苺大福

便利な世の中になったと思うのは、ラジオ番組を(テレビもだけど)インターネットを介して、好きな時間に聞けるということだ。
久しぶりにクライアント先に出向いての打ち合わせがあったので、いつものラジオを聞けずにいた。
「お昼もご一緒に如何ですか?」と言われ、明後日オープンというクライアントの新しい店で小洒落たランチをいただいて、お土産までもらって帰ってきた。
小洒落たランチは見た目だけでなく、味もよく。店内も、おひとり様席も窮屈さを感じることのないいい店だった。

昼食後は同行したスタッフともその場で解散。
会社にはもう半年近く行っていないがどうなっているだろう?
・・・来週にでも一度行こうかな?
会社に行くには前もって申請が必要というのもどうかと思う。

家に帰り、手洗いうがいを済ませて、ついでに久しぶりだったメイクも落とす。
お湯を沸かして紅茶を淹れる。
打ち合わせしながらコーヒーを飲んでいたので、家でのコーヒーは今日はお休み。
・・・あら!
お土産は苺大福だった。
もともとクライアントは「お菓子屋」からスタートした会社で、苺大福はその最初の店の一番人気の商品だった。

「リバイバル?再ブレーク?今、再び苺大福が熱い!僕の中で」

おやおや。ラジオの話題も苺大福ですか?
お昼前に聞いていたら苺大福を買いに行くハメになっていたのかもしれない、とひとり笑ってしまった。

「苺大福っていつ頃からある?僕が子どもの頃にはなかったけど、でもデビューした頃はもうあったと思うんだよね。最初に食べた時の衝撃は言葉で言い尽くせなかったね」

自分が苺大福を最初に食べたのはいつだろう?
確かに彼の言うとおり、子どもの頃はなかった。
あ、でも地元の菓子屋にフルーツ大福があった。
牛皮餅の中にホイップクリームとフルーツが入った、一口大のフルーツ大福。

「齧ったら中に苺だよ?丸ごと。その食感に驚いたけど、それ以上にびっくりしたのは、苺と餡子が合うという事実」

そう。まさにそう。
思わず声が出た。
餡の甘さと苺の甘酸っぱさが合うというのは驚きだった。

「苺大福もそうだけど、この意外な組み合わせを最初にした人の勇気ってすごいよね」

頷きながら紅茶を飲む。
紅茶はダージリンとアールグレイが我が家の定番。実家がそうなのだ。
今日はダージリン。
一口啜って、こくりと喉に落とした後、ゆっくりと頭を回す。
クライアントとは長い付き合いで、今日も仕事の話以外にもいろいろ話をして楽しかった。でも、久しぶりに仕事で人に会うということに対して緊張した。
家に着いて、靴を脱ぐ前に思わず背伸びをするくらいには疲れていた。

「ところで、苺大福って2種類あるけど、ラジオを聴いている皆さんはどっち派?」

なに?こし餡か、つぶ餡か?

「僕は苺がすっかり隠れてしまっている方が好き」

あぁ、なるほど。そっちね。私も「中に入っている」方が好きだ。
そしてもらってきた苺大福も苺が中に入っている方の苺大福だった。苺が大きいので、餡がうっすらとしかなくても苺大福はかなり大きめだと思っている。

「苺が乗っかっているのって、苺だけ食べちゃう感じになるんだよね。それだと苺大福を食べている意味がなくなっちゃうと思うんだよね。苺ショートケーキのように、皿によけて置いて、最後に苺を楽しむというわけにもいかないでしょ?苺が乗っかっている方って、先に苺を食べちゃうパターンにならない?」

なります。

「苺大福は苺と餡と餅を一緒に食べるからこそ美味しいのだと思っているのに」

そう言いながらきっと頬を膨らませているに違いない。
想像できてしまう。
それにしても苺大福に関しては、彼と好みは一緒かもしれない。
だとしたら、お土産にもらったこの苺大福は、かなり彼の好みの苺大福だ。

箱の中の苺大福に手を伸ばす。
パクリと大きな口で食らいつく。
ジュワッと口の中に苺の果汁が流れ出る。
お餅も薄いし餡も薄いこの苺大福の中身はほとんど苺だけど、きちんと餡も存在感を出している。そして咀嚼した時に感じるお餅の弾力。
・・・絶品ですな。

「僕、今日は帰りに苺大福買うつもりです」

申し訳ないが先に苺大福いただいています。
ん?これは収録だから、もう彼も苺大福を味わっていたに違いない。
それでも、だ。
彼に対して美味しい苺大福をいただいている優越感を感じてしまう。
紅茶を飲んで一度口の中をフラットにする。
そして、またひと口。

「うわぁ。はやく苺大福食べたい!」

彼が叫び、ラジオはCMに変わった。
私はやはり彼に対して優越感を感じながら、苺大福を味わうのだった。