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【十二月】#シロクマ文芸部

十二月のカレンダー。31日が日曜日でおまけのように印刷されているせいか、今年は奇妙なくらいあっさりしている。それに年末の休みを赤く塗る。続いて取引先であるケーキ店の繁忙期を青く塗る。
「24日が日曜日ということは、案外ピークは23日?」
とそこで、23日が土曜日の青い数字であることに気がついた。
あぁ、そうだ。天皇誕生日ではなくなったんだ。
令和になった途端の自粛体制で祝日でなくなったことがどこかに吹っ飛んでいた。

「スーパーに行くとクリスマスとお正月がせめぎ合っているよね。まだ11月なのに」

いつも聞いているラジオの彼が言う。

「でも、ここ数年はクリスマス弱いよね」

そうなんだろうか?あまり意識をしていなかった。
元々クリスマスだからお正月だからと飾り付けをするわけでもない。

「まぁ、今はまだBGMはクリスマスだからね。でもお正月の飾りのが幅きかせてるって感じ。元々クリスマスは外国の行事だからそれでいいんじゃない?っていう人もいるかもしれないけれど、僕でも生まれた時にはすでにクリスマスあったからね。何だか少し寂しい気もする」

子どもの頃はクリスマスが楽しみだった。
朝、目を覚ますと枕元にサンタクロースからのプレゼントがあった。
夜中に微かに聞こえる鈴の音。
全ては父の演出だった。
だから、サンタクロースがいないとわかっても、父には何も言わなかった。
サンタクロースが来るのは小学生までで、中学生になるとプレゼントはなくなってしまった。
三歳下の弟にはプレゼントが来る。
サンタクロースの正体を知っていても、いや、知っていたからこそ、少し寂しい気持ちになった。
そんな私の気持ちを知ってか知らないでか。父の仕事納めの後、正月の買い出しに行く時は、父は決まって私を誘い、買い物の合間に父の友人がやっている喫茶店に行ってコーヒーを一緒に飲んだ。
喫茶店のマスターが「おまけ」と言ってケーキを出してくれる。
少し大人の雰囲気の店でのケーキとコーヒー。中学生の自分には何とも言えないくすぐったい気持ちになった。

「ひとりでいるとクリスマスケーキって食べなくない?」

ケーキという言葉がリンクして、ふと顔を上げた。

「もう何年も30年近くひとり暮らししているけど、ひとりではケーキ食べない。甘いのが苦手なわけではないんだ。ただ、ひとりでケーキってね。なんかダメなんだよなぁ。ましてやクリスマスケーキとなるとね。最近はホールケーキじゃないクリスマスケーキもあるけど。うん。なんか、ケーキは誰かと食べたいなぁ」

父はもういない。あの時「旨いか?」と何度も訊くので、クリームとスポンジを少し取って父に差し出すとマスターたちが「いいねぇ。娘から『あ〜ん』してもらえて」とか言って笑っていた。
数日前には家で家族でクリスマスケーキも食べていたけど、あの店で食べるケーキは何だか特別な感じだった。
そうだ。特別な記憶だ。父と私しか知らない。
何だか泣けてきた。

「ケーキはひとりで食べないなら、饅頭はどうだ?何言ってんだよ?喉に詰まらせたらやばいだろう?饅頭。ひとりで食べる甘味はアイスかチョコだよ」

ラジオからしょうもないことを言って笑っている声が聞こえてくる。
一緒に笑おうとして、うまく笑えない。
ラジオからはクリスマスにも十二月にも全く関係ない流行りの歌が流れている。
私は涙を拭いて思いっきり鼻をかんだ。