『SPY×FAMILY』に学ぶビジネスヒント
column vol.729
アニメや漫画、音楽などサブカルチャーから得られるビジネスヒントはたくさんあります。
そのことは今までも折に触れて紹介してきましたが、今回は話題のアニメ『SPY×FAMILY』に着目いたしました。
〈東洋経済オンライン / 2022年7月18日〉
こちらの作品は、テレビ東京で放映されて大ブレイクしている作品。
もともとは「少年ジャンプ+」という集英社のマンガアプリで、2019年3月より連載開始され、ランキング1位を独走する超人気作品となっています。
あらすじは
冷戦のドイツを思わせる架空の国。コードネーム黄昏というスパイが主人公。彼は所属する組織の命を受けて、敵国の指導者に接触するために、偽装家族を作って子供をとある学校に入学させようとする。
というもの。
主人公は精神科医「ロイド・フォージャー」と名乗り、作戦を遂行する過程で出会ったのが、アーニャとヨルという2人の女性。
娘となったアーニャは他人の心が読める超能力者であり、妻となったヨルは敏腕の殺し屋という訳ありの3人なのですが、それぞれに秘密を抱えた疑似家族生活が描かれていきます。
この作品について、『全裸監督』などを手がけてきた敏腕TVプロデューサーのたちばな やすひとさんが、その人気を秘訣を分析。
これが、まさにビジネスに当てはまるのです。
まずは、たちばなさんが第一に「読者の期待に応える」ことを挙げているのですが、早速ビジネスとの関連性を探っていきたいと思います。
ビジネスの本質は「期待に応える」こと
たちばなさんは『SPY×FAMILY』に込められた期待を、このように解説しています。
ロイド、ヨル、アーニャは、スパイとして、殺し屋として、超能力者として、極めて高い能力を備えていて、期待値が非常に高い。しかも、その期待に気持ちよく応えて、毎話3人が活躍するシーンがあるから魅力が高まっていくのだ。
もちろん、期待に応えるというのは、どの作品にも言えることです。
高校野球マンガなら甲子園出場もしくは優勝、ヤンキーマンガならより強い敵を倒すこと。
ドラマでも最後に印籠を出したり、倍返しをすることで、見る者をスカッとさせます。
当然、ビジネスでも期待に応えることが重要ですね。
しかし、本当に「誰がどんな期待を自社商品に抱いているのか」ということを明確に突き詰められているでしょうか?
自社が文具メーカーだとして、つくるハサミにどんな期待が集まっているのかと考えてみる。
経営コンサルタントの山口周さんは、コンビニでハサミやホッチキスは1〜2種類しか置かれていないのに対し、タバコは数十種類の銘柄が並んでいると指摘。
単に機能を提供しているものと、「意味」を提供しているものはまるで違うのです。
つまり、タバコにはそれぞれのユーザーにとって意味が存在している。
マルボロ、ラッキーストライク、ショートホープなどなど、そのタバコでないとダメな理由があるわけです。
自社の商品に「これじゃなきゃいけない」期待があるのか?
ビジネスを行う上での大切な視点だと感じます。
目的と「障害」が大切
『SPY×FAMILY』から学ぶヒント、2つ目は「目的」と「障害」です。
同作には
「受験に合格しなければいけない」
「星を集めて特待生にならないといけない」
「次男と仲良くならなければいけない」
「弟に偽装家族と見破られてはいけない」
というような目的があります。
しかし、そこには
「平和を脅かす政治家のボス」
「容赦ない受験の面接官」
「仲良くなれそうもない敵の次男」
など、障害が立ちはだかります。
逆に障害を乗り越えるからこそ熱狂する。
では、ビジネスはどうでしょう?
例えば、「こだわりのクラフトビールを届けたい」という目的があるとします。
そこに「限定生産」という障害を加えるとどうでしょうか?
「なかなか手に入らない」という希少性が「欲しい」という気持ちを刺激するのではないでしょうか?
昨年、話題になった「スーパードライ 生ジョッキ缶」がまさにそうですね。
発売と同時に売れ切れ続出。
手に入らなければ入らないほど、手に入れたくなる。
ハングリーマーケットを生み出し、熱狂が生まれました。
もちろん…、意図して仕掛けると大炎上するので注意が必要なのですが…、障害がその商品への執着心に繋がるというのは理解できるのではないでしょうか。
ファンを巻き込んだ「カエル捕獲大作戦」
ちなみに、ファンマーケティングを非常に上手に仕掛けているのが「よなよなエール」などのクラフトビールを手掛けているヤッホーブルーイングでしょう。
ローソンとコラボしてつくった「僕ビール、君ビール。」でのTwitter施策が秀逸なのです。
カエルのイラストがキャッチーなこのビール。
同社の社員が発売日に早朝から、店舗を回り、店内で見つけるたびに商品を購入して「かえるビールを捕獲」と写真付きでツイート。
そして、ファンの方々に「かえるビールを捕獲(購入)して、Twitterにアップしてください」と呼びかけました。
名付けて「かえる捕獲大作戦」。
日本地図を広げ、47都道府県全てで捕獲する目標を立てます。
しかし、ローカルエリアは商品もファンも手薄な場所もあるかもしれません。
そこで、担当者は、このキャンペーンに対する不安な気持ちも包み隠さず投稿します。
これがファンの心に火をつけます。
担当者が困っている。このキャンペーンを達成しなければと。
そこで、ファンがキャンペーンを拡散。
同社のファンではない方々も巻き込み、キャンペーン投稿は4日間で2500件以上の捕獲情報がTwitter上に投稿。
このファンの拡散効果でかえるビールの発売初週の売り上げは、ローソンで販売する大手ビールメーカーの主力製品の売り上げを超え、ランキングで上位に組み込んだのです。
そして、約1ヵ月で完売したことを受けて、ローソンの定番商品に。
SNSを使い、予算をかけずに大ヒットを生み出したのです。
まさに目的と障害を上手く作り出した好事例ですね。
ビジネスにとってやっぱり肝となるもの
そして『SPY×FAMILY』から学ぶヒント、3つ目は「信念」です。
主人公ロイドには「争いのない世界をつくる」という信念があります。
それは、戦争で家族を失った経験があることが起因しています。
ビジネスの世界でも信念は今、とても重要視されています。
「パーパス」「ミッション」に代表されるように、企業哲学に共感して消費が動く傾向が強くなっています。
アップルやナイキなどがそうですし、D2Cの世界で一躍有名になったのが「より良いものを、より良い方法で」という理念を持つサスティナブル・シューズブランド『オールバーズ』はコアファンを獲得しています。
世界ではこの流れを踏まえ、グーグルやアップルのようにCPO(Chief Philosophy Officer/最高哲学責任者)を置く会社もありますし、SkypeやTwitter、Facebookは、哲学コンサルティング企業と提携しているのです。
企業にどのような人格(アイデンティティ)を築いていくのか?
機能では差別化しにくい時代なだけに、ブランドストーリーが重要になる。
といったように、ヒットアニメは「時代と社会の縮図」とも言えるでしょう。
ちなみに、映画『キングダム2』が絶賛公開中ですが、キングダムもよくビジネスパーソン必読の書と言われていますね。
ということで、ぜひ人気作品からビジネスに通ずるヒントを1つでも多く見つけていただければと思います。
やはり、ジャンルを問わず、ウケているものを分析するのは楽しいですね。
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