見出し画像

卵焼きラジオ

「本日、いや正しくは昨夜の卵焼き占いの結果は凶であります」

そう言ったラジオから、続いて溜息が聞こえてくる。
おいおい、そんなに落ち込まなくてもいいだろう?と声に出さずに突っ込みを入れる。
厚焼き卵の出来不出来で自分のコンディションを知る話をしていたことがあったけど、いつから占いになったのだろう?

「特に変わった具を入れたわけでもないのにまとまらなくって、もう最後はスクランブル状態ですよ」

再び溜息。

「昨夜は曲作りも止めて寝ました」
「いや。寝ようとしたんだけど眠れなくて、頂き物の栗茹でました」

夜中に?

「下処理を済ませたものを頂いたので、あとは茹でるだけ。茹でて、皮を剥いて朝を迎えました」

え?寝てないの?

「今日はこの収録だけだったんで。昼から。夜が明けてから10時まで寝て起きて。いつもは4本録りなんですよ。これ。でも、今回は2回。また明後日、収録があるんですけどね。まぁ、いろいろ引きずっての回が4回も続かなくてよかったということで…些細なことなんですが、結構ダメージ受けましてね」

卵焼きの失敗で?

「自分では気にしていなかったつもりなんですが、卵焼きをうまく焼けないくらい動揺していたんだ…と改めて思ったわけなんです」

え?何かあった?
卵焼きの失敗はショックの産物というわけ?

「所謂『推しの死』というヤツです」

へ?思わず変な声が出た。
そこから滔々と彼が語ったのは、とある海外ドラマのストーリーとその登場人物で主人公の刑事の相棒である先輩刑事の話。キャラクターもだが、演じている俳優が若い頃映画で活躍していた俳優で彼は主人公よりその先輩目当てでドラマを見ていたらしい。

「まさか死ぬとはね。日本の作品だったらあそこは助かるよ。うん。カークの相棒はリックしかいねぇっつーの。次回からどーするんだよ」

納得いかないのだろう。
口調が先ほどまでと変わり、強くなる。
が、こちらもいろいろ言ってやりたい気持ちになる。
ラジオの向こうの彼になのか、そのドラマの制作者に対してなのかわからないけど。

「で、その続きが明日配信なんです。それ見て明後日の収録ですからね。今週のラジオ波乱です」

なんだ?その宣言。
まぁ、少なくとも、明日オンエアされる分は、落ち込みモード出ないのは確かなようだ。