見出し画像

「社内カンパニー制」の功罪

column vol.532

NTTドコモが、金融決済サービス動画配信などの非通信事業について7月から社内カンパニー制を導入するそうです。

〈産経新聞 / 2022年1月9日〉

カンパニー制とは、複数の事業を推進している企業において、その個々の事業を独立採算の形式で進めます。

ドコモは新規契約が頭打ちの携帯電話以外の生活関連事業を強化する方針を掲げており、独立採算で事業をより機動的に進めることができる社内カンパニー制の下で、成長を加速させたいとのこと。

これにより令和7年度生活関連事業の収益の倍増を目指します。

社内カンパニー制はソニーが導入したことを皮切りに、トヨタ自動車みずほ銀行など多くの大手企業が導入に踏み切っています。

一方、NEC富士ゼロックスなどは、一度、導入しつつも廃止しています。

ということで、社内カンパニー制の特徴メリット・デメリットについて、今回はお話しいたします。

社内カンパニー制の特徴とは?

カンパニー制は独立採算形式なので、企業は個々のカンパニーに対し、人材物資財政全てを委譲します。

事業ごとの機能や組織力の底上げができ、企業全体の力を最大化できる経営体制として認識されています。

よく「事業部制との違いは?」と疑問を持たれることも多いですが、事業部制独立型ではありません

重要な意思決定、経営、人事に関する内容については、本社や企業全体の承認や意向が、常に絡んできます。

双方の違いを下記にまとめてみました。

【カンパニー制】
目的:将来を見据えた経営の効率化
責任の範囲:独立企業と同じく全ての責任
経営戦略上必要な意思決定権有り
人事権投資権などの有無:有り
人材育成
:将来のリーダーが経営を擬似体験
【事業部制】
目的:企業再編による経営のスリム化
責任の範囲:製品・サービスなどの損益のみ
経営戦略上必要な意思決定権無し
人事権投資権などの有無:無し
人材育成
事業部の利益責任のみ。企業全体は見えにくい

事業部制はカンパニー制とは異なり、責任範囲と権限の両方が狭い特徴があります。

あくまでも扱製品やサービスなどの利益責任のみ。一方、カンパニー制は独立企業が担う範囲の責任や権限が与えられます。

また、事業部制は本社の意思決定が必要となり、カンパニー制とくらべて執行まで多くの無駄な時間が発生しがちなため、事業推進のスピードが落ちる傾向にあります。

社内カンパニー制のメリット・デメリット

次にカンパニー制のメリットデメリットについて説明いたします。

【メリット】
●ビジネスの拡張と利益の増大
●責任の所在が明確
●事業展開の迅速化
●組織力と企業内競争力が向上
●経営の擬似体験と次世代経営者の育成
●組織再構築と意識改革の推進

【デメリット】
●部門重複に伴うコスト増大
●本社との連携・企業内交流の希薄化
●組織横断的な戦略の機会損失
●企業統治の再徹底が必要
●自部門の利益を部分最適する傾向
●利益化のためのカンパニー連携が困難


まさに諸刃の剣…。

ビジネスの拡張や利益の増大事業展開の迅速化などのメリットが多くありますが、本社との連携や企業内交流が希薄化しやすく、組織を横断したシナジー効果を得にくくなる点はデメリットと言えます。

また、カンパニーごとに財務人事を所有するため部門や業務が重複し、コストが増大しやすい組織形態でもあります。

さらに、複数のカンパニーが設立されることで、各カンパニーごとに評価基準を含む人事権に相違が出る場合があります。

これにより社員間での摩擦や不満が発生し、結果として仕事に対するモチベーションの低下が懸念されます。

カンパニーごとに人事制度や業績評価が異なる場合は、評価基準や人事管理の公正さを示し、従業員にとって明確で理解可能な基準を選定することが必要となるのです。

カンパニー制の最重要ポイント

カンパニー制の一番のポイントは「経営者マインド」の育成にあると思います。

ただ制度を施行するだけではなく、リーダー陣には経営者としての覚悟と責任を持たせるような意識改革をしないと、組織人としての意識が抜けず小さくまとまる組織になってしまう可能性があります。

それは、社員も同様で、一つのカンパニーの裁量範囲が広くなるため、個々の社員にも主体性(自立性・自律性)、リーダーシップが求められます。

さらに、カンパニー制にすることで、業務分野が絞られている分、仕事も人材スキルも画一化しやすくなります。

事業の成長段階はミッションが明確になることで急成長に繋がっても、成熟段階になった時に行き詰まってしまう可能性があるのです。

だかこらそ、自分たちの持っているノウハウを別の領域の仕事に転換できないかなど、成長しながらも次の事業の種を一人ひとりが能動的な意識で撒き続けないといけないと言えるのです。

カンパニー制が最適かどうかを的確に判断

カンパニー制だけではなく、全ての制度には良し悪しあるはずです。

大切なことはその両面を整理し、会社組織の現状と冷静に擦り合わせ、最適な選択をすることが大切となります(もしくは選択した制度に向けての意識改革)。

一度トライしたとしても、常に最適化のためのチューニングは必要となるでしょう。

ちなみにパナソニックも既存のカンパニー制を廃止し、今年の4月から新たな組織形態に挑戦しようとしています。

〈ニュースイッチ / 2021年10月5日〉

持ち株会社制に移行しつつ、“バーチャル”な8事業部門ごとに経営戦略人事などの権限を委譲。各領域で競争力を磨き、「専鋭化」を目指します。

もともと2020年時点では、新たなパナソニック株式会社と、現場プロセス事業デバイス事業エナジー事業の4つの事業会社が「パナソニックグループの発展の中核を担う」と位置づけられていましたが、今後は重点領域とコア事業などの区分は設けない方針になりました。

理由は重点でないと言われた社員のモチベーションが下がり、顧客側からの指摘もあるからとのこと。

これを見ると、冒頭のドコモの記事にあった「携帯電話以外の生活関連事業を強化する方針」というメッセージが気になりますね…(汗)

パナソニックの楠見社長「どの事業も改善の余地がある」と指摘しつつ、各社の自主経営を尊重しつつ、さらに将来を見据えたパナソニック全体の経営基盤強化に結び付けたいと語っています。

どのような組織形態が良いかは正解はないとは思いますが、既存の「成長市場」「終身雇用」などを前提とした旧来型の形態では存続が難しくなっています。

本日、日本経済新聞を読んでいたら、日立製作所全社員をジョブ型雇用にすることが発表されていましたが、社会の大きな変わり目であることは認識しておきたいところですね。

経営を頭に浮かべると、なかなか頭が痛い…。そんな不確か過ぎる時代なのですね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?