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アマカライ

「ふと、伯父さんの卵焼きを思い出したんですよ」

彼は今日も卵焼きを熱く語る。
今日も、とは言ったがここしばらくはレコーディングについていろいろ語っていた。
以前、まとめ録りする話をしていたので、その日はレコーディングの話をしたかったんだろうな。「行き詰まっている」と言っていたし。それはもうクリアしたのかしら?

「味が濃い。アマカライ卵焼き。ひと口でご飯1膳いけちゃいそうな、卵焼き」

それは果たして美味しいのだろうか?

「お醤油とお砂糖と刻んだ葱が入ってた」

ヤダ。ちょっと美味しそう。
そぼろ代わりにご飯の上に乗っけてのお弁当もいいかもしれない。

「で、焼いてみたんだけど、砂糖が入るとどうも焦げちゃうんだよね。でも、伯父が焼いたのは焦げてはいなかったんだ。醤油が入るから綺麗な黄色ではなかったんだけどね。で、ちょっと、味も違うかな?と思って、今度は味醂を入れてみたら…ビンゴ。砂糖じゃなくて味醂だったんだ」

なるほど。
まぁ、うちは母親が味醂を使う人で、砂糖がなかなかなくならない家だったなぁ。
すき焼きの割下ぐらいかな?料理に砂糖を使うは。

「甘辛い味。甘塩っぱいじゃないんだよね。うん。それをね、朝も食べてきました。ご飯が進んでやばかった。1合炊いたの全部食べちゃいそうになったよ」

朝から1合平らげるのはすごいわ。

「そんな伯父は、結局結婚しないまま今年で91歳。そしてほぼ毎朝、卵焼きを作っている」

あら、まぁ。

「毎晩、卵焼きで晩酌している自分の伯父だけある…のか、自分が伯父の甥だと言うべきか…多分ね。自分の厚焼き卵好きの根底には伯父のその卵焼きがあるんだな。と思ったわけ。と、いう話。じゃあ、ここで一曲…」

ヤバいな。
夜は白米食べないから、その甘辛い卵焼きは明日の朝にトライしよう。
あー、でも、ご飯1合食べる勢いになるんだよね。
ヤバいなぁ…。