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物語る技術を考える - 主人公の成長について

物語には法則や文法があるらしい

昨年は、物語論や作劇術など「物語る技術」に関する本を読み漁った1年でした。

最初の一冊は大塚英志さんの「物語の体操」だったのですが、才能やセンスではない、理論的で学習可能な「物語る技術」というジャンルがあることを、この時はじめて知りまして、めっちゃドキドキしてしまいました。

小説を<秘儀>の領域と学習可能な領域に腑分けしていく作業は結果として小説を書くという行為を徹底してマニュアル化していくことにもなります。それがこの講義の二つ目の意味あいで、ぼくはそこで小説を書くという「宿命づけられた」行為をどこまで普通の人に「開いて」しまえるかをこの講義で実験してみようと思います。

「物語の体操 物語るための基礎体力を身につける6つの実践的レッスン(大塚英志)」

「物語」には「物語」を「物語」たらしめる内的な論理性があり、それは「物語の構造」とか「物語の文法」と呼ばれるものであることは、本書の姉妹編である『物語の体操』や『キャラクターメーカー』などで繰り返し説明してきた通りです。
(中略)
では幸運にも「物語の文法」を幼い頃に「母語」の如く習得した子供しか、「物語の作者」たりえないのでしょうか。結論から言えばそうではありません。

「ストーリーメーカー 創作のための物語論(大塚英志)」

お酒やタバコ、ギャンブル、ゲームなどの趣味を持たないのですが、そんな私の唯一かつ最大の娯楽が、マンガ・小説・映画などの「物語」に没頭して「感動」することで、つねに物語を摂取していないと禁断症状が出るほどに、もう中毒だなと自覚しています。

かねてより「面白い作品には法則性があるな」というのは、なんとなく感じてはいたものの、はっきりと言語化したことはありませんでした。ふわふわとしていた「面白さ」が、論理的な説明にハマっていくのは非常に刺激的なことでした。

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昨年読んだ、物語や文章に関する本たち。

ジュビロ師の著書が多いのは、私が「うしおととら」や「からくりサーカス」のファンであるのはもちろん、彼の方が面白い物語を生み出すための、独自の方法論を築いているという話を、各所で目にしていたからです。実際「読者ハ読ムナ」は創作者におすすめの一冊です。

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さて、前置きが長くなりましたが、そんなステキな理論があるなら是非とも学んで、私も面白い物語を創作したい!!!

これらの本を読んでると、だいたいみんな同じことを言っている部分に気づいてきます。

ははん、なるほど、これが物語の基本なのだな。

主人公の成長について

<軌道>とは、各登場人物の<旅>の始まりから中盤、結末に至るまでに起こる<変化>のことである。彼らが変化したり、人生に影響を受けたりするほどの素晴らしいストーリーであれば、必ず観客の心は動く。実は太古の昔から、優れた物語にはいつでも登場人物全員の成長や変化が描かれているものである。

「SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術(ブレイク・スナイダー)」

人はキャラクターの成長が大好きだ。

セラスだってファルネーゼだって桑原だって、人気のなかったポンコツキャラでも、物語の中で成長した姿を見せたとたんに評価は爆上がりして、一気に推しキャラに昇格ですよ。

特に、主人公の成長は物語の魅力に直結する重大問題です。

「スラムダンク」と「ディアボーイズ」

成長する主人公と言えば、私が一番に思いつくのは「スラムダンク」の桜木花道です。

ド素人がバスケットを始めて、リバウンド王、バスケットマンへと、信じられない速度で成長していく桜木花道の活躍に、最終回までドキドキ興奮が止まらない最高の物語でした。

いまだに、定期的に読んでは、最後の山王戦で涙しています。

スポーツモノというのは実に安定したフォーマットです。

基本的に対戦があるため、ライバルが設定しやすい。
得点・成績・順位など、能力や成績の比較が数値で表せるので伝えやすい。
練習期間という<訓練フェーズ>から、試合という<成果フェーズ>への流れが繰り返されるため、キャラクターの成長を見せやすい。

同じスポーツマンガである「ハイキュー」や「アオアシ」も名作ですが、それらと比べてもなお、スラムダンクの面白さが頭一つ飛び抜けている理由の一つに「ド素人からスタートして全国王者に勝利する」という、とびきり大きな<成長の幅>があるように思います。

キャラクターが成長を見せた時、読者は興奮を覚えますが、どうやらこ成長の振り幅が大きいほど、興奮の度合いも高まるようです。

同じく高校バスケ部を扱ったマンガで、主人公の成長という点で対照的な作品に「ディアボーイズ」があります。

ディアボーイズの主人公 哀川和彦は全国王者である天童寺高校からの転入生です。

主人公はスタート時から最強レベルで、物語を通して成長するのは主にチームやチームメイトであり、あまり主人公が成長していく物語という印象はありません。

もちろん、まったく成長しないわけではないのですが、なにぶん最強からのスタートなので、どうしても「微々たる」という感じは否めません。

何事にも言えることですが一般的に、習熟すればするほど、さらなる習熟の度合いは緩やかになっていきます。

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AとBは同じ時間幅ですが、成長の幅はダントツでAの方が大きくなります。もしストーリーとして取り上げるなら、Aの方が断然面白くてオイシイわけです。

主人公の成長度だけで見ると、Aの物語がスラムダンク、Bの物語がディアボーイズとなります。

スラムダンクが名作たりえているのは、Aの期間のみでスパっと終わったことで、第1話から最終回まで、花道の成長の勢いが止まることなく、読者をずっとドキドキさせ続けることができたからなのかなと思うのです。

知ってましたか? スラムダンクってたった4ヶ月間の物語なんですよ。4ヶ月の間にド素人から山王工業を倒すまで成長する物語って、そりゃあ興奮が止まらないわけです。

主人公への感情移入 = 物語への没入

いろいろな物語論・作劇術の中で共通して特に重要と語られている要素が「いかにしてキャラクターに感情移入してもらうか?」ということです。

どんな映画にも必ず主人公は存在する。映画はすべて主人公についてのストーリーであるから、観客が注目したり、共感したり、応援したくなる主人公、しかも映画のテーマを客観的に伝える主人公が一人か二人は必要なのである。

「SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術(ブレイク・スナイダー)」

広範な読者を得たいと思えば、ヒロイックな資質を備えた、読者の共感をえられるような主役を、作品に配すべきである。
というのも、読者はこの主の登場人物に一体感をいだきやすく、喜んでそうした人物を応援しようとするからである。好感をいだいたり、共感をおぼえる登場人物がいないと、読者は次になにが起きるのだろうかと興味を抱かなくなるのである。

「ベストセラー小説の書き方(ディーン・R・クーンツ)」

物語において<主人公の成長>が重要である理由は、「感情移入」を促進させるためです。主人公へ感情移入することは、イコール物語へ没入することだからです。

主人公に感情移入してもらうためには、読者に好まれ、応援したくなるような人物であるということが重要です。

そこで、<主人公の成長>が重要になります。

人が成長していく姿が嫌いな人なんていません。ぐんぐん成長を見せてくれる人物に心惹かれるのは、誰だって同じです。

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主人公を「応援したくなる人物」にするために、物語の中で<成長>させることが肝要なのです。

なろう系作品におけるチート主人公について

なろう系の作品では、主人公が能力的に最強でスタートする、いわゆるチート能力持ちのパターンがよくあります。

主人公が最強から始まってしまうと能力的な成長を描くことができませんので、環境的にどん底からスタートさせることで社会的な成長(出世・成功)を描くことが多いようです。

「能力では最強なのに、環境的にはどん底」という矛盾を説明するのにちょうどいいのが、「異世界転生」や「パーティ追放」という、なろうフォーマットですね。

それにしても、異世界転生というのもよくできたフォーマットです。

まず、生まれ変わることで、ゼロベースからの成長を開始できる。

そして、十人並の成長では物語にならないため、主人公は突出して成長する必要がありますが、そのためには才能や素質などの読者が納得できる理由づけが必要です。

その点、異世界転生では、もれなく前世の記憶(+ チート能力)がついてくるため、それが主人公が特別である理由付けになっているし、主人公には前世の常識があるため、異世界ではいい具合に型破りで浮世離れした刺激的な人物となる。なにより、現代人的な価値観を持っているため、読者がすんなりと共感することができます。

これ以降の話は、極個人的な好みの話になるのですが、私はこのチート能力というのが苦手で、あまりに理不尽な能力だと、主人公に感情移入できなくなるんですよね。

主人公を「応援」したくならないんです。

やはり、成長や成功というのは、それにふさわしい努力の上にあって欲しいし、だからこそ応援する気持ちにもなります。

努力や苦労が伴っていない成功は、理不尽なものに思えてしまいます。対価と報酬が釣り合っていない気持ち悪さがあり、心情的に受け入れがたいのです。

同じ理由で、MMORPG系・ゲーム世界系の物語にもハマることができません。主人公の能力のバックボーンが「ゲーム」というのが、どうにも応援や尊敬に結びつかないのです。

一方、前世で習得した技術や知識がバックボーンになっていて、それらを駆使して、勢いのある成長を見せてくれる作品は大好物です。

小説家になろう オススメ作品

以下、小説家になろう作品の中で、オススメの主人公が成長する物語です。

本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~
すぐにぶっ倒れる貧民の虚弱幼女からスタート。前世の知識によるモノづくりによる成功から、巫女、貴族、女神の化身と、章が進むごとに下剋上していく、主人公の成長と出世ぶりが痛快な名作。

蜘蛛ですが、なにか?
最弱の蜘蛛モンスターからスタート。弱肉強食のダンジョン世界で知恵をこらして生き残る。異世界のルールを把握して、すごい勢いで強モンスターへと成長していく過程が大好き。

亡びの国の征服者~魔王は世界を征服するようです~
亡びかけた国の田舎貴族の息子からスタート。研究者だった前世の記憶を頼りに、豊富な科学知識と、ひたすらに現実的な思考によって、敵方から魔王と呼ばれるほどの、戦時の英雄となっていく。

フシノカミ
貧農の息子からスタート。前世の記憶に残る文明的な生活を取り戻すため、文字を覚えるところから始めた少年が、田舎の寒村を仰天させ、辺境の領都を発展させ、王国を震撼させ、世界を変革する。

これ以外にも好きな作品はたくさんありますが、とにかく、主人公の成長がしっかりと描かれている物語は、もれなく面白いなあと思うのです。





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