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『プレイス・イン・ザ・ハート』:1984、アメリカ

 1935年、テキサス州ワクサハチー。エドナ・スポルディングと夫で保安官のロイス、幼い息子のフランクと娘のポッサムは、一緒に朝食を取り始めた。しかし保安官補のジャックが来て「黒人のワイリーが酔っ払って線路で暴れてる」と告げたので、すぐにロイスは出掛けた。
 現場に到着したロイスは、穏やかな調子でワイリーに話し掛けた。ワイリーは空に向かって発砲した後、誤ってロイスを射殺してしまった。ロイスの遺体が自宅へ運び込まれ、エドナは悲しみを堪えて子供たちに事情を説明した。

 ワイリーは白人の男たちからリンチを受けて殺害され、スポルディング家の前まで車で引きずられた。エドナの姉であるマーガレットがロイスの死を聞いて駆け付け、男たちに立ち去るよう要求した。町外れの空き家へ車で出向いたヴァイオラは、不倫相手であるウェインと密会した。
 ロイスの死を聞いたウェインは、弔いの客が集まっているスポルディング家へ赴いた。ウェインは妻であるマーガレットから「もし貴方に何か起きたら。私には貴方だけよ」と泣いて言われ、「僕もだ」と強く抱き締めた。

 ヴァイオラは夫のバディーと共に、スポルディング家を訪れた。エドナはマーガレットに、「私には家族を養えない。子育てと家事しか経験が無い」と弱音を吐いた。翌日には葬儀が執り行われ、ロイスの遺体は墓地へ埋葬された。
 その夜、マーガレットが残って後片付けの手伝いをしていると、1人の黒人男性が来て「何か仕事はありませんか」と問い掛けた。不況で仕事が見つからない中、彼は雑用をさせてほしいと頼んだ。エドナは「何も無いわ。食べ物ならあげます」と言い、食事を与えた。

 翌朝、エドナが起床すると、黒人男性は薪を割っていた。エドナが困惑しながら「人では必要ないと言ったでしょ」と告げると、男は「薪が無いのに気付いたので」と口にする。
 エドナが「朝食を出すから、食べたら出て行って」と話すと、彼は「鶏舎の修理や乳業の世話をする人間が必要だ。人手があれば綿花も栽培できる。雇ってもらえませんか。食事と寝る場所さえあればいいんです」と頼んだ。エドナが「悪いけど、雇えません」と断ると、男は銀のスプーン一式を密かに盗んで立ち去った。

 ファースト農業銀行の貸付担当であるアルバート・デンビーがエドナを訪ね、ロイスが家を購入した時に借りた金の返済期限が迫っていることを告げる。エドナは初めて聞いた情報であり、返済するための金は無かった。
 デンビーは家を売却して子供たちを親戚に預けるよう提案するが、エドナは拒否した。彼女は美容室を営むマーガレットの元へ行き、雇ってもらえないかと頼む。しかしマーガレットは「お客が少なくて余裕が無いの」と言い、申し訳なさそうに断った。

 その夜、保安官が例の黒人男性を引き連れ、エドナの元へやって来た。男がスポルディング家の銀食器を持っており、使用人だと主張したが怪しいと睨んで保安官はやって来たのだ。エドナは「ウチの使用人のモーゼスです」と嘘をつき、男を助けた。
 保安官が去った後、男はエドナに礼を述べた。エドナは実際に男を雇い、綿花栽培を始めることにした。ただし彼女は、「また何か盗んだら撃つわよ」と警告することも忘れなかった。

 次の日、エドナは銀行へ行き、小切手の書き方を教えてほしいとデンビーに告げる。彼女が「流れ者の黒人に綿花栽培を任せるので、家を売らずに済むかもしれない」と言うと、デンビーは「大恐慌を御存知で?綿花を専門にしていた大勢の白人が破産した。なのに無能な黒人と結託を?」と呆れたように語る。
 改めて家の売却を勧めるデンビーだが、エドナは「売りません」と断った。彼女はモーゼスを伴い、綿の種を買いに出向いた。エドナが業者のシモンズから種を買おうとすると、モーゼスは粗悪品を高値で売り付けようとしていることを彼女に教えた。シモンズは「ただの間違いだ」と言い、モーゼスを威圧した。

 スポルディング家へ戻ったモーゼスは鶏舎を修理しながら、「白人の前であんなことを言うなんて馬鹿だ。すぐ出て行く場所なんだぞ。白人家族のために命を落とすことは無い」と呟いた。フランクはモーゼスに話し掛け、作業を手伝った。ウェインとヴァイオラは、また密会して体を重ねた。
 デンビーは義弟で盲目のウイルを伴ってエドナを訪ね、「貴方の計画には反対だが、良きキリスト教徒として困っている人には手を差し伸べたい。彼を下宿させて家賃を稼いでは?」と持ち掛けた。エドナは断ろうとするが、「収入を得ることは銀行の評価対象になる」と言われて承諾した。ウィルはエドナに、「嫌々なのはお互い様だ。迷惑は掛けません。放っておいて下さい。静かに暮らしたい」と述べた。

 ウェインは何食わぬ顔で帰宅し、マーガレットを抱いた。夜になると、2人はダンス・パーティーへ出掛けた。ヴァイオラは目の前でキスする2人に、嫉妬心を覚えた。ウェインはバディーに許可を貰い、ヴァイオラと踊る。
 彼は「今週末にダラスへ行こう。夫婦のように映画を見て食事をするんだ」と誘うが、ヴァイオラは「こんなこと続けていられない」と言う。ウェインは「もう少し辛抱してくれ」と話すが、彼女は「もう貴方とは会えない。お別れよ」と涙目で告げた。

 フランクはウィルの留守中、ポッサムを連れて彼の部屋に忍び込んだ。フランクは盲人用のレコードを勝手に掛けるが、エドナの呼ぶ声で慌てて部屋を出た。その際、彼は気付かずにレコードを傷付けてしまった。部屋に戻ったウィルはレコードを掛けようとして、音が出ないことに気付いた。
 彼はエドナが入浴中だと知らず、抗議に出向いた。ウィルが「子供という名のゴロツキを近づけさせないでくれ」などと声を荒らげていると、その言い方にエドナは反発する。相手が入浴中だと悟ったウィルは、怒りを鎮めて浴室を去った。

 翌日、フランクは学校で仲間たちと喫煙し、教師のヴァイオラに見つかった。エドナは夫がしていたように、お仕置きとして革のベルトでフランクの尻を10回叩いた。しかし罪悪感に打ちのめされた彼女は、「大丈夫?」と声を掛けたウィルの前で「二度としないわ。夫がいてくれたら」と漏らした。
 竜巻が発生した日、ヴァイオラは生徒たちを校舎へ避難させるが、フランクは自宅へ向かった。ウェインは美容室へ駆け込み、「窓を開けろ、家が吹き飛ぶ。食堂の窓を開けて床に伏せろ」とマーガレットに指示した。エドナとモーゼスは畑仕事をしていたが、中止して避難しようとする。フランクは学校に残らず、家へと走った。

 2階で人形遊びをしていたポッサムは、折れた木が窓を突き破ったので悲鳴を上げる。それを耳にしたウィルは手探りで2階へ行き、彼女を助けた。モーゼスが地下壕へエドナたちを避難させていると、フランクが走って来た。モーゼスはフランクを抱えて、地下壕へ入った。竜巻によって校舎は崩壊し、他にも多くの建物が被害を受けた。
 竜巻が去った後、バディーは学校へ駆け付けて呆然としているヴァイオラを発見する。バディーは彼女を抱き締め、「もう大丈夫だ」と告げる。ヴァイオラは遠くから見ているウェインに気付くが、すぐに視線を逸らした。彼女はバディーに、「町を出ましょう。竜巻に貧しさ、ここには未来が無いわ」と泣きながら告げた。

 綿の価格が上がることは期待できない中、エドナの預金額は24ドルにまで減っていた。彼女は銀行を訪れてデンビーと会い、綿を売った金を返済に充てるので期日を延ばしてほしいと頼んだ。
 彼女は収穫一番乗りに100ドルの賞金が出ると知り、それを目指そうと考える。だが、モーゼスとウィルは絶対に無理だと反対し、「経験が無ければ手は血まみれになる」「人手が足りない」と告げる。それでもエドナの考えは変わらず、「何があろうと、やり遂げてみせるわ」と力強く宣言した。

 バディーとヴァイオラは美容室へ行き、マーガレット&ウェインと恒例になっているトランプゲームに興じた。バディーはヒューストンの石油会社で働くことにしたと明かし、それがヴァイオラの意向だと話す。ウェインとヴァイオラの様子を見たマーガレットは、2人の関係を悟った。
 バディーたちが帰った後、彼女は「ヴァイオラとの間に何があったか、私は知りたくない」とウェインに平手打ちを浴びせた。ウェインは「終わったことだ」と告げるが、彼女は「手遅れよ。もう一緒には暮らせない。もう愛せない」と述べた。

 エドナはモーゼスだけでなく子供たちにも手伝ってもらい、綿花を摘む作業に取り掛かる。しかしモーゼス以外の3人は慣れない仕事で手を切ってしまい、予定の半分しか摘めなかった。
 「疲れて来たら、もっと効率は落ちる。あと10人はいないと間に合わない」と口にするモーゼスに、エドナは「雇うわ。賞金で払う。獲れなかったら綿を売った金で払う」と言う。ウィルが驚いて「手元に金が残らない」と意見すると、彼女は「賭けてみるわ」と告げる…。

 脚本&監督はロバート・ベントン、製作はアーレン・ドノヴァン、製作総指揮はマイケル・ハウスマン、撮影はネストール・アルメンドロス、美術はジーン・キャラハン、編集はキャロル・リトルトン、衣装はアン・ロス、音楽はジョン・カンダー。

 主演はサリー・フィールド、共演はリンゼイ・クローズ、エド・ハリス、エイミー・マディガン、ジョン・マルコヴィッチ、ダニー・グローヴァー、レイン・スミス、テリー・オクイン、バート・レムゼン、ヤンクトン・ハッテン、ジニー・ジェームズ、レイ・ベイカー、ジェイ・パターソン、トニー・ハドソン、デヴロー・ホワイト、ジェリー・ヘインズ、ルー・ハンコック、シェルビー・ブラマー、ノーマ・ヤング、ビル・サーマン、ジム・ゴフ、クリフ・ブルーナー、アーサー・ピュー、マシュー・ポージー、シャナ・シュラム他。

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 『レイト・ショー』『クレイマー、クレイマー』のロバート・ベントンが脚本&監督を務めた作品。アカデミー賞の主演女優賞と脚本賞、ゴールデン・グローブ賞ドラマ部門の女優賞、ベルリン国際映画祭の監督賞など数々の映画賞を獲得した。
 エドナをサリー・フィールド、マーガレットをリンゼイ・クローズ、ウェインをエド・ハリス、ヴァイオラをエイミー・マディガン、ウィルをジョン・マルコヴィッチ(これが映画デビュー作)、モーゼスをダニー・グローヴァー、デンビーをレイン・スミス、バディーをテリー・オクイン、ハイタワーをバート・レムゼン、フランクをヤンクトン・ハッテン、ポッサムをジニー・ジェームズが演じている。

 オープニング・クレジットでは、テキサス州の美しい風景を挟みながら、様々な人々の様子が讃美歌に乗せて写し出される。教会から出て来る白人一家、レストランで食事をする白人夫婦。「17年間住んだ家から追い出されました」と書いた札を掲げて車で過ごす白人女性、玄関前で食事を受け取って祈りを捧げる黒人男性。自宅で食事の前にお祈りをする白人家族、同じく自宅で食事の前にお祈りする黒人家族。
 ちなみに白人家族は裕福で、黒人家族は貧しい。まだ人種差別が根強く残るテキサス州なので、それは当然と言えば当然だ。

 そのオープニングシーンは、一見すると散文的だし、「町のあちこちの風景」という何気ない描写に感じられるかもしれない。しかし、実は深い意味が込められている。そこで提示されているのは、貧富の差や人種の違いはあっても、同じように信仰心を持つ人々の姿である。
 オープニングが終わると、スポルディング家の4人も朝食の前に祈りを捧げている。この映画には、キリスト教の信仰心が大きく関係している。なので私を含めて、キリスト教徒ではない日本人からすると、やや取っ付きにくい部分はあるかもしれない。

 エドナは夫が死んで悲嘆に暮れるが、犯人のワイリーに対する憎しみは抱かない。リンチされたワイリーの遺体が引きずられると、目を背けている。また、黒人という人種に対する怒りも抱かない。
 モーゼスが仕事を求めて来た時も、マーガレットは冷淡に追い払おうとするが、エドナは丁寧に応対している。それどころか、モーゼスが銀の食器を盗んだのに、保安官に嘘をついて助けている。ちょっと『レ・ミゼラブル』のミリエル司教を連想させる行動だだ。
 「家を売却したくないのでモーゼスの力を借りる必要があった」という事情はある。だが、黒人差別が根強く残る土地であること、夫を黒人に殺されたばかりであることを考えると、充分すぎるほど寛大な行動だ。

 ただし、そこからエドナとモーゼスの人種を超えた交流のドラマが描かれていくのかというと、そうでもない。モーゼスはフランクと話すシーンが終わると、あっさりと脇へ追いやられる。
 その後は、ウィルが登場したり、ヴァイオラがウェインに別れを告げたり、エドナがフランクにお仕置きをしたりというシーンが続く。当然のことながら、エドナとの関係描写も薄くなる。ようするに、そこの交流を軸にした映画ではないってことだ。

 話が進む中で、エドナ、ウィル、モーゼスという3人の関係が重要な意味を持っていることが見えてくる。この3人に共通しているのは、社会的弱者ということだ。
 エドナは夫を亡くして2人の子供を育てなければならない未亡人だが、稼ぐための技術が無い。モーゼスは黒人であり、ただでさえ不況で仕事が無い上にテキサスは人種差別の激しい土地だ。ウィルは戦争で視力を失い、障害者になったことで真っ当な仕事に就くことが出来なくなっている。
 そんな3人が手を取り合い、厳しい世の中を生き抜いて行こうとするドラマだ。ところが困ったことに、ウィルが登場するとモーゼスが引っ込むなど、キャラの出し入れや絡ませ方が今一つ上手く行っていない。

 竜巻が襲来するシーンでは、ポッサムの悲鳴を聞いたウィルが慌てて2階へ行くという行動を取る。名前を呼びながら必死で探っていると、ポッサムが手を伸ばす。泣きながら駆け寄るポッサムを、ウィルは優しく抱き締めて「大丈夫だ」と元気付ける。もう天候が悪化した時点で先読みが出来るし、ベタっちゃあベタな展開だが、それでも心に響くシーンではある。
 ただ、もっと効果的に機能させるためは、ウィルが子供たちを疎んじる直接的な行動を事前に描いておいた方がいい。この映画だと、レコードのことでエドナに抗議するシーンはあるけど、子供たちを邪険に扱うシーンは無いのよね。そういうのを描いておけば、竜巻の日のシーンによって「盲目のせいで周囲と距離を取るようになっただけで、ホントは心の優しい男」ってのが、もっと伝わるようになるはずで。

 スポルディング家で暮らす全員が竜巻から一緒に避難するシーンにしても、同じようなことが言える。その前に、ウィルがモーゼスとも距離を取っていることを描いておいた方がいい。また、モーゼスは独り言で「白人家族のために命を落とすことは無い」と呟いていたが、「すぐに去る予定なので、スポルディング家の面々のことはドライに考えている」ってことを行動として見せておいた方がいいだろう。だけど、むしろフランクと仲良くしている様子が描かれているのよね。
 ただし、「それまでバラバラだった面々が竜巻によって結束する」というシンプルなドラマにした方が分かりやすいとは思うが、ウィルとの差別化ってことを考えれば、そんなに大きな傷ではない。

 それよりも問題なのは、エドナたちのドラマに集中すればいいものを、他の要素が邪魔をするってことだ。この作品には、1つの大きな異分子が存在しているのだ。それは「ウェインとヴァイオラの不倫関係」という要素だ。
 序盤、エドナがロイスの遺体を綺麗にするシーンから切り替わると、ウェインたちの密会になるのだが、この時点で既に違和感が強い。2人の不倫を描くにしても、そのタイミングはどうなのかと言いたくなる。

 話が進むにつれて、不倫の要素が邪魔だという印象はどんどん強くなっていく。竜巻のシーンにしても、エドナたちの様子だけに絞り込んでおけばいいものを、ヴァイオラが生徒と共に校舎へ避難する様子や、ウェインが美容室へ駆け込む様子を挟み込んでいる。
 その辺りの描写は、ウェインとヴァイオラの不倫問題を片付けるために用意されている。裏を返すと、不倫の要素が無ければエドナたちの様子に絞り込めるってことだ。

 この映画は、エドナが精神的に成長していくドラマでもある。夫を亡くした直後の彼女は、「私には家族を養えない。子育てと家事しか経験が無い」と弱音を吐いている。
 しかし少しずつ強くなっていき、一番乗りの賞金を目指そうとする時は「疲労で死ぬ前に、そんな考えは捨てなさい」とモーゼスに反対されても「家を失ったら、貴方は放浪生活に逆戻りよ。ウィルは施設に送られ、私は家族を失うわ。例え何があろうと、私はやり遂げてみせる」と力強く宣言する。家と家族を守るためなら、女は強くなれるのだ。

 そんなエドナの熱い気持ちに動かされ、モーゼスとウィルも全面的に協力する。ウィルは盲目なので綿摘みには参加できないが、食事を作る役目を引き受ける。綿を売る時も、エドナは安く買い叩こうとするシモンズに対して強気に交渉し、市場価格より高く買い取らせる。しかし残念ながら、この映画にハッピーエンドは用意されていない。
 そこまでの流れなら、「エドナたちは協力して一番乗りになり、賞金を獲得したし綿も高値で売ることが出来た。めでたし、めでたし」ってことになるはずだ。しかし、その後に待ち受けているのは「KKKだったシモンズと仲間たちが覆面姿でモーゼスを暴行する」という展開だ。

 たまたま家にいたウィルが声で相手の正体に気付いたため、シモンズたちは立ち去る。ただし「これで終わりだと思うなよ」という脅し文句を残したため、シモンズは町を去ることにする。
 放浪生活には戻らず、そのままスポルディング家に残ろうという気持ちになっていたモーゼスだが、根強い人種差別によって悲しい選択を取らざるを得なくなってしまうのだ。これに関しては、幾らエドナが強くなっても解決できない問題だ。

 映画の最後には、礼拝のシーンが用意されている。エドナたちだけでなく、別れを決めたはずのマーガレットとウェインも娘のロザリーを伴って参加している。
 神父は列席者に対し、新約聖書から「例え人や天使の言葉を伝えても、愛が無ければ騒がしいドラやシンバルに等しい。預言の力や知識があろうとも、愛が無ければ無に等しい。全財産を貧者に施しても、愛が無ければ私には何の益も無い。愛は忍耐強く、情け深い。愛は決して滅びない」という言葉を語る。

 神父の言葉が続く中、マーガレットとウェインは手を握り合う。これだけなら、単純に「一時は別れを決意したけど、マーガレットが旦那を許したのね」ってことになるだろう。パンとぶどう酒が配られる様子が描かれるとKKKの面々の姿が写し出されるが、これも「黒人を差別する人々も、普段は信仰心の厚い善良な人々なのだ」という解釈になるかもしれない。
 ところが、その後には町を出たはずのモーゼスや殺されたロイス、そしてリンチで死んだワイリーも姿を見せるのだ。

 もちろん、モーゼスが町に留まったわけではないし、ロイスやワイリーが生き返ったわけでもない。「死んだと思われていたけど、実は生きていた」とか、そんなトンデモ展開というわけでもない。その風景は幻想であり、そして理想でもある。
 そこにあるのは「赦し」の精神だ。愚かな人種差別も、不幸な殺人も、一時の浮気も、全てを寛容な愛によって赦そうと静かに訴えている。愛があれば、きっと互いが理解し合い、誰もが仲良く過ごせるはずだというメッセージが、そこにあるのだ。

(観賞日:2017年9月21日)

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