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ブチギレるクレイジー上司 本当は愛のムチ

私の上司はクレイジーである。見た目はおじさん!頭脳は中2!の逆コナンのような人のため、やんちゃが過ぎると周りはときどき迷惑するが仕事はできるし6個入りのあんぱんを買ってきてデスク近くの人に配ってくれるなんだか憎めない奴である。

そんなクレイジー上司が、先日とあるオンラインミーティングの場でブチギレた。
社内に響き渡るほどの大声で怒りの矛先をとあるひとりの男性社員に向けた。

その男性を仮に鮫島さんとしよう。
鮫島さんは全国にある店舗の新人スタッフ採用部署の部署長をしている。来る日も来る日も面接をしては採用・不採用を判断し、月1回は全国の新人を集めた研修を担当している。

うちの会社に転職してくる前は販売や営業の仕事を長年やってきたという彼は、自分の販売スキル、営業スキルの高さを良く自慢げに話している。「◯◯っていう商品が発売になった頃、俺のいた店舗が全国で1位になって、その中でも俺が1番成績がよかったんだよね」など、それはそれは輝かしい過去をお持ちのようだった。

なので研修ではこれまで培ってきた営業スキルを活かして新人スタッフたちに営業の指導をしているのだが、一つだけみんなが気になっていることがあった。

鮫島さんはうちに入ってから一度も営業をしたことがない。

どれだけ営業が上手な人でも、売るものが変われば営業トークが変わるからまずは現場に行って先輩の実践を見て、実際に自分でもお客様相手に営業をしてから研修官になると思うのだが、彼は現場を一度も見たことがないまま研修をしている。
現場第一主義の我がクレイジー上司はそれがずっと気になっていた。
踊る大捜査線の現場と会議室みたいなことが我が社でも起きていたのだった。

クレイジー上司が営業を手伝わなくてはいけなくなった時、ベテランの店舗スタッフさんについて流れを覚え、独りで営業に周るようになり、ついには研修を終えた新人スタッフたちに現場でOJTをするようになった。
そこで、研修を終えたはずなのにあまりにも何もわかってないまま現場に来る新人が多く、研修で何やってんだ?と疑問を持ち、試しに研修の様子を観に行くことにした。

すると、クレイジー上司からすると「研修という名の鮫島劇場」が繰り広げられており、ほぼ鮫島さんが過去の栄光や自慢話を語り、営業や手続きの大事な部分が抜け落ちてる時間のムダでしかない研修だったようで、こりゃダメだと感じてクレイジー上司も毎回研修に参加して説明が足りない部分を研修するようになった。
私がいる部署・新規立ち上げ部署・営業ヘルプ・研修官と4つのわらじを履いている状態のクレイジー上司は1日のスケジュールがパンパンで多忙を極めていた。

そして事件は起きた。クレイジー上司がOJTで同行する予定だった新人スタッフが当日、時間になっても現場に現れなかった。まさかの道に迷ってしまったようで、到着が30分ほど遅れてしまいそうと連絡が入った。
うちの業態が特殊技能を持つスタッフが現場でお客様対応をするため、あくまで営業のOJT同行のクレイジー上司は実際にお客様の予約内容に対応できず、次のスケジュールもあり開始時間がずれると同行ができなくなるため、申し訳ないがお客様に帰ってもらうことになった。

本社から現場に移動しただけになり1時間のタイムロス。何しに行ったかわかんねーよ、とクレイジー上司はめちゃくちゃ腹を立てて本社に帰ってきた。

事の顛末を鮫島さんに報告したが何もしようとしなかったため、クレイジーがその新人に指導の連絡を入れた。

会社内全体に聞こえるような大声で
「早めに30分前には着いて準備しようとか考えなかったんですか?予約を入れてくれた部署や私の人件費も時間もかかってます。お客様にも迷惑がかかってますよね?そういうことわかってますか?これは仕事ですよ。もう二度と同じこと言わないんで、改善してくださいね。」
と伝えて電話を切った。言ってることはごもっともすぎる。
最近こんな風に怒れる人って少なくなったよなぁと思いながら自分の立ち振舞を振り返っていた。
当然鮫島さんの耳にも入るボリュームだったのだが…

この5分後くらいに、鮫島さんと同じ部署の人が話す声が聞こえてきた。
Aさん「あ、あの新人ちゃん。辞めたいってメール来てるよ」
鮫島「えー、まじでー?」
と全然深刻に考えていないようなヘラヘラしたやり取りだった。
これを聞いたクレイジー上司の怒りが頂点に達した。

その後すぐにオンラインミーティングの予定が入っており、クレイジー上司、鮫島さんを含んだ複数名でリーダーミーティング的な会が開かれた。
そこで誰かがクレイジー上司の背景を見て、「あれ?本社ですか?この時間は◯◯にいるんじゃなかったでしたっけ?」とふいに聞いたことがトリガーとなってクレイジー上司が大爆発した。

「営業に行きましたけど新人スタッフが来なくてお客様に平謝りして本社に戻ってきましたよ。惨めでしたよ〜。自分の子供と変わらないくらいの年の女性にペコペコ謝って。他のお客さんもいる中で。何が腹立つって、その新人スタッフに誰も採用部署から一本の電話もしないことですよ。それで辞めますってメールが来てマジでーとか言ってヘラヘラしてるでしょ。何やってるんですか?ひとり採用するのもコストがかかってて大変なんでしょ?いつも鮫島さんスタッフに言ってますよね、1件の連絡漏れで新しい子が採用できなかったら君のせいで会社が損をするから適用な仕事するなって。自分が責任感なく適当な仕事してたら示しがつかないじゃないですか。いい加減、ちゃんとやったらどうですか?
ちゃんとやらないから私が代わりに電話して指導しましたよ。鮫島さんは研修したらそれで終わり。ですよね?
今までも各地の新人スタッフがミスしたことを報告しても何も指導せず、研修後は知らん顔。ミスは見つけた人が指導してください。って、なんじゃそりゃ。そんなのやってらんないでしょ。
私にきつく言われたからその新人さん、辞めたいって連絡してきたんじゃないですか?」
とすごい勢いでまくし立てた。声もでかいので社内に響き渡る鮫島へのディス。ワイワイガヤガヤしていた社内がシーンとしていた。

誰もが鮫島の反応に耳を傾けた。

「あー、いや、クレイジーさんが言ったから辞めたいとかじゃないと思うんだけど&%$#”〜ゴニョゴニョ」

誰もが思った。「謝らんのかい!」と。
そう、鮫島さんはとにかく謝らない人なのだ。
クレイジーは続けた。

「実際に営業に言ってないから1件の重みがわかってないし、誰かの尻拭いをする大変さを全然わかってない。以前、採用部署の田中くん(仮)が営業に駆り出されたときだって、めちゃくちゃな案内をしてお客様を怒らせたのを自分がお客様に謝って話しをまとめましたよ。
鮫島さんもいい加減、営業に出てみたらどうですか?去年から鮫島さんもエ営業出てみろって言われてますよね。後輩の田中くん(仮)は行きましたよ。普通は先輩や上司の背中を見て部下は動きますよ。鮫島さん上司でしょ?全然背中見せてないじゃないですか。そんなに忙しいですか?」
とさらにまくし立てた。

鮫島「忙しいです!(きっぱり)それに、営業に行けとは言われてなくて〜&%$”〜〜ゴニョゴニョ」

誰もが思った。「言い訳はいいから営業一回行きなはれ」と。
そう、鮫島さんは言い訳が得意なのだ。

ク「事務作業を優先しすぎてませんか?自分の優先順位はお客様対応が一番ですよ。だから営業の依頼は優先順位あげてやって、人がいないと言われたら土日でも出勤してやってますよ。その営業の合間に事務作業をやるんですよ。鮫島さん、土日はしっかり休みますよね?」

鮫「ん〜、営業が嫌とかじゃなくて、その…言い訳…ん〜まぁ言い訳っていうかその…’&&%$#”〜〜ゴニョゴニョ」

誰もが思った。「絶対営業イヤなんじゃん」と。
そう、鮫島さんは自分を大きくみせたくて自分の気持に嘘をつくクセがついているのだ。

ク「会社が用意した営業研修受けてますよね?営業行かない人に受けさせますか?そういうことですよ。営業したことない人が研修してるのを現場で何て言われてるか知ってますか?元々営業やってて自信があるんでしょ?それを示せばいいだけの話しじゃないですか。……もうこの話しは辞めましょうか、議題いきましょう、議題。新規部署の件から行きますね。」


クレイジー上司の話しが正論すぎて一見責めているように思えるのだが、これまでも何回もクレイジー上司はじめ、他の人達もさんざん同じことを伝えてきたが鮫島さんは頑なに営業に行かないまま研修の見直しもせず、ずっとみんなのアドバイスを無視し続けてきた。

だからこれは私はクレイジー上司からの愛のムチだと捉えている。
みんな最初は鮫島さんと言い合いになったり喧嘩していたけど、言っても無駄だと次第に諦めて何も言わなくなっていて、本当に裸の王様のようになっていた。
怒ったり喧嘩したりするのはエネルギーがいる。だからぶつからずにスルーしたり真に受けないようにして受け流したり、必要最低限のことだけ話して本気のぶつかり合いを避けてきた。

1年前は鮫島さんの部署は6,7人スタッフがいたが、受け流すのにすら疲弊してしまい、執行役員に相談してみんな時期をずらして地味に部署異動をしていき、新メンバーを迎え現在は3人になっている。ここは現在よくぶつかるターンにいる。

人数が減っているから忙しいのは事実だと思うが、そもそも人がどんどん減っていく時点で何か気づかなければいけなかったことがあったのではないだろうか。
その機会を全て逃してきて、今回クレイジー上司のような大きい声でハッキリと言う人から言われる流れになったのではないかと思う。
課題を先送りにするとどんどん大事になると言うがまさにその通りなのかもしれない。
このミーティングの翌日、クレイジー上司はなんか疲れが取れないわー眠いーと言っていたので相当、エネルギーを消耗したようだった。
大変な役割、お疲れ様でした。

この愛のムチを活かすも殺すも鮫島さん次第。
この機会を逃したら、もっと大変なことになりそうな気がするのでこの愛を受け取ってもらいたい。
人のふり見て我がふり直せで、これを書きながら自分にも驕っている部分がないか気をつけて、頭を垂れる稲穂の気持ちで過ごそう。

いろんな気づきをくれる貴重な存在の上司に恵まれたことを誇りに思う。








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