やっぱり皮がスキ 38

M⑬

 東京、いや、千葉から帰って4日後の夜、久々にナツミと二人で食事に行くことになった。デイリーランドのお土産を渡しに行くとメールしたら、飲みながらゆっくり話を聞きたいと返事があったのだ。ナツキちゃんは旦那に見てもらうという。
 仕事を終えて土居町唯一のカフェに向かう。カフェとは云っても田舎だからか、メニューは焼鳥とかホルモン焼きとか、要するにお洒落な雰囲気の居酒屋だ。
 店に入るとナツミは既に窓際の四人掛け席で、カクテル的な何かを飲んでいた。
「おまたせ」
「いや、わたしもさっき来たとこ」
 さっき来たばかりにしては、グラスの中身は半分ほどに減っている。
 店員にビールと焼き鳥の鶏皮を注文すると、待ってましたとばかりにナツミが詰め寄った。
「超イケメンだったんでしょ? 写真ないの? 見せてよ」
ナツミにはジェフやハヤトくんたちと東京に行くことを粗方伝えていた。
「ちょっと落ち着きなよ。写真あるよ。ほら」
 UFO発見場所の石碑の前で撮った画像を見せた。
「うっわー。超イケメン。で、もう帰っちゃったの?」
「うん、帰っちゃったよ」
 敢えて素っ気なく答える。
「なんだよ、帰っちゃったのかぁ。やっとマドカにも春が来たかと思ったのにぃ」
「春かぁ、来ないなぁ。結局、デイリーランドは小学生と一緒だったもんなぁ。あっ、そうだお土産。ナツキちゃんと食べて」
 ナツキちゃんが好きだと聞いていた、リリーのクリームサンドビスケットを渡す。
「わぁ、ありがとう。ナツキ喜ぶわぁ」
ようやくわたしのビールが到着。乾杯して一口煽る。
「おいし~」
「あれ、ビール嫌いじゃなかったっけ?」
「なんだか最近好きになっちゃって。どんどんオヤジ化していくよ」
「鶏皮にビールって、まさにオヤジね」
「ほんとだよね」
 それから、ジェフがデイリーランドのアドバンスド・フリーを買ってくれて、アドバンスド・フリーの威力ったら半端ないことをこれでもかと訴え、一緒に行ったハヤトくんがとても良い子だったこと、ハヤトくんのおじさん夫妻もとてもいい人だったうえに、奥様のメグミさんは元パティシエールで最強に美味しいシフォンケーキの作り方を教わったから、うまく出来たら今度持っていってあげるなどと、取り留めのない土産話をしていたところに鶏皮が届いた。
 鶏皮の香ばしい香りに気を取られ、わたしの話しが途切れたのを見計らったかのように、ナツミが声を潜めて聞いてきた。
「まぁ楽しそうで良かったけど、そのジェフさんとは、何にも無かったの? 何日も一緒にいたんでしょ?」
 これが今日のメインテーマか。期待に応えるとしよう。
「あったよ」
 ぶっきら棒にそう云うと、ナツミが驚いたような嬉しそうな顔をした。
「あったって、何が?」
「何がって・・・」
 わたしは鶏皮を一串つまんで答えた。
「喰ってやったわよ」
 そう云いながら鶏皮を喰らう。ジューシー。
「く、く、喰ったって、ヤッたってこと?」
「うん」
 くにゃくにゃした食感を楽しみながら頷く。
「え、どうなの?」
「どうなのって?」
「いや、ほら、外人さんのアレって・・・」
 ナツミは興味津々だ。なんと答えよう。思考を巡らせると口の中の感触に行き当たった。
「ちょうどこんな感じ。いや、もうちょっと芯はあったかな」
「えぇ! ちょっと、なにそれ! キャッキャッ・・・」
 いや、本当はこんなんじゃ無かったけど、まあいいか。ナツミも喜んでくれてるし。

『やっぱり皮がスキ 39』につづく

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