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特殊機関-【小さなオルゴール】#青ブラ文学部

「これって…?」
見覚えのある小さなオルゴールがFのデスクの上に乗っていた。
少し前の任務で使った家にあったオルゴールにとてもよく似ていた。
空き家になっていた家だった。
環境汚染。人は住めません。早くこの地から出ていってください。
国はそう謳い、人々長く住んだ故郷を捨てさせた。
人が出ていった後、国は大規模な軍事工場を建設しようとしていた。
自分たちは、その建設の前準備として進めていた地下通路の掘削を寸断。地上にある川の水を掘り進めた地下通路に流すことで、掘削前の状態以上の最悪な環境にした。
そもそも、環境汚染はなかったのだ。
ただ、広大な土地を手に入れるため。その土地の東側には海があり、西から南にかけては砂漠が広がり、北側には隣国との境界の壁がある。
そんな中にある平野には、昔から脈々と続く文化を守り続けていた種族が住んでいた。
彼らがその故郷に戻ったという話は聞こえてはいない。
汚染されたという土地。実は嘘でした。と国が自らの言葉を撤回するリスクはあまりにも大きすぎる。
そこに関しては国連も口は挟まない。
国の平穏を保つための努力をするよう告げたというが、それに対してあの国の政府がどのような策を取ったのかは、清掃局じぶんたちには関係のない話だ。
オルゴールに手を伸ばす。
手巻きのオルゴール。
「曲は、確か、ムーンリバーだったな」
月が映る川面を思い出す。
螺子を巻く。
キコキコと鳴る音にも聞き覚えがある。
手を離す。
流れてきた曲は確かにあの時に聴いたムーンリバーだった。
Kのデスクにそっと置く。
曲は流れ続ける。
あの川の向こうに行ってしまった人々は、今はどこにいるのだろう?
曲はテンポを緩め、やがて止まった。
そういえばFはどこにいるのだろう?
次の任務に関しての資料をオルゴールと並べて置く。
再びあそこに行くことはないだろう。
月の映る川面の見える、あの小さな家を思い出して、僕は小さく溜息をついた。

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