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旅の記|長田達朗建築計画事務所 http://www.tatsuroosada.jp

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最近の記事

唐招提寺

早朝に東京を発って雨の西ノ京に着いた。薬師寺の、平山郁夫の大唐西域壁画を納めた玄奘三蔵院の公開最終日に滑り込むため前日に奈良行きを決めて壁画を見、駆けつけたその勢いのまま薬師寺大伽藍をまわってしまった。まだ解体修理のベールの中にねむっていた東塔を見送って唐招提寺の森へむかうころ、雨が強くなりはじめた。 南大門をはいると、両側から深い緑が覆いかぶさる清浄な砂利道がのびている。視線の焦点に石灯籠があり、われわれの注意を集めたその先で、大地が水平に隆起している。基壇が、世界を上下

    • 女神の行き先

      アテネのピレウス港の沖合い20キロほど、フェリーで1時間半のところに、ピスタチオで有名なエギナ島という島があって、その島の東のはずれの山の上に、アフェア神殿という、パルテノンよりやや古く、パルテノンよりだいぶ小ぶりだが、パルテノンよりは保存状態がかなり良い、美しい古代の神殿が建っている。 港から乗客を満載した路線バスに乗って山の上を目指し30分ほど揺られると、オリーブと赤松の森に囲まれた神殿の前にたどりつく。しかしバスを降りたのは数人だった。ほとんどの乗客は、ここからさらに

      • 母なる谷

        ギリシア第二の高峰、パルナッソス山(標高2,457m)の南麓斜面にあるデルフィへ。世界史で習った、いわゆる「デルフォイの神託」の地だが、元々は大地の母神ガイアを祀る神域で、のちにギリシア神アポロンが、神託のために「大地に裂け目のある地」を求めて辿り着いた土地だという。 パルナッソスの山塊からつづく花崗岩の岩壁を背負った斜面上に神域がひろがり、目の前には、緑の深い谷が、何やらただごとではない様子で口をあけている。谷のもっとも下には、オリーブの樹海が沖積の原野に繁っていて、そこ

        • ポルタ・マッジョーレ

          まもなくテルミニ駅に到着するというアナウンスがあって、列車が急に速度を落としたので、半ばうたたねをしていた視線をふと外にやると、ポルタ・マッジョーレがあった。西暦52年建造、ローマ市城門。 十年前、夏の始発で後にしたテルミニ駅の情景をぼんやりと思い返していた私の目にそのとき不意に飛び込んできたものは、二千年前のローマン・アーチだった。終着駅にむけ緩行する列車の窓から、円環撮影のように構えを変えて行き過ぎる白いトラバーチンの集積。 “私がローマである” そのときかなりはっ

        唐招提寺