『ダークウェブ・アンダーグラウンド』書評



タイトルは「ダークウェブ」「アンダーグランド」だが、ポスト・インターネット・カルチャーをSF・オカルト、そしてサブカル的な想像力で回収した文化論として読まれるべきで、著者の主眼もそこにあるのではないか。

ともかく多様・多元・分断・混沌化している(ポスト・)インターネット・カルチャーを「横串し」せんとする著者の野心に賛辞を送りたい。

ダークウェブに関しては、ダークウェブとそれを支える、PGP、ビットコイン、Torという暗号システムの歴史・背景に関する考察と、これらをインターネットの歴史と言説の中に位置づけ、コンパクトに解説した日本語の文献として十分に価値はあるだろうが、個人的にはここに著者の独自性はそこまで感じられなかった。

むしろニック・ランドの暗黒啓蒙、新反動主義、オルタナ右翼などの潮流をサイファーパンクやダークウェブからの流れの中で紹介しつつ、著者の文化的偏愛・遍歴から照射している本書の後半部分に独自性があり、あくまでインターネット・ユーザーとしての「放浪者」あるいは「傍観者」の立場から考察されている点におもしろさがある(著者がredditや4chanを根城にしているようで、知らないインターネット・ミームや都市伝説も多かった)。アカデミックな網羅性を期待すべきではないし、そのように書かれていない(後半は特に)。

最初に述べたとおり、「ダークウェブ」をウリにしたい出版的意図と著者の主題には乖離があるように感じられたが、その乖離をブリッジする役割を与えられた「補論1」に著者ならではの視点があまり感じられなかったのが少し残念だった。

いずれにしても、時宜を得た、随所に異彩を放つ快著であり、広く読まれることを期待したい。

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