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『ヒトラーの忘れもの』:2015、デンマーク&ドイツ

 1945年5月、デンマーク。ドイツによる5年間の占領が終わった。デンマークを去ろうとするドイツ人の行列を見たデンマーク軍のカール・ラスムスン軍曹は、強い憎しみを向けた。デンマーク国旗を持っている男に気付いた彼は、いきなり殴り付けた。
 彼は国旗を奪い取って「これに触るな」と怒鳴り、また殴る。近くにいた男が止めに入ると、ラスムセンは彼も殴り倒した。ラスムセンは一団に怒鳴り散らし、「早く消え失せろ」と告げた。

 工兵部隊のエベ・イェンスン大尉は動員したドイツ軍の少年兵たちに、ナチスが西海岸に埋めた220万個の地雷を撤去する任務を説明した。彼が信管を抜く練習を積ませると、1人が失敗して爆死した。
 ラスムセンが監督を任されたのは、ヘルマン・マークライン、ロドルフ・ゼルケ、フリードリヒ・シュヌアー、ヨハン・ヴォルフ、アウグスト・クルーガー、双子のヴェルナー&エルンスト・レスナー兄弟、ヴィルヘルム・ハーン、ルートヴィヒ・ハフケ、セバスチャン・シューマン、ヘルムート・モアバッハという面々だった。相手が少年兵であっても、ラスムセンの憎しみに満ちた厳しい態度は変わらなかった。

 ラスムセンは少年兵たちを砂浜へ連れて行き、黒い旗と小道の間にある4万5千個の地雷を除去する任務を説明した。「全て除去すれば家に帰す。1時間で6個を除去し、爆死しなければ3ヶ月で帰れる」と、彼は告げた。
 作業が終わるまで、少年兵たちは近くの農家にある納屋で暮らすことになった。農家にはカリンという女性と、イリザベトという幼い娘が2人で暮らしていた。イリザベトは少年兵たちを見ても全く怖がらなかったが、カレンは「ドイツ兵に近付くと危険よ」と注意して引き離した。

 少年兵たちは2日も食事を与えられず、セバスチャンが代表してラスムセンに「いつ食料が届くかご存知ですか」と尋ねた。ラスムセンは冷徹に、「それがどうした?勝手に餓死しろ。ドイツ人は後回しだ」と言い放つ。
 空腹に耐えかねたヘルムートは深夜に納屋を抜け出し、家畜のエサを見つけて仲間たちに与えた。翌朝、エルンストは体調が悪くなり、1時間だけ休ませてほしいとラスムセンに頼んだ。しかしラスムセンは許可せず、作業を始める命じた。

 ヴィルヘルムは作業中に嘔吐し、ミスを犯して地雷を爆発させてしまった。彼は両腕を失う大怪我を負い、セバスチャンたちは慌てて砂浜から運び出した。セバスチャンは小屋にいるラスムセンを呼ぶが、なかなか来てもらえなかった。
 ようやく外へ出たラスムセンは、車を呼んでヴィルヘルムを基地へ運ばせた。他の少年兵たちも食中毒で体調を悪化させ、ヘルムートはラスムセンに事情を説明して謝罪した。体調を悪化させなかったのは、家畜のエサを食べさせてもらえなかったセバスチャンだけだった。

 ラスムセンは少年兵たちに海水を飲んで吐くことを繰り返させ、体調の回復に努めさせた。セバスチャンが木枠を使って効率的に地雷を除去する方法を提案すると、ラスムセンは「分かってる。俺も馬鹿じゃない」と相手にしない。
 セバスチャンが「僕らが憎いから、爆死しようが餓死しようが構わないと?」と問い掛けると、彼は「その通りだ」と答えた。「除去が完了しないと困るはず」とセバスチャンは訴えるが、ラスムセンは「早く寝ろ」と冷たく突き放した。

 基地へ赴いたラスムセンは看護婦に質問し、ヴィルヘルムが死んだことを知る。食料を調達した彼は、それを納屋の前に置いて少年兵たちを起こした。少年兵たちが食事を始める様子を確認したラスムセンは、「ヴィルヘルムは順調に回復している。故郷に帰す」と嘘をついた。それから彼は、「作業が遅れている。今後は1時間に8個を除去しろ」と指示した。
 イェンスンを含むデンマーク軍の兵士たちが農家に現れ、ルートヴィヒを甚振って楽しんだ。他の少年兵たちは、何も出来ずに見ているしか無かった。外の様子に気付いたラスムセンが駆け付け、「地雷の除去中です。彼らの力が必要なんです」と制止した。

 イェンスンたちが「他を探そう」と言って車に乗り込むと、ラスムセンは「やり過ぎだ。士気が下がってしまう」と抗議した。イェンスンが「彼らのために食料を調達したらしいな。噂になっているぞ」と指摘すると、ラスムセンは「子供に処理させるとは聞いていなかった」と告げる。
 イェンスンが「年は関係ない」と言うと、彼は「彼らは素人だ」と口にする。イェンスンが「だから君が教えるんだ。情でも移ったか。ナチスの罪を忘れるな」と釘を刺すと、ラスムセンは熟練した大人を送ってほしいと要請した。

 ある日の作業中、ルートヴィヒは地雷が重なっていることに気付いた。彼は作業を中止するよう叫ぶが、ヴェルナーの耳には届かなかった。ヴェルナーは爆死するが、エルンストは兄の死を受け入れられずに捜索しようとする。ラスムセンは彼を納屋に連れ帰り、薬を投与して休ませた。セバスチャンと話したラスムセンは、初めて笑顔を見せた。
 彼は他の少年兵の前でも笑顔を見せるようになり、休日には一緒にサッカーをして楽しんだ。新しい少年兵のグスタフ・ベッカーとアルベルト・ビュワーが合流する中、ラスムセンの愛犬であるオットーが地雷を踏んで爆死した。ラスムセンは記録のミスがあったと確信し、以前よりも少年兵に対して辛く当たるようになった…。

 脚本&監督はマーチン・サントフリート、製作はミカエル・クリスチャン・リークス&マルテ・グルナート、製作総指揮はヘンリク・ツェイン&トーベン・マイゴート&レナ・ハウゴート&オリヴァー・ジーモン&ダニエル・バウアー&シュテファン・カペラリ&ジルケ・ヴィルフィンガー、製作協力はクラウス・ドール、撮影はカミラ・イェルム・クヌーセン、美術はギッテ・マリンク、編集はペール・サンドホルト&モリー・マリーヌ・ステンスゴード、衣装はシュテファニー・ビーカー、音楽はスーネ・マーチン。

 出演はローランド・ムーラー、ミケル・ボー・フォルスゴー、ルイス・ホフマン、ジョエル・バズマン、エミール・ベルトン、オスカー・ベルトン、オスカー・ブーケルマン、レオン・サイデル、ローラ・ブロ、マッツ・リーソム、ゾーイ・ザンヴィリエット、カール・アレクサンダー・セイデル、マキシミリアン・ベック、アウグスト・カーター、ティム・ブロウ、アレクサンダー・ラッシュ、ジュリアス・コチンケ、アーロン・コスタ、レヴィン・ヘニング、ミカエル・アズムッセン、マグヌス・ブルン、メット・リスダール、ジョニー・メルヴィル他。

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 デンマーク出身のマーチン・サントフリートが脚本&監督を務めた3作目の映画で、ヨーロッパ映画賞の撮影賞、衣装デザイン賞、ヘア&メイクアップ賞や東京国際映画祭の最優秀男優賞を受賞し、アカデミー賞では外国語映画賞にノミネートされた。
 ラスムスンをローランド・ムーラー、イェンスンをミケル・ボー・フォルスゴー、セバスチャンをルイス・ホフマン、ヘルムートをジョエル・バズマン、エルンストをエミール・ベルトン、ヴェルナーをオスカー・ベルトン、ルートヴィヒをオスカー・ブーケルマン、ヴィルヘルムをレオン・サイデル、カリンをローラ・ブロが演じている。

 ひょっとすると「デンマーク人じゃないから」とか「白人じゃないから」ってのが大きく影響しているのかもしれないが、少年兵の誰が誰なのか見分けが付きにくい。登場シーンで1人ずつ名乗っているが、それだけで全員を判別できる人は、ほとんどいないんじゃないか。服装は全員が同じだし、喋り方やクセで分かりやすく特徴を際立たせているわけでもない。
 まあ作品のテイストを考えればリアルな手触りの方がいいだろうから、あまり誇張するのも望ましくないだろう。ただ、そのせいで「この台詞を喋ったのは誰なのか、さっきのシーンの奴と同じなのか」ってのを把握するのが困難になっている。

 なので当然のことながら、シーンとシーンの繋がりも分かりにくくなっている。例えば、夜中に抜け出して食料調達に行くのが誰なのか、その時点では分からず、後でヘルムートが謝罪するシーンでようやく彼だと分かる。しかも、そこで分かると書いたけど、名前を呼ばれるわけではないので、「そいつがヘルムート」ってことを事前に把握していなきゃ分からない。
 エルンストが「体調が悪いので休ませて」と頼んでいたので、その直後のシーンで嘔吐して大怪我を負うのは彼なのかと思ったらヴィルヘルムだったりする。デンマーク兵士たちに甚振られるのも、彼らが去って仲間が「ルートヴィヒ」と呼び掛けて、ようやくルートヴィヒだと分かる。

 少年兵の顔が良く似ているというわけではない。双子の2人はもちろんそっくりだけど、それ以外の面々は全く異なっている。ただ、それは欧米人が「日本人の顔はみんな同じに見える」とか「日本人と中国人と韓国人の見分けが付かない」ってのと似たようなことだろう。
 なので仕方の無いことではあるのだが、映画を見る上では大きなネックになってしまう。「ラスムセンと少年兵グループ」という関係性よりも、1人ずつ個人の存在が感じられた方がドラマとして深みが出るのは言うまでもないわけで。

 ラスムセンの感情表現は、かなり抑制されている。怒りや憎しみの感情を見せる時を除くと、後半に入ってセバスチャンとの会話で笑顔を見せるまでは、ずっと冷淡で険しい表情の男になっている。ほとんど表情が変化しないので、何を考えているのかも読みにくくなっている。
 もちろん意図的な演出だし、キャラ設定を考えても、そういう方向性は間違っちゃいない。それに幾つかの行動で、彼の気持ちが伝わるようになっている。例えばヴィルヘルムの事故で何も感じなかったわけじゃないことや、食中毒を「いい気味よ」と嘲るカリンに不快感を抱いたこと、少年兵たちの空腹を気に留めたから食料を持ち帰ったこともハッキリと分かる。

 ただ、やや抑制が過ぎるかなという印象がしないでもない。例えば少年兵が空腹で困っていることは、かなり前から分かっていたことだ。それなのにヴィルヘルムが大怪我を負ったり少年兵たちが食中毒で苦しんだりするまで、彼が「何か対応しなければマズい」と感じている気配が見えて来ない。
 ひょっとすると、ヴィルヘルムの事故がきっかけで心情に大きな変化が生じ、食糧調達という行動を取ったのかもしれない。ただ、そうだとしても、そこを上手く表現できていないし。

 ナチスはデンマークを占領した後、連合国軍の上陸を阻止するため海岸沿いに大量の地雷を埋めた。終戦後、デンマークは地雷を撤去するためにドイツ軍の少年兵たちを動員した。そんな事実を基にしたのが、この作品だ。
 第二次世界大戦におけるデンマークだけでなく、地雷の問題は世界の各地で起きている。もちろん戦争自体が大きな問題ではあるし、そこで使用される全ての武器が多くの犠牲者を生む。だが、その中でも特に地雷が問題視されるのは、この映画で描かれるように戦後も多くの犠牲者を生む恐れが高いからだ。

 ラスムセンやイェンスンが怒りや憎しみを向けているのは、自分や周囲の人間が直接的に危害をを与えられた相手ではなく、まだ幼さの残るドイツの少年兵だ。ある意味では、彼らもナチスの被害者と言えるような存在だ。
 彼らにまでナチスの罪を着せて、憎むべき報復対象として攻撃するのは本当に正しいことなのか。例え彼らがドイツ兵であっても、無慈悲に扱ったり理不尽に甚振ったりすることが本当に適切なのか。そんな問い掛けが、この映画からは伝わって来る。

 少年兵の爆死などもあり、ラスムセンの彼らに対する態度は大きく変化する。最初は「勝手に餓死しろ」とまで言い放ち、冷徹そのものだったのが、後半に入ると笑顔で一緒にサッカーを楽しむようになる。しかし愛犬が爆死すると、その態度は最初よりも酷くなる。愛犬の爆死は地雷を埋めたナチスのせいなのだが、ラスムセンは「少年兵たちが確認ミスを犯した」という所に原因を求める。地雷を埋めた連中を恨んでも仇討ちは果たせないので、目の前にいる少年兵たちに怒りと憎しみを向ける。
 そのように人の感情というものは、いとも容易く変化し、すぐに近くにいる存在へ向けられる。それでも最後、生き残った4人の少年兵が再び別の場所で地雷撤去作業を強制されると知り、ラスムセンは上官に逆らって彼らを逃がす。そこに救いがあり、人間への希望が残されている。

 ザックリ言うと、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎し」の考えだったラスムセンが「それは間違っている」と気付く物語だ。戦争そのものを描写せず、戦後処理を描くことで反戦のメッセージが浮かび上がるようになっている。戦争被害を受けたデンマークが、戦争が終わった途端に加害者へと変貌する。憎しみの連鎖がいかに愚かで醜悪なのかを、この映画は描き出す。
 わざわざ言うまでもなく、少年兵たちへの扱いは間違っている。しかし口では簡単に言えても、実際に自らや周囲の人間が被害を受けたら、綺麗事では割り切れないだろう。何しろ、自分が被害を被ったわけでもないのに、過去の歴史を持ち出して未だに難癖を付けまくるような国もあるわけだから。

(観賞日:2018年12月24日)

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