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家を開くリノベ  #空き家の福祉活用

家を開くリノベーション

住宅地では、プライバシーを守るために生垣や階段で囲まれた家が一般的です。しかし、これが逆に高齢者にとってのバリアとなり、家に入りにくく、外に出ることも難しくしてます。その結果、ひとり生活の高齢者が事故や異常に気付いてもらえない状況が生まれています。こうした閉鎖的な状態を打破し、住みやすさを向上させるために、家を開くリノベーションが重要になっています。

かつての高級住宅地は、生活が伺えない住宅地。塀と階段がバリアになり、高齢者の孤立化が進行する。

かつての町屋をアイデアを活かす

かつての町屋では、通常、自宅で商売が行われていました。自宅での仕事だったため、保育園などの必要もありませんでした。また、仕事は親の仕事を引き継ぐことが一般的で、特別な学校に通う必要もありませんでした。かつては、出産や看取り、季節の祝祭、結婚式や葬儀など、様々な行事が町屋の中で行われていました。このような生活スタイルに合わせて、「町屋」にはさまざまな工夫が施されていました。私たちは、これらの町家のアイデアを活かし、広い意味での空き家の福祉活用に取り組んでいます。

5つのリノベポイント

①掲示板・ベンチ

最初に、家の周りの塀を取り払って、その代わりに掲示板とベンチを設置します。これにより、通りがかる人が気軽に座ってくつろげるようになり、挨拶や会話が生まれやすくなります。また、塀をなくすことで視界も良くなり、家の防犯性も向上します。掲示板は日常のイベントや注目すべき出来事を共有し、地域のコミュニケーションを促進します。

塀をなくして立ち寄りやすくする。庭をスロープを設けてバリアフリーにする。

②リビングアクセス

今までの玄関に加えて、庭を通って直接リビングにアクセスできる別の経路を作ります。これにより、様々な利用シーンに対応できます。例えば、おじいちゃんやおばあちゃん、車椅子の方が来る場合でもアクセスがしやすくなります。車もリビングの前まで近づけるようになります。また、来客用の入り口と日常生活の入り口が分かれているため、催し物やお店の運営がスムーズに行えます。

高齢者・子ども、いろいろな人が思い思いに立ち寄りやすいリビングアクセス

③オープンキッチン・ダイニング

食事を中心にすることで、人とのつながりが豊かになります。1日3回の食事は時間をたくさん使う行為で、例えば、用意、食べる、片付けるといった作業を合わせて約100分かかると考えると、1日に約5時間もの時間をかけています。買い物も加えると、その時間はさらに増えます。料理や食べる場所を一人だけでなく複数の人が快適に使えるようにすると、さまざまな会話や交流が生まれやすくなります。

空間の見通しがよく、さまざなな動きが連携しやすいオープンキッチン・ダインング

そのための工夫がオープンキッチン・ダイニングです。ここでは、空間が広く見渡せ、各人の動きが視覚的に把握しやすいように工夫されています。また、外と室内がスムーズに行き来できる土間も設けられています。調理と片付けに便利なシンクが2つ備えられているなど、かつての町屋のような使いやすさが重要視されています。

④セミフォーマル和室

最近、和室が再評価されています。最新の住宅でも、ひとつの部屋を畳の敷かれた和室にすることが増えています。和室は災害時の避難場所としても好まれています。和室は、家具がなくてもリラックスでき、子供も大人もくつろげる空間といえます。最近のリノベーションされた民家型レストランでは、畳の上に机と椅子を配置する和洋折衷のスタイルも見受けられます。畳は木の床よりも柔らかく、高齢者の転倒予防にも寄与します。このように和室は心理的にも機能的にも多くの利点があり、現代社会でなくなることはなさそうです。

まちに開いた住宅の改修案。寝室からつながる、多様な楽しみが生まれるセミプライベート空間。

この改修計画では、和室を子供たちの英会話や公文学習などの学びのスペースとして活用します。これはセミフォーマルな和室としても利用でき、書道や花道・茶道の活動にも適しています。さらに、ヨガ体操教室、整体やマッサージのリハビリなど、さまざまな目的に柔軟に使えるようになります。

⑤ユニバーサルトイレ

トイレは住宅の中で最もよく使われる場所の一つです。トイレの機能を向上させることは非常に重要です。このような改善は、身体的な制約があっても独りで使用できたり、車椅子の利用者にも対応でき、また子供連れの来客にも利便性が高まります。これにより、異なるニーズを持つ人々が心地よく訪れることができます。

廊下だけでなく寝室からも入れるユニバーサルトイレ

この改修計画では、トイレ、洗面台、脱衣所を統合したユニバーサルトイレが導入されています。これはオランダの高齢者住宅でよく見られる形式で、寝室の隣に配置され、浴室とも連結されています。

ワーク 実家の福祉活用をデザインする

実家の福祉を考えて、将来のために家をアップデートしましょう。

  1. 現状を知る: ますます大切になる実家。まずは、その家の平面図を描き、どんなことが大切で、どんな課題があるかをコメントとして書き込んでみましょう。

  2. 改修案を考える: 次に、改修案を考えましょう。今までの利用で不便だった部分を修復するだけでなく、地震や気温の変化にも強い家にするアイデアも大切です。そして、将来の世代に引き継ぐための「家を開くリノベーション」をデザインしましょう。

  3. 家族にプレゼンする: 最後に、この案を家族にプレゼンしてみましょう。親や兄弟に説明することで、いろいろな意見が出てくるでしょう。それらの意見を記録して整理することで、将来の生活に関するビジョンを共有できるようになります。

設計:
川口裕人(1110設計室)
森川愛友(大阪公立大学大学院生(当時))

【参考文献】福祉環境デザイン原論〜居住のブリューイング、森一彦、2022


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