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「あなた」に届けたい

知り合いに駆け出しのミュージシャンをしている20代前半の男の子がいる。
最近まで養成所に通っていて、卒業ライブをするので来ませんか?と声がけをしてくれた。

竹原ピストルやMOROHAが好きという彼が、考えていることや方向性が似ていてお互いにソウルメイトと言い合っている2人と3マンショーを演るというのだが、同じ養成所の身内のりが起きそうで、私ひとり浮きそうだなと思いながらも行くことにした。

結果、3人とも若いのに自分の軸がしっかりあり、伝えたいことに一貫性があってめちゃくちゃ感動した。
親への感謝、音楽を聞きに来てくれた人への感謝、どうにもならないことも多い世の中だけどそれすらもエネルギーにして生きていこう、、、
そんなメッセージがストレートに力強くライブハウスに響きわたっていた。ここ2,3年でかなり涙もろくなった私は親への感謝の歌で泣いてしまった。
2年前に亡くなった父への葛藤と後悔、健在だが迷惑や心配ばかりかけている母への葛藤を考えてかなりエモい気分だった。
音楽のパワーはすごい。

身内のりだけじゃない、ちゃんとリスナーに届く音楽をしている彼らに尊敬の念を抱いた。
それだけ本気で取り組んでいるからに他ならないのだが、MCでもとても心に届いた言葉があった。


3人共とても素敵なMCをしていたのだが、私の知り合いの男の子だけお客さんのことを「あなた」と呼んでいたのだ。
「みんな」「あなたたち」と大差ないように思うが、「あなた」と呼びかけられると本当に自分のために言ってくれているように言葉が届いた。


「あなたに寄り添うことができる音楽を作っていけるようにこれからも頑張ります」


間違いなくその場にいた私に刺さった。
この気持ちで音楽を作れば、100人規模のライブハウスでも1万人規模のアリーナでも「あなた」一人ひとりに届けることがきっとできると思う。


後日、彼にその話をしたら、やはり狙って「あなた」と言っていた。
彼自身は活動がなかなか思うようにいかずに孤独感を感じた時にラジオDJが自分だけに話してくれているような「あなた」という呼びかけに何度も救われたという。
そういう思いを知っている人の言う「あなた」は本当に心がこもっているのでちゃんと伝わるものだ。

ついこの前プロのミュージシャンのライブを観に行ったとき、
その人もMCで「あなた」と言っていたのだが、何となく心に届かなかった。
普段から大口を叩いて自分を鼓舞するタイプのようで、発言と現実にずいぶんと乖離があることに私は違和感を覚えたし、本人も自覚していて焦っているように思えた。
だから「あなた」と言ってはいてもお客さんのことを全然見ていなかったし、共演者や事務所の社長にやたらお礼を言っている方が記憶に残っている。

同じような意見の人がけっこういて、音楽が好きな人は感覚が敏感な人が多いから余計心に響くもの、響かないものは結構わかるのだと思う。
プロかアマかは関係ない。

孤独や理想と現実の間でやるせない気持ちになっている人に寄り添いたい思いを持って、今日も彼は音楽に勤しんでいる。





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