できるようになる。私は、ポケットからハンカチを取り出して目元を拭わなければならなかった。本作で泣くとは、まさか思っていなかった。

上に書いたあらすじの要約の分かりづらさ(自分でもそう思う)に顕れているように、本作は、「こういう話だ」とパッと説明することが難しい。(自分の語彙力と読解力と文章力が足りていない自覚はあるので、そのせいかもしれないが)
しかし、冒頭にも書いたように、本作を観終わった後は、情緒が掻き乱されている感覚を覚えた。変な高揚感と、緊張感が同居しており、尚且つ頭が上手く回らない、そんな感覚だ。
なので、私はこの映画のことを理解できているとは全然思えない。思えないのだが、この映画を観てよかった、とは強く思う。
「劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト」や「グリッドマン ユニバース」のように、短期間のうちに何度も繰り返し観たくなる中毒性があるわけではないが、小さい時にファンタジー小説を読んだときのように、大切に胸にしまっておきたい物語だと、そう思った。少なくとも、今誘われたら二つ返事で観にいきたいと答える作品ではある。

思い出した映画のこと

本作を観ていて、思い出した映画がある。
2年前に公開され、どちらかというとネタにされる方向で話題になった、「えんとつ町のプペル」だ。

私も、この作品を、作画目当て半分、冷やかし半分、という感じで観に行った。映画自体は可もなく不可もなく、という感じの映画で、内容自体は取り立ててネタにされるような類のものではなかった(監督と結びつくことでネタにされる内容ではあったと思うけど)。

「えんとつ町のプペル」でも、町全体にしきたりのようなものが存在する。
詳しくは忘れてしまったが、それは、「外の世界の存在を信じてはいけない」というようなものだったように思う。
そして、主人公のルビッチは、ゴミ人間(文字通りゴミでできた生命体ということ)のプペルと共に、人々に外の世界を信じさせようと、あるいは見せようと、奮闘する、という内容で、映画は進んでいく。

本作を観ていて思ったのは、「プペル」はもっとやりようがあった、ということである。
「プペル」だが、話の筋自体は決してつまらないものではない。しかし、話の筋以上に、話が膨らまなかったような印象があるのだ。
主人公たちが、上に書いた目的のために頑張る。終わり。みたいな内容ではなかったか、ということである。
(2年前に観たっきりだし、なんなら途中15分間くらい寝ていたので、印象にないだけかもしれない。同時視聴とかやってるVTuberがいれば、片手間に見返してみるのもありかもしれない。)

その点本作は、大きな話運びは前節に書いたとおりなのであるが、その中に、正宗と睦実の恋模様(にとどまらない関係性の掘り下げ)、正宗とその同級生が中学生らしく生きる様など、さまざまな要素をピックアップすることができる。ここに書いたのは映像で起きていることそのものだが、映像から考察に値するテーマを抽出することも、たくさんできるだろう。
つまり、本作は、「プペル」と類似の世界観を前提にしつつも、より豊かな鑑賞体験を、観客に与えてくれる。くだけた言い方で言えば、「上位互換」と言ってもいいかもしれない。
「プペル」も、本筋以外の部分で、もっと頑張れたのではないか、そんなことを、本作を観ながら思った。

恋することが持つ力

「恋には、世界を変える力がある」
どこかで聞いたことがあるような言葉かもしれない。(なお、検索してもヒットしなかったので、勝手に自分がそう錯覚している可能性もなきにしもあらず。)
本作も、すごく平たく言うと、恋することによって世界が変わった、そういう筋の話だと言ってよいのではないかと思う。

何が言いたいのかというと、この言葉、大袈裟な物言いではあるが、方向性として間違っているとは、私は全く思わない、ということである。
(もはや映画の内容とは全く関係ないが、映画を観てなんとなく思ったことではあるので、つらつら書いておく。)
少なくとも、「恋には、人を動かす力がある」という程度の限りにおいては、私はこれに全面的に賛成する。
何でここまで断言しているのか、ということであるが、それには自分の実体験が関係する。

私は、昨年末から今年の3月くらいまで、マッチングアプリに手を出していた。
そのきっかけだが、友人からの勧めで、酒の勢いでインストールしてしまった……なんて言うのは容易い。
やはり、恋人が欲しい、そう思ったからこそ、3ヶ月もだらだらとアプリを触っていたのだ。
アプリをインストールした記憶はお酒に消されてしまったが、その後で課金ボタンを押して、クレジットカードの番号まで入力したのは、間違いなく自分なのだから。

アプリをインストールするだけでは、もちろん恋人はできない。やはり、異性として見られるだけの最低限の身なりは整える必要がある。
だから、今までは1000円カットで済ませていたところを原宿まで美容院に行ったり、友達に着る服を選んでもらったり、はたまたアプリのプロフィールに使用する写真を撮ってもらったりした。
つまり、友達など他人に背中を押されながら、というよりは、重たい腰を持ち上げられながらではあるが、私は、恋をするために、今まではやっていなかったようなことをし始めた、と言ってよい。
だから、「恋には、人を動かす力がある」ということには、私は賛成せざるを得ない、ということである。

アプリを触っていた結果がいかようになったかは、ここでは触れない。ここは一応色んな人から見られる場所だし、結果を明らかにする必要もないからだ。
ただし、アプリを触って、そのために色々したこと、大袈裟に言えば恋するために色々行動してみたこと、これは決して無駄にはなっていないと思う。それは今の、それから将来の自分を形作る一つの経験になっているのだから。もちろん、恋人の有無にかかわらず。

そして、正宗たちこの映画の登場人物にとっては、恋することは、自らの身の消滅をも招く行為である。閉ざされた世界は、恋することを良しとしないからだ。
でも、そんな世界でだって、恋したっていいじゃないか。だって、恋には世界を変える力があるんだから。
そう、誰に向けてでもなく、つぶやきたくなる。

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