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日記;父母覚書

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脳内出血で倒れた父と認知症の母。もう亡くなりましたが、日記にしたためていたメモを後悔する事に意味を感じ公開します。
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父緊急搬送>入院(過去日記より)

真夜中の電話はいつだってドキっとします。

日付変わり二時過ぎー

鳴り響いたその電話の内容は、父の入所施設からのものであり

「お父さん、ま~た一人でベッドから車椅子に乗ろうとしたんでしょうね!転んでいましたよ!

今度はどうも骨折しているようなので、総合病院に搬送されたところです!

ご家族の方、至急、付き添いを!!」でした。

いや・・叱責されてもねぇ。。と思う心は置いといて。

明日、手術

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七夕の短冊に託す父の念:過去日記

七夕の短冊に託す父の念:過去日記

今日、父に問うた。

「お父さん、七夕の短冊、書きたい事ありますか?」

思いがけない答が戻って来た。

忘れぬよう、覚書。

「馬で荒野を駆け巡りたい」

涙がこぼれそうになる。

父は、裸馬に乗り、高校(当事、中学校か)に通学していたという、地域で

悪名高き暴れん坊。

馬を校舎近所の畑に繋ぎ、知らぬ顔で授業に出ていたそうな。

「こら、○○!ま~た、馬に乗って来たな!ご近所から苦情が来てお

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父の顔

父の顔

「何をどう言ってもつまらんのぅ。」

と、父がふっと笑う。

その顔があまりに寂しくて

帰宅後も脳裏から離れない。

豪胆でまさに九州男児そのものだった父、

やんちゃを重ねた十代

そして、企業を興した二十代

転身して、経済より誇りを望んだ三十代

父の人生は(父が手記をとうの昔、現役の頃、わたしに預けたのだ)

まさに波乱万丈、そして、輝かしい業績を残した人生であった。

8年前、突然倒れ

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祖父へ

祖父へ

どうか・・わたしを、そして、あなたの息子とあなたが大事になさった嫁(わたしの母)をお見守り下さい。

おじいちゃん、おじいちゃん、泣き言を言わず、静かに息を引き取ったあなたに

似ても似つかぬあなたの息子、我が父は・・今日も今日とて、口角泡飛ばし、文句ばかり言っております。

七夕の短冊・・毎年同じ願い事なの。

*馬に乗って荒野を駆け巡りたい

まぁ・・裸馬で高校に通った悪童たる父ですから・・さ

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祖父よ 祖母よ

大樹よ
空よ
草原よ
山々よ

かの地は時隔てて遠くなりにけり

それでも
わたしに かくあれと
幼き心に教えて下さった
温厚なる敬愛する祖父の魂が
風に乗って聴こえてくるようです

 

母:回想

母:回想

お母さん、お誕生日おめでとう!

ぇっと・・何歳になったんだっけ?”

「38歳よ。わたしは、38歳から年を取らないの。」

遠い昔の記憶、母の名言。

洋装も和装も似合った母の並外れた美貌。

小中学校の保護者会、校長先生筆頭に男性教師達が色めき立ち

母を観に来ていたと、後に知る。

そんな騒動を・・我が兄は恥じ入っていたのだった。

昨日ホームで見た母の明朗さ、思いがけず観た闊達さー

車椅

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メキシコ産オパール

メキシコ産オパール

わたしは、そもそも宝石に興味が無い。

唯一、冠婚葬祭用に真珠を持っている程度だ。

本日、母の口から唐突に出た言葉が

「オパール!!わたしのオパールは!?」であった。

父が事の詳細をのたまう。

「日本じゃオーストラリア産が人気あるが、メキシコ産のオパールは赤い。価値在るオパールはメキシコオパールだ。俺がこれに買って来てやったものだ。家にあるか?」

・・・シラナイ。 オパールを検索すれば、

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父よ

父よ

くわっ!と、その目を見開き

”お前は!”と、怒声を発せよ

入道雲の如く

大岩の如く

圧倒的な畏怖を

わたしに味あわせよ

 

事の推移

 わたし自身の風邪にて一週間訪れなかった間

 父は隔離室に入れられ点滴を受け

 頬削ぎ落ち目は窪み

 久し振りに会う父は死に行く人の如く

 変貌遂げていた

 お父さん!と声を掛けても眠ったまま

 「何も食べないからです。」介護士が憎憎しげ

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父語る/日記より抜粋

父語る/日記より抜粋

拉致問題、首相が本気出しゃ、解決するにきまっとる。

望むだけの金出してやらんか。気の毒に・・親御さんが生きとるうちに、娘返してやらんかい!

しかし・・お前、海辺に住んどらんで良かったのぅ。

ぼやっとしとるから、簡単に拉致されたのぅ。がはは。

やれやれ。

ぼやっとしてると思うのは、昔も今も、おとうさん、貴方だけですってば!

私を一番知らないのが、貴方と母だとは・・あぁ、情けないやら笑える

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祖父_日記より抜粋

祖父_日記より抜粋

七夕に逝った祖父へ。

あの日はこの時期にしては稀有な晴天でした。

毎年想うのですが、父の言葉

「オヤジは善人やったから、誰もが忘れん七夕に逝ったのぅ・・」

それだけは確実で、わたしは、祖母や他の愛する方の命日を忘れても

七夕だけは、あなたを思いあなたに感謝し、静かに短冊に願い事を書き下げる時を

過ごします。

今夜も雨。

仏の里に産まれ、同じく近くに生まれ育った祖母と結婚し、

福岡

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かっこいいではないか、お父さん

かっこいいではないか、お父さん

それでも母は父を覚えているのだ。
多くを忘れようと、母が口にする「一番大事な人を忘れるわけがなかろうもん」

母の大手術ののち、車椅子で近付いた父が
「おい、オレが誰かわかるか!?」の問いに
即答した母であった。既に三年前・・

認知症という病は、特効薬が無い。が、症状を遅らせることは出来るのだ。それを助ける薬もあるにはあるが、何といっても、周囲の言葉や働きかけ、母の表情を察知し
喜んでいるとわか

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覚書:母の誕生日

覚書:母の誕生日

大好きなモンブランを買って、

ついでに、ホワイトデーのラッピングがキュートなお菓子の詰め合わせを持参し、

母の誕生日を祝う。

スプーンを使わずに、手に持ち、あっというまに消えたケーキ。

唇についたクリームを拭う。母はその間も待てないように、新しい箱を開け始める。

あけるというか、破る。

私が小学校の頃だろうか。

「お母さん、何歳になったの?」と訊けば

「35よ、ずっとこれからは、3

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覚書:父よ母よ

覚書:父よ母よ

あと二ヶ月で、父、奇跡の生還より丸三年経過する。

脳出血で高次脳機能障害となった父は、リハビリを続けるも未だ歩けない。

当初あった言語障害は回復。

父の入院時より、母の認知症は悪化した。

父母の三年は、私にとっても、新しい三年でありました。

尊大で倣岸不遜が服着て歩いているような、巨躯の父は

その肉体のみ半分になり。伊達男たる父は、全てのスーツ、ネクタイ、手を通すことも着ることも

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桃、一枝

桃、一枝

父が倒れる前のこの季節、母を連れ梅や桃、そして桜を観て愉しんだ。

「土産はイラン、梅の一枝でも買って来い。」

留守番を選ぶ父に、そう、母は常に思いっきり沢山買って帰るのだ。

半分以上は彼女自身が食べる為にw

花を愛でると共に、花とのショット、写真をねだる母を幾枚も写し、

花の色に負けじと、紅ひき服装に気を配り

唇はすこし口角上げて、決して、歯は見せずに微笑む人

まだ3年前なのだ、と思

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