見出し画像

『リトル・ミス・サンシャイン』:2006、アメリカ

 アリゾナ州アルバカーキに住むフーヴァー家は、父のリチャード、母のシェリル、祖父のエドウィン、長男のドウェイン、長女のオリーヴという家族構成だ。オリーブは小太りの眼鏡っ子だが、ミス・カリフォルニアのようなミスコン女王になることを目指している。
 リチャードは勝ち組になるためのプログラムを広めようとしているが、聴衆は少ない。それでも出版社に売り込んでおり、編集者のスタンからの連絡を待っている。ドウェインは無言のまま、体を鍛えている。エドウィンは風呂場でヘロインを吸って気持ち良くなっている。

 シェリルは病院へ赴き、自殺未遂で運び込まれた兄のフランクの状態を担当医に尋ねた。医者は「無事ですが、刃物に近付けないようにして下さい」と告げる。
 「本当は入院した方がいいんですが」と彼は告げるが、保険が効かないため、シェリルはフランクを自宅へ連れ帰った。一人にするのは危険だと医者から言われているため、シェリルはフランクをドウェインの部屋で住まわせることにした。

 食事の用意が整い、食卓に家族が集まった。フランクから「友達はいないの?」と問われたドウェインは、「みんな嫌いだ」と書いた紙を見せた。シェリルはフランクに、ドウェインが空軍士官学校に入学するまで無言の誓いを立てたことを説明した。「またチキンか」と喚くエドウィンは、老人ホームを追い出されていた。
 フランクの腕の傷を見つけたオリーヴが質問したので、シェリルは正直に自殺を図ったことを告げた。リチャードが話題を変えようとするが、シェリルはフランクに事実を話すよう促した。

 フランクはオリーブに、大学の教え子ジョシュを好きになったが失恋したこと、彼をライバルのラリー・シュガーマンに奪われたこと、そのラリーが賞を獲得したこと、それがショックで手首を切ったことを話した。リチャードはオリーヴに「おじさんはバカな間違いを繰り返し、全てを諦めたから勝ち組になれなかった」と言う。
 彼に促されたオリーヴは、コンテストのことをフランクに話す。オリーヴは6歳から7歳までの少女が出場するコンテスト地方予選で2位になり、次のコンテストでの優勝を目指しているのだ。

 フランクはシェリルに、妹のシンディーから留守電が入っていたことを告げた。オリーヴがメッセージを聞くと、彼女が出場したリトル・ミス・サンシャイン・コンテスト地方予選の優勝者が失格となり、繰り上げ優勝になった旨が語られていた。
 オリーヴは大喜びするが、カリフォルニアのレドンド・ビーチで行われる決勝大会にシンディー夫婦が同行できないと聞き、リチャードとシェリルは顔を曇らせる。飛行機代を捻出するだけの経済的な余裕が無いからだ。リチャードが車を運転して行くことになるが、シェリルは「フランクを置いて行けない」と言い出した。リチャードは、家族全員でレドンド・ビーチへ行くことに決めた。

 翌朝、一家は古いミニバスで出発した。エドウィンはドウェインに「女とやりまくれ」と喚き、リチャードが止めても口を閉じようとしなかった。エドウィンがヘロインで老人ホームを追い出されたと知り、フランクは驚いた。しかしエドウィンは悪いことをしたとは思っておらず、好きなことをやるのは当然だと主張した。
 ダイナーで食事を取ることになり、オリーヴはワッフルのアイス添えを注文した。しかしリチャードに「アイスを食べると太る」と言われ、シェリルたちに「アイス、食べる人、いる?」と譲ろうとする。リチャード以外の面々が美味しそうに食べるのを見た彼女は、慌てて「待って」と自分も口に運んだ。

 食事を終えて出発しようとすると、クラッチが故障してミニバスが動かなくなってしまった。修理工場に持ち込むが、部品を取り寄せるのに何日も掛かるという。
 修理工は「一つだけ方法がある。クラッチが無くても3速から4速にシフトできるから、坂の上から転がしてスピードが上がったところでエンジンを掛ければいい」と述べた。近くに坂が無かったため、一家はミニバスを押してスピードを出し、エンジンが掛かったところで次々に飛び乗った。

 リチャードは得意げに本が出版されることを語り、嫌味を言ったフランクと口論になった。そのスタンとようやく連絡が取れたため、リチャードはミニバスを停めて公衆電話で話した。しかし出版は確実だと言われていたのに、スタンからダメになったことを聞かされた。
 フランクはエドウィンからポルノ雑誌を買って来るよう頼まれコンビニへ出向いた。するとジョシュに会ったため、フランクは慌ててポルノ雑誌を隠そうとする。ジョシュがラリーと一緒だと知り、フランクは暗い気持ちになった。

 シェリルはリチャードの出版がダメだったと知り、そのことで2人は険悪な雰囲気になった。落ち込むリチャードを、エドウィンは「果敢に挑戦したお前を誇りに思うよ」と慰めた。モーテルに到着した後、オリーブが「負け犬になりたくない」と泣き出したので、エドウィンは「負け犬ってのは最初から恐れて何もしない奴のことだ」と元気付けた。
 リチャードはシェリルに「話を付けて来る」と言い、バイクを借りてスタンのいるスコッツデールのホテルへ赴いた。リチャードは「約束が違う」と激しく抗議するが、スタンは「俺も必死に売り込んだが、誰も買わなかった。もう終わりだ」と冷たく告げた。

 翌朝、リチャードとシェリルが眠っていると、オリーヴが来て「おじいちゃんが起きないの」と告げた。エドウィンは救急車で病院へ運び込まれるが、そこで息を引き取った。事務担当のリンダが現れ、リチャードに書類への記入を促した。
 リチャードが「葬儀屋はアルバカーキで契約しているんです」と言うと、リンダは「州を越えるには、遺体の移送許可を登録局から貰う必要があります」と告げる。「レドンド・ビーチへ3時までに行かなきゃならないんです」とリチャードが言うと、彼女は「無理です」と冷たく述べた。

 リチャードが何とか特別扱いしてほしいと懇願しても、リンダは事務的な態度で拒絶した。シェリルはオリーヴに「コンテストは、また来年にしましょう」と言い、諦めようとする。しかしリチャードは「ここで諦めたら負け犬になる。一生、後悔する」と言い、遺体を病院から運び出そうと提案した。
 彼は反対するシェリルを説得し、全員が協力してエドウィンの遺体を窓から運び出した。一家は遺体を車のトランクに入れ、猛スピードでレドンド・ビーチを目指した…。

 監督はジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス、脚本はマイケル・アーント、製作はアルバート・バーガー&デヴィッド・T・フレンドリー&ピーター・サラフ&マーク・タートルトーブ&ロン・イェルザ、製作協力はバート・リプトン、製作総指揮はマイケル・ベウグ&ジェブ・ブロディー、撮影はティム・サーステッド、編集はパメラ・マーティン、美術はカリーナ・イワノフ、衣装はナンシー・スタイナー、音楽はマイケル・ダナ&デヴォーチカ。

 出演はグレッグ・キニア、トニ・コレット、スティーヴ・カレル、アラン・アーキン、ポール・ダノ、アビゲイル・ブレスリン、ブライアン・クランストン、ベス・グラント、ジュリオ・オスカー・メチョソ、ジェフ・ミード、ローレン・シオハマ、ウォレス・ランガム、メアリー・リン・ライスカブ、マット・ウィンストン、ポーラ・ニューサム、ジョーン・シェッケル、ジョン・ウォルコット、ジャスティン・シルトン、ゴードン・トムソン、マーク・タートルトーブ、ジル・トーリー他。

―――――――――

 アカデミー賞で脚本賞と助演男優賞(アラン・アーキン)を受賞した作品。監督のジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリスは、これまで主にMTVやCMの世界で活動してきた夫婦で、これが長編映画デビュー作。予算の問題で完成までに5年の歳月が掛かったが、サンダンス映画祭で高い評価を受け、幾つもの映画祭で賞を獲得した。
 リチャードをグレッグ・キニア、シェリルをトニ・コレット、フランクをスティーヴ・カレル、エドウィンをアラン・アーキン、ドウェインをポール・ダノ、オリーヴをアビゲイル・ブレスリン、スタンをブライアン・クランストンが演じている。

 この映画は、ずっと失敗を経験せずに順風満帆で恵まれた生活を送っている人、勝ち組の人生を歩み続けている人には、まるで楽しめないかもしれない。なぜなら、これは負け犬賛歌とも言うべき映画だからだ。
 勝ち組になるプログラムを開発したけど自分は勝ち組になれずに出版の話もポシャるリチャード、ヘロイン中毒で老人ホームを追い出されたエドウィン、ゲイの恋人をライバルに奪われて自殺未遂を図ったフランク、色弱でパイロットになる夢を絶たれるドウェイン、小太り眼鏡っ子なのに分不相応にもビューティー・クイーンを目指すオリーヴと、フーヴァー家は人生の負け組ばかりが揃っている。

 勝ち組人生の人には、負け組ファミリーの話なんて何が面白いのかサッパリ分からないかもしれない。ただし負け組やマイノリティーの悲哀をあまり生々しく描きすぎると、負け組やマイノリティーに該当する観客にしても、自分の心をエグられたような気分になり、それが痛々しくて目を背けたくなる可能性がある。
 しかし本作品の場合、笑いに包むことで、痛々しさを和らげている。その笑いはシニカルなものだが、ソフトなオブラートになっている。

 フーヴァー家はバラバラなのだが、「アイスは太る」と言われたオリーヴが暗い顔で食べることをやめようとした時には、リチャードを除く全員が何の打ち合わせもしていないのに意思統一され、みんなで美味しそうに食べることによって、オリーヴにも遠慮せずアイスを食べるよう仕向けている。無言で陰気なドウェインでさえ、そこではオリーヴに「ほら、美味しいよ」的な態度を見せている。

 これが「最初はバラバラだった一家が、旅を通じて絆の深まりを感じ、結束するようになる」という物語だとすれば、そこでリチャード以外の面々が一致団結するのは、タイミングとして早すぎる。
 そこで「みんなでオリーヴのために」という意識で1つになるってことは、表面上はバラバラに見えていても、オリーヴのためなら、いつだってエゴを捨てて協力してやろうという気持ちになれるってことだ。「オリーヴのため」という一点においては、最初から協力体制が出来上がっているということだ。

 ただ、出来ることなら、そのアイスのシーンまでに、それぞれがオリーヴのために何かしてやるシーンを、個別に描いておいた方がいいと思う。特にドウェインには、それが必要だ。
 エドウィンは序盤でオリーヴにダンスを教えていることが提示されているし、フランクも彼女に優しく接している。しかしドウェインに関しては、他の面々と比較しても「家族とのコミュニケーションに消極的」という印象が強くあるので、「でもオリーヴだけは別」というのを、アイスのシーンより先に示しておいた方がスムーズだったのではないかな。

 故障したミニバスで再出発しようとする際にも、一家は全員で協力する。それはトラブルの時に一致団結するという形であり、レドンド・ビーチへ行くという目的はあるものの、「オリーヴのために一致団結した」という印象ではない。エドウィンの遺体を病院から運び出すシーンも、やはり「コンテストに行く」という目的はあるが、それよりも「負け組になりたくないリチャードの意地に協力した」という感じだ。
 その辺りは、難しい判断ではあるんだけど、「いつもバラバラだが、オリーヴのためには一致団結する」ということに絞り込んでおいた方が良かったかもしれない。

 コンテスト会場に到着した後、リチャード、フランク、ドウェインは参加者のレベルの高さに圧倒され、シェリルに「オリーヴの出場を取り止めよう」と提案する。しかしオリーヴは強い気持ちを持って、ステージに上がる。そこで彼女が披露するのは、エドウィンから振り付けを教わったストリップ・ダンスだ。
 そこで実行委員が彼女をステージから下ろそうとするのは、そんなに間違った行為ではない。リチャードも、最初はオリーヴに踊りを止めさせようとする。だが、楽しそうに踊る娘を見て、一緒に踊り出す。

 ポイントは、家族の中で最初に踊り出すのがリチャードだということだ。それまで勝ち組への固執を捨て切れなかった彼が、娘のために恥も外聞も全て投げ出すのだ。続いてフランクもドウェインもシェリルも、ステージに上がって一緒に踊る。
 それは大会をブチ壊す無礼な振る舞いだが、「オリーヴのため」という一致団結だ。そこはホロっと来ちゃったなあ。
 ってなわけで、ややボヤけた部分もあるかなあと思ったりするが、やっぱり素敵な映画だよね、これは。

(観賞日:2011年9月15日)

この記事が参加している募集

おすすめ名作映画

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?