見出し画像

たてよこのあれこれ #00

ついにオープンを迎える。
7月末に物件が確定してから約4ヶ月。東京と行ったり来たりを繰り返しながら少しずつ準備を進めてきた。カレンダーを遡ってみると、合計で10回、滞在日数にすると23日の滞在でここまでたどり着いた。
どこにでもいる普通の大学生。特別お金があるわけでもない。スキルがあるわけでもない。頭にぼんやりと浮かぶ「こんなことがしたい」という気持ちを何となく追いかけ続けてここまで来た。

周りの同級生は大半が就職活動をしている。現実を見つめ、自己を省みて、社会人としての第一歩を踏み出そうともがいていた。高校の同級生には高校卒業と同時に就職する友人も多く、彼ら彼女らはすでに社会人4年目を迎えていた。そんな中で自分はというと、本屋さんをつくるために東京と新潟を往復する日々。
「いったい何をしているんだろうか」
そう考える日も少なくなかった。

高速道路の深夜割引を適用させるため、移動は毎回夜遅くになる。20時くらいに東京(新潟)を出発し、24時すぎに高速道路を降り、25時過ぎに新潟(東京)へ到着する。日中はガッツリ仕事をした後、運転したこともあった。若さゆえにできたことだろうか。以前から「エナジードリンクを飲まなきゃやっていけない状況がおかしいんだ」と反対派だったはずが、いつしか必需品となっていた。サービスエリアの隅っこに車を停め、運転席に座ったまま爆睡したこともあった。


2022年12月2日、オープンの2日前の夜、東京から新潟へ車を走らせていた。いつも東京から新潟に向かう車の中はワクワクでいっぱいだった。「こんなところをリサーチしよう」、「この人のところに行こう」、「机を作ろう」、「大掃除をしよう」、やることは山積み。家族も、シェアハウスで一緒に暮らしている仲間も、大学の教授も、インターンで知り合った後輩も、新潟に来て作業を手伝ってくれたりした。

ただ、今回の移動は違う。明らかに緊張していた。
「この移動で新潟に着いたらいよいよお店をオープンさせるのか」
そう考えると、不安なのか、恐怖なのか、ワクワクなのか、よくわからない感情が頭の中をぐるぐると駆け回って、魂が抜けていきそうだった。

一番初めに物件探しに来たのが4月16日。それから隔週の週末に帰省してリサーチを続けた。近くで理容室を営む友人の父親や老舗の着物屋さん、小さな商店に飛び込みで話を聞いてもらい、周辺の空き家情報を教えてもらう。いろいろと考えがあって、不動産屋や市の空き家バンク制度を使用するという選択は取らなかった。あのとき、突然やってきた僕の話を聞いてくれた方々には感謝しかない。

4月からこれまでの出来事を振り返っていると、自然と気持ちが楽になった。いま思えば「なんだかいける気がする」という根拠のない自信で満ち溢れていた自分に笑ってしまう。(その自信は今も同じかもしれない)
でも、根拠のない自信で色々挑戦できるのであれば安い話だ。
いつも通り真夜中に到着。すぐに実家のこたつで横になった。

明くる日、取材対応や最後の荷物の搬入、整理整頓、掃除などを行い、開店準備を終えた。夜には弟と妹が来て、あれこれ喋りながら作業をした。そんなことも数年後にはいい思い出になるのだろう。

数年前までは野球少年だった僕が、大学で東京に出て、様々な出会いや経験を経て本屋さんをつくった。そしていよいよ明日オープンを迎える。
『たてよこのあれこれ』は書店を経営する中での出来事を綴った物語だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?