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BLUE#色のある風景

青色を好むことで有名な画家の展示会。
どの絵も青色で描かれる。
こんなに青色があるのかと驚くほど、さまざまな青で溢れていた。
一番大きい絵は200号というサイズのものだった。
対になっている2枚の絵は空と海だった。空の青を映しているはずの海。だけど、その青色は全く違った。それでもそこにある空を映しているのだとわかる絵だった。
空と海だけでなく、さまざまなものが青で描かれている。
彼の自画像もそのひとつだった。
少し寂しい青色の彼はじっとこちらを見ている。
口角はやや上がっているように見えた。
だけどこちらを見ている目は笑っていない。むしろ、やや虚ろにも思える。
絵の前に立つ僕を見ているようで、はるか遠くを見ているようで、何も見ていないかのような目。
その目の色は彼の瞳の色そのものの色だった。
穏やかな性格をしている。
彼を知る者は大抵彼をそう表現する。
声を荒げることもない。暗く沈み込むこともない。
海で例えるなら凪いた海。空で例えるなら雲ひとつない空。
だけど、僕は彼の奥底の虚ろを知っている。
彼が描きかけだった絵に、ナイフで白色を塗っていく。
僕はそれを黙って見ていた。
とても虚な目で絵を白く塗りつぶす彼を僕はじっと見ていた。
彼とは幼馴染だった。
彼が美術大学に通うためにこの町を出ていた4年間以外は、歩いて5分も離れていない場所に住み、子どもの頃はほとんど毎日のように会っていた。
彼は子どもの頃から絵を描くのが好きだった。
僕は絵を描く彼の隣で本を読んだりゲームをしたりしていた。
彼が美大を卒業して町に戻ってきた頃、僕は祖父の営む画廊兼画材店に勤め始めていた。
彼はそれまでの4年間一度もこの町に帰ってくることはなかった。
僕とは電話とメールでやり取りをしていたが、彼の絵に関することを僕は何ひとつ訊かなかったし、彼からも話すことはなかった。
祖父が持ってきた一枚の青い絵を見た時、僕は直感的に彼の絵だと思った。
祖父は目を細め「幼馴染の絵はわかるものなのか」と言った。
僕が知っている彼の絵とは全く違った。でも何故か彼の絵だとわかった。
後日、彼が画廊を訪れ、僕を見て驚いていた。
僕だって彼の絵が高い評価を受けていることを祖父から聞いて驚いたのでおあいこだと言ってやった。
あれから15年。
彼との関係はずっと続いている。
僕は時折思い出す。
青色を白で塗り潰していた彼の目を。
その虚ろの理由わけをいつか知ることができるのだろうか?