部屋を一瞥、二瞥して座るところ決めると、そこは普段私が居る場所を20㎝よけた場所だ、堂々と私の事を考えずにでんと腰を下ろした。
「突然訪問されても問題ないね」
「なにが？」
「片付いている、流しも綺麗だし」
　素早い観察の結果を披露した。
「まあね、男物の猿股はベランダじゃないと意味無いしね」
「ハハ、君って会社にいる時と全然雰囲気違うね」
「そうかな、おんなじだと思うけど。・・・　何か食べる」
「要らない。けどお茶がお客さんの権利なら、それを貰おうかな」
「美味しいお茶が有るけど、コーヒーにする、いい？」
「OK」
　私の居場所を取られたから、前に座ると、そこじゃTVの邪魔だよ、と首尾よく横に座らせ、都合の良い位置関係になって、少し緊張したようで、アルコールある？　ともそもそしている。
　私はアルコールを常備する人ではないから、スーパーに寄って冷えたビールを買った。
　帰り道、コンビニで買ったんだよ、冷蔵庫から取り出しながら言った。
　ビールがあるのは当然とした顔で私の気遣いに気付きもしない顔で間抜けな笑みを浮かべているから、最初の手をどう出すか焦らせてあげよう。
　でもそういうことがトラウマになるとセックスレスになるかも知れないから、奥さんに申し訳ないから、ビールとコップで両手を塞いで少し近くに座ってあげた。
　コップを受け取り、緊張が解けたようで喜んでいる。
　肩がぶつかって腰に手を回し、俺の女扱いになった。でも、行動するには胆力が必要だと練習させたほうが良かったかな。

　その前に我が家のルールを教えて置こう。目が点、お宝情報だ。この情報なら100円出すかな？
「トイレに必ずあるものは？」
　戸惑って考えている、でも頭が働いていないようだから、先に進めよう。
「トイレットペーパーでしょ。それでね、座ってしてとは言わないけど、終わった後プルプル振るんでしょ、そのときねトイレットペーパーで先っぽを包んで雫を撒き散らさないで欲しい」
　驚いている。なにそれ！　だろうけど、当然、どこで仕入れた知識か問われる。
「昔ね、お利巧さんが居たのよ」
　お利巧さんと言われ、お利巧さんが頭に振ってこないようだ。ようやく降りて来たらしく、誰だと気になるようだ。
「お利巧さんの意味はね、対応力かな」
　考える気はないようだけど、はてな、浮かんでいるだろう。
「初めはね、座ってしてって頼んでいたんだけど、守らないからしつこく言ったら考え出したのよ、それがお利巧さんの意味」
　なるほどと思ったか、馬鹿だと思ったか、どちらかな。
「そういうお利巧さんが居たって言うと気になる？　ファイトが湧く？」
「ファイトなんてバカバカしい」
「でしょ。だったら気にするのは輪をかけてバカバカしいと思わない？」
　ムッとしたようだけど、先を急ぎたいようだ。分かったと、手を取ってくる。本当に分かったかなあ、チェックするからねと念を押した。同意したくないようなのは不満だけどまあ都度言えばいいか。
　引く力に少し遠慮がある、のはまあ安全な男と言えそうで安心材料だ。
　手を弄られ胸をまさぐられ、キスしてくるから、イヤと断った。
　奥さんとしないことを外の女にするんじゃない、と言うほどのことじゃないけど、そんな関係じゃないんだよ。
　あなたは不倫男で私の男だ。こういうのを世間では何と言ったかな。
　そうセフレだ。　あなたの役割だ。
　冷静に分析すれば家庭と会社の2重に負担のあるあなたの方が立場は弱い。
　でも立場が弱いなんて考えない。思い知らされている人は多いのに。
　道徳的には私も褒められないけど、影響力のないチッポケな存在だと許してもらおう。
　彼は焦らしている積りか、お陰であれこれ考えられる。
　そのうちどうでも良くなるだろうけど。
　普段はどうか知らないけど1時間超掛ったからまあ満足で優しくなる。お掃除までしてあげた。奥さんにばれないように返してあげる。
　甲斐甲斐しく世話を焼いてあげているのに、どこか泥棒さんが帰るみたいだ。
 
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まあ、ダメもとで、