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【映画】岸辺露伴ルーヴルへ行く《心地よい不協和音》

NHKで放送されていた「岸辺露伴は動かない」実写版が映画化。
原作は漫画「ジョジョの奇妙な冒険」のスピンオフ作品。

実写化の難しそうな漫画でありながら、ドラマ版がなかなかおもしろかったので、原作未読で今回、観に行きました。

特殊能力を持つ、漫画家・岸辺露伴は、
青年時代に淡い思いを抱いた女性から
この世で「最も黒い絵」の噂を聞く。
それは最も黒く、
そしてこの世で最も邪悪な絵だった。

時は経ち、
新作執筆の過程で、その絵がルーヴル美術館に
所蔵されていることを知った露伴は
取材とかつての微かな慕情のために
フランスを訪れる。
しかし、不思議なことに
美術館職員すら「黒い絵」の存在を知らず、
データベースでヒットした保管場所は、
今はもう使われていないはずの地下倉庫
「Z-13倉庫」だった。
そこで露伴は「黒い絵」が引き起こす
恐ろしい出来事に対峙することとなる…。

映画公式サイトより引用

奇妙で不気味で美しい、人間の織りなす物語

ドラマ版を観ていた時から思っていたのですが、このドラマ、音楽が特徴的で良いですよね。

弦楽器の不協和音が際立つBGM。

それでも、その不協和音が美しい。

この音楽の特徴が、まさにこの物語も象徴していると思います。

奇妙で不気味で、ホラーと見紛う展開もあるが、そこに必ず人間の情念が絡んでいる。

そんなところがちゃんと「ジョジョ」をやっていて、好感を持ちました。

この映画も、ドラマ版が持っていたそんな特徴をしっかりと発揮してくれて、良かったと思います。

意外とちゃんと伏線回収してくれる

ジョジョといえば、その特徴として、独特なストーリー展開が挙げられると思います。特に最近の作品は客観的かつ論理的な展開というより、漫画らしいハッタリを多用した哲学的な展開が多い。

そんな展開が絵と相まって唯一無二の雰囲気を作り出していると思いますが、独特すぎる展開は時に観る者を振り切って彼方へと飛んでいってしまう恐れも内包しています。

しかし、今作は、序盤、訳がわからなかったところも、ある程度は説明できていて、最後まで観れば比較的納得しやすい展開になっていると思いました。

そんなところも観やすいエンタメ作品としてのラインを保っていて良いと思います。

好奇心を刺激して、日常の解像度を上げる

この世で最も黒い黒とはなにか。

これがこの物語を終始動かしていく大きなテーマの一つです。

世界を救いたいわけでも、愛の物語というわけでもない。

一言で言えば、好奇心がこの物語のエンジンです。

黒なんて、他の色に比べれば、議論の余地がない絶対的で一義的な色だろう、と私はそれまで考えていました。

黒と白は別格。
双方共に、色の極致だろう、と。

しかし、黒にも種類がある。
一義的と思っているのは、常識に縛られた自分の固定観念のせいであり、虚心坦懐に見つめれば、そこにはさまざまなものが見えてくる。

たとえば、死と一言で言うけれど、そのようなものはない、とどこかで聞いた覚えがあります。

心臓が止まっても脳はまだ脳波を出していたり、各細胞は生きていたり、詳細は順番等違うかもしれませんが、要は、脳や心臓等の重大な臓器が停止したとしても、部分によってはまだ生きていると判断できる部位もある、では、どの段階を死と言えるのか、という話だったかと思います。

この映画で黒について考えさせられる時、そのようなことを思い出しました。

日常でなにも疑問を持っていなかったことについて、改めて好奇心を持って新たな知見を得るきっかけを作ってくれる。 

日常の解像度を上げてくれる。

そんな側面も、この映画にはあると思いました。

反面、わかりやすい切羽詰まった強力な理由のある物語ではないので、好奇心をエンジンとした上記テーマに共感できる探究心がないと、やや感情移入しづらい映画になる可能性もあるかもしれません。
とはいえ、そこにミステリーやホラーも絡めてくれるので、多くの人は楽しめるとは思います。

まとめ

露伴の過去にも迫る本作、その奇妙で美しいストーリーテリングに興味がある人は、ぜひ観てみて下さい。

あと、当初思っていたよりはルーヴル、あんまり出てこないです笑

(トップ画像は、劇場で配られた特典のハガキ写真)

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