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いつもと違う日

卵焼き占いの結果は凶といっていいだろう。
卵を割る時点で最悪だった。
いつも通りに卵をまな板の縁にぶつけたけど、ヒビがちょっと入るだけだった。仕方なく少しチカラを入れて再度叩いたら「グシャ」とつぶれて大半はシンクに流れてしまった。
「最悪」
仕方がないので、割らずにいたもうひとつの卵は茹で卵にした。
午前中はクライアントとのwebミーティングに費やされた。
クライアントと代理店の営業と自分。
クライアントの話は前回の打ち合わせとガラリと変わっていた。
「またか」
うんざりして呟く。
クライアントはその手の常習犯だった。

昼になり、朝作った弁当と熱いコーヒーを準備して、ラジオをつける。
いつもの番組。
なんてことないネタを語る彼に、このささくれた気持ちを癒してもらおう。そうおもった。

「各地の震度は・・・」

「へ?」
聞き慣れない声が地震情報を語っている。
「地震?」
流れてくる地名にピンとくるものはなく、スマホで情報を探す。
一度も訪れたことがないし、これから先も行くことはないだろうと思う場所での地震。
以前、ここから随分離れた場所が震源の揺れがこっちにもあったことがあったが、今回は全く揺れなかった。
距離にしたら同じくらいだというのに。
それよりも、今日は彼のラジオは休みだろうか?そんなことを考える。
ラジオアプリだと配信されているだろうか?
いつも通りに彼の声が聞けないのは、なんだか気分が悪い。むかつくのではなく、しっくりしない。
そのままスマホを操作して、彼の番組に辿り着く。
どうやら今日の放送分のようだ。

「どうも、こんにちは」

いつもの声にホッとする。
そしてまだつけていたラジオを消した。
お弁当箱にはいつもの厚焼き卵ではなく、半分に切ったゆで卵が、大きな顔で居座っている。

「なんだか今日はおかしな日でさ。愚痴っていい?スタジオに来るまで道路を3回迂回してきたの。それがね・・・」

ゆで卵を口に運ぶ。
塩味が少し足りなかったかな?
そんなことを思いつつ、スマホから聞こえる、いつもとちょっとだけ響きの違う彼の声に耳を傾けた。