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有限会社うまのほね 第1話「学校の七不思議」 Part15

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前回までのあらすじ
 "ドローンのお化け"に二度の敗北を喫したハルキたちは、タロウの心が折れたのをきっかけにその日の調査を断念した。
 しかしその夜、カンタの母親から「カンタが居ない」と連絡が入り──

 電動自転車を漕ぎながら、俺は電話回線をオープンする。2コールほどで相手が出て、俺はイヤホンマイクに向かって叫んだ。

「どうも、飯島です! 夜分にすみません、ちょっと学校入りたいんスけどいいですか!?」

『あん? どうした?』

 電話の向こう──秋小の大垣教頭が、いつものようにぶっきらぼうな声で答えた。

 ──母親によると、カンタは帰宅後しばらくは自室で宿題に励んでいたらしい。しかし21時を回った頃、母親が風呂に入っているスキに居なくなったそうだ。いつも身につけさせているGPSロガー付きの鍵は部屋に置き去りだった。

 その辺りを、俺は昼間の件と合わせてかいつまんで報告する。教頭は黙ってそれを聞き、『ちょっと待ってろ』とだけ答えた。イヤホンから聞こえ始めたタイピング音を尻目に、俺は秋小前の"心臓破りの坂"を登っていく。

『あー、居るな』

 教頭の声が再度聞こえたのは、俺が正門前に着いたころだった。恐らく、リアルタイムの監視カメラ映像を確認しているのだろう。

『今、2号棟に入ろうとして……あ、警備ドローンに見つかった』

 ドローン。その単語に俺は目を見開く。

「正規のやつですか?」

『ん? ああ……正規のやつだ。赤い奴じゃない。警告音にビビって逃げてったが……正直、暗くて追いかけられん』

 教頭の言葉とほぼ同時に、遠くからビビビとブザー音が聞こえた。これが警告音か。

「了解です。着きましたんで、あとはこちらで」

『おう。終わったら報告書。赤いドローンも合わせてな』

「うっす!」

 通話を切って、自転車を降りる。俺はメガネを掛けて正門の前に立った。暗視モード、捜索対象はカンタ……設定しているうちにガラガラガラと門が開く。開き切るより早く、俺は工具箱を担いで駆け出した。

 ブザー音は引き続き聞こえている。走る俺の上空を、2基のドローンが飛んでいった。不審者発見時の連携システムが発動したらしい。

「あっちか」

 方向的には校舎の反対側──裏門のあたり。確か、兎小屋があったはず。

 俺はドローンを追いかけるように走りながら、メガネのツルに触れた。音声コントロール機能がアクティベートされ、眼前に「Talk!」の文字が浮かぶ。

「ネットワーク"秋小ドローン"に接続。アクティブな全てのドローンの映像を出してくれ」

 ピピピッと短い電子音が答えて、視界の端に「Processing...」と文字が浮かんだ。

 メンテナンス受託業者である俺は、ドローンのネットワークに自由に出入りできる権限を与えられている。少しの待ち時間の後、視界に8枚の映像──各ドローン搭載のカメラ映像が浮かび上がる。

 映像が高速で動いているのは、先ほど上空を通過した2基だろう。それ以外でめぼしい映像は……

 と、視線を巡らせて──俺は思わず立ち止まった。

 浮かんだ8枚の映像のうち、右下の1枚。兎小屋が映ったその映像に、カンタが居た。

 そしてその眼前──カンタと、警備ドローンの間。

 そこには、件の赤いドローンが浮いていた。

(つづく)

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