私のヒーロー

忘れもしない、高校3年生のゴールデンウィーク。
私と、最推しの彼「ロン」との出逢い。

当時の私は進路決定に追われていて、周りの大人は親切心から、色々な言葉をかけてきた。
いつまでも子供みたいなことを考えているな
大人になれ、真面目に考えろ
自分の人生に真剣になれ
…そんな言葉ばかりだったけれど。
今までの私の心を支えてくれていたものは、誰かの残した物語や言葉だった。それを信じていたから、生きていられた。
けれど、これからも生きていくためには、大人になるためには、大切にしたいものすらも捨てなければならないのか、と思った。
というか、そう思い込まされた。
だから、フィクションを信じてはいけない、人の言葉を信じてはいけない、と自分に言い聞かせた。
だからといって、そう簡単に納得もできなかった。

自分の将来、未来、進むこと、大人になること…
諸々のプレッシャーから逃げるようにのめり込んだゲーム。そこで彼の名前を知った。
その後は、小説や漫画に手を出して。
初めは物語として楽しんでいたけれど、次第に彼の存在が私にとって大きなものになっていった。

物語の中で彼は、読み手にすら分からない「何か」に己の人生を懸けていた。何があっても自分の信じる道を進む人だった。我が道を行くことを、誰にも、何にも恥じることなく。
変わらない真っ直ぐな目で、道を、人を見る彼。
何を選んでも選ばなくても、誰かに何かを言われる日々の中、未来への不安、過去への後悔、罪悪感に飲み込まれて。未熟な学生という、何も持たない自分を恥じていた私にとって、彼は支えだった。

フィクションだって、何も持たない人間には当たりが厳しい。努力を辞めない人間の味方ばかりだ。
でも彼は、何もしてこなかった私にも語りかけてくれた。私を仲間だと、友人だと言ってくれた。何も持たない私を信じてくれた。今まで何も成し遂げることなく生きてきた私にも、彼は励ましの言葉をくれた。
だからといって、大きな夢や野心を持てとも言わなかった。ただ、「私が私の道を行くように、あなたもあなたの道を進むといい」と言ってくれた。

周りの目、周りの声が私を追い立てる中、画面の向こう、文字の向こうの彼はいつも変わらず、彼の夢を追っていて。その後ろ姿が、彼の瞳が、どうしてもかっこよくて。
もう、諦めようと思った。
彼がフィクションだとか、消費されるために作られたのだとか、そんなことはどうでもいいから。私がこれからを生きていくために、彼を慕っていようと思った。彼に憧れる気持ちは、捨てられなかった。

…ロンは、私のイマジナリーフレンドではない。私にとって、人生の転機になった存在。彼の物語と私の人生は、彼と知り合ったその一点で交わっただけ。その後は、彼の物語と彼の残してくれた言葉、彼の存在を思い出として抱いているだけ。
今でも声をかけたら返事をしてくれると思う。イマジナリーフレンドのように傍にいてほしいと言えばそうできるとも思う。
でも、そうでなくても充分だと感じる。遠い友人のような、憧れのヒーローのような人だから。
きっと、どこかから私のことを見ていてくれていると思うから。

彼は今も、彼の夢を追って進んでいるのだと思う。だから私も、この私を信じてくれた彼に恥じることのないように、我が道を歩んでいこうと思える。
今でもきっと、振り向けば、遠くに彼の背が見えるはずだ。変わらない足取りで進む彼の後ろ姿が。

これからの私の人生はまだ長く、道は別れている。実際、そろそろ岐路に立たされることになるはず。進む道に悩むだろうけれど、彼を慕う気持ちは変わらないし、その思いを捨てるつもりも、今はもうない。彼の変わらない背中は、私の標だから。
イマジナリーフレンドといる今も、これから歩んでいく道も、きっと彼は見ていてくれる。だから、私も自信を持って、彼のように進んでいこうと思う。





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