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小説家のネタバラシ🍀世界観の作り方②

……とても悲しい事件が起きてしまいました。
実は①は合計6000文字近い大作だったのですが、これじゃあ長いなと思ってふたつに分けようとしたのがそもそもの発端です。横着しないでちゃんとどっかにコピーしておけばよかったのですが、ただ単に後半をカットバッファーに入れて①を公開したのち、そのカットバッファーに入りっぱなしの残り部分を②とするために新規記事編集画面に貼り付けようとしたらそれをしくじってしまって全てが失われてしまいました。

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色々やってみたけど、失われたものはどうやら元には戻らないようです。
気を取り直して、覚えているうちに続きをもう一回書きます。

■続けて世界観の仕上げに取りかかろう

さて、前回は作品のコンセプトを作って、世界観の練り込みの最初まで書いたと思います。
ところで①を読んだ方は薄々気づいたかも知れませんが、一般的に世界観と呼ばれる物、時代設定とか地理設定とかはキャラクター造形に大きな影を落とすことを強く意識してください。
キャラクターの性格が世界観を間接的に表現することもありますし、逆に作った世界観がキャラクターの性格に影響することもあります(むしろ、世界観がキャラクターの性格に影響しないとそれは非常によろしくないです)。つまり、両者は違う物のように見えて、実はお互いに影響しあっているのです。

ともあれ、ここまできたら、世界観のブラッシュアップに入ります。
僕は世界観のブラッシュアップには以下の方法をオススメします。

自分が創造した世界を空想して、実際に生活してみる

つまり、その世界の住人になったつもりになって自由に想像して遊んでみるのです。もちろん、主人公になり切っても構いません。何しろあなたの脳内妄想です。誰にも文句は言われません。電車の中でも布団の中でも、いくらでも妄想を広げてみて下さい。

■あの、でもまだ知らない事だらけなんですけど……

しかし、です。
そうやって楽しく妄想しているとすぐにわからない事がたくさん出てきて、行き止まりになってしまったり、もう一回設定を見直したりしなければならなくなる事が沢山出てくるはずです。

例えば

 ✅ おうちの形はどんなですか? 部屋の数は? それに建物のスタイルは? 木造? ログハウス?
 ✅ 街はありますか? その規模はどれくらい?
 ✅ 今日の晩ごはんは何でしょう?
 ✅ 家具はどうなっていますか? テーブルと椅子? それとも床に座っていますか? 畳ですか?
 ✅ 食器はなにを使っているのでしょう? 箸なのか、ナイフとフォークなのか、あるいは別のものですか?
 ✅ 服装はどうでしょう? どんな服を着ていますか?
 ✅ トイレやお風呂はおうちにありますか? それともローマみたいに公衆浴場に集まるのでしょうか?
 ✅ 夜の灯りはどうなっていますか? オイル? 蝋燭? それとも別の何かですか?
 ✅ 食料品はどうやって調達しましょうか? お店で買いますか? それとも行商人が定期的にくるのでしょうか? あるいは畑で自給自足?
 ✅ お店はあるということは、商人の人たちがいるのでしょうか?
 ✅ .......

良い世界観とはこれらのすべての要素が矛盾なく組み合わさって、大きな世界を構築するものを指します。つまり、あなたが妄想している過程で湧き上がってくるこのすべての疑問に答えるという作業、これがすなわち世界観を作るという事なのです。
なに、焦ることはありません。じっくり考えてください。

■世界観を広げていこう

主人公や一般庶民についてある程度理解が深まったら、今度はお金持ちや貧乏人の生活にも考えを馳せてみましょう。

✅ そこにはどんな職業がありますか?
✅ そこは階級社会なのでしょうか?
✅ 政治はどうなっていますか? 王様はいますか? それとも議会制? あるいは無政府?

やってみると判るのですが、これは実に楽しい作業です。時を忘れて自由に妄想してください。
ただ、全ての設定に矛盾が生じないようにすることが肝心です。
矛盾とは例えばこんな事です。

『あなたはトイレに入って洋式トイレに座り、無事に用を足しました。トイレにはウォシュレットがあって、普通にあなたはお尻を綺麗にしてトイレを出ます』

でも、これがファンタジー世界でできるとすると、いろんな矛盾が生じます。

✅ そもそもトイレは水洗なのでしょうか?
✅ ウォシュレットはどうやって動いているのですか? 電力? でも電力ってあなたの設定した中世風ファンタジー世界で電力供給網なんてあるのでしょうか?
✅ 仮に動力は電力ではないと設定して逃げるとしたら、じゃあそれは何ですか? 魔法ですか? それとも他の動力(水車とか)ですか?
✅ 仮に魔法なのだとしたら、それはウォシュレットに使われるほど一般に普及しているのですか?
✅ 魔法体系は考えなくても大丈夫?
✅ 魔法のエネルギー源は何でしょう? 精神力ですか? それともマナ?
✅ ………

疑問はどんどん湧き上がるはず。そしてそれのすべてに答えを出し、これらがすべて綺麗に噛み合っていないと良い世界観にはなりません。

■そして、あなたはこの世界の神になる

そう。考える事は膨大にあります。そして矛盾なく構築するためにはおそらくかなりの知識量、あるいはインプットが必要でしょう。
作家はいつも貪欲に知識を吸収しています。それはネットからのこともあれば、本を読む場合もあります。もちろん、日常生活の会話から取り入れられる知識も非常に重要です。
こうした知識を総動員して作るのが世界観なのです。
そして世界観にはあなたの性格も強く影響している事をお忘れなく。簡単に言えば、小説世界の中であなたは神、小説はあなたの分身なのです。

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ところでこれは一見自由に見える異世界転生ものでも全く一緒です。
例をあげましょうか。
『あなたは現実世界では世界的に有名なカレーの達人です。ところがある日、トラックに跳ねられてなんでか見知らぬ異世界に飛ばされてしまいました。
異世界であなたは途方にくれ、それに食べるものもないため空腹のあまりついには倒れてしまいます。
目が覚めるとそこは誰かの膝枕の上。空腹のあまり行き倒れていたあなたをエルフのかわいい女の子がどうやら助けてくれたようです。エルフィンという名前の金髪のそのエルフにあなたはお礼としてカレーライスを振る舞います。

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そうしたらエルフィンは
「なんですか、この食べ物は! 今まで食べた事ないです。でもすごく美味しい! 不思議な味!」
と大興奮。
意気投合した二人はそして異世界でカレー屋さんを始めます……』

どうです? ありそうな設定でしょう? でもこのお話には以下の致命的な欠陥があります。

✅ そもそもここは異世界です。そこの食べ物は食べられるのですか? 下痢しませんか? 最悪死んだりしませんか?
✅ 仮に食べられたとして、ではそこに米はありますか?
✅ 米は売っているのですか? それとも野生ですか?
✅ カレー粉はどうしたのですか? それに玉ねぎも。調理器具はどうやって調達しますか?

このすべてに答えて初めてあなたは異世界転生カレー屋さんファンタジーを書くことができるのです。
とにかく、矛盾のない設定が必要です。それさえできればその世界の中でスパイス調達のために冒険したり、あるいはやはり転生してきたインド人とカレー対決になったりとお話はいくらでも膨らますことが可能です。
でも物語をちゃんと紡ぐためにはやはりしっかりとした骨組み、つまりは世界観が必要なのです。

おいおい、これって意外と難しいぞ?

さて、やってみると判りますけどこの作業は楽しいと同時に意外と難しいし、苦しいです。投げ出したくなったり、中途半端でOKにしちゃいたくなることも多いと思います。
でも、あなたは神なのですから逃げられません。
何より、中途半端な設定で書かれた小説は美しくない。それにせっかく作った大切なあなたのキャラクター達がかわいそうじゃないですか。

さあ困りました。

そういう時は先人の知恵を借りましょう。お手本を探すのです。
世界観構築のお手本として僕が強くお勧めするのは上橋菜穂子さんの「守り人」シリーズです。あのお話は素晴らしい和製ファンタジーです。全ての要素が複雑に、でもまったくの矛盾なく組み合わさって独自の世界観を構築しています。

僕はあの本を最低でも二回は読む事を強くお勧めします。
✅ 一回目はただ、物語を楽しむだけで良いと思います。存分に守り人の世界を堪能してください。
✅ そして二回目以降は物語を楽しまずに、設定の分析を行います。つまり、今度は裏側から見てみるのです。

できれば擦り切れるまで読み込みましょう。きっと得るものは多いと思います。

じゃあ古典はどう?

ところで多くのファンタジー作家が古典として挙げるJ.R.R トールキンの「指輪物語」ですが、これは世界観構築という意味ではあまり参考にならないかも知れません。
あのお話は簡単に言えばケルト伝承の総集編です。出てくる生活は中世ヨーロッパの生活そのまま、ファンタジークリーチャー達はどれもケルト伝承にすでに存在していたものなのです。エルフ然り、ホビット然り、ドワーフ然り。
もちろん「指輪物語」はハイ・ファンタジーの原点にして偉大なる金字塔です。まだ読んだことがないというのはそれはそれでまずいんですけどね。

ただ、こんな事を言っては失礼なのですが、こと世界観に関してはもっぱら世界構造が独特なだけで、それ以外の部分は案外普通です。
「指輪物語」に倣って世界観を構築してしまうと、一歩間違えるとヨーロッパの昔話の劣化コピーになってしまいます。
ここは勇気を出して、自分の世界を作る事をお勧めしておきます。

■さあ、書き始めよう!

では、世界観が完全に構築できないとお話を書き出してはいけないのでしょうか? 答えはもちろん『NO』です。
上にも書いた通り、両者は密接な補完関係にあります。ですので、ある程度設定ができたらもう書き出してしまった方がおそらく世界観の構築はスムーズに進みます。書き出して、足りない部分はその都度調べたり考えたりして設定を追加していけば良いのです。

世界観構築で一番重要なポイントは昔に書いた事と今書いている事が矛盾しないことです。
そういう意味では設定した内容はなんらかの形で書き出して行った方がいいかも知れません。そこは人それぞれ、自分のスタイルを作ってください。
ところで僕の場合、キャラクター設定は結構綿密にWikiに記録しているのですが、設定はあまり書いていません。覚えているということもあるのですが、過去に書いたお話を読み返せば大概の疑問は解消しますので……
これについてはそれぞれの人が編み出すべき執筆スタイルなので、自由にして頂いて良いと思います。

■でも設定マニアにはなっちゃダメ

ところでこの設定作りに熱中するあまり、設定の説明が過剰な小説をたまに見かけます。
士郎政宗さんのコミックはそれがある種の売り(巻末にかなり綿密な設定集と用語集がついてたりします)だったのですが、これ、小説で同じ事をしてもたぶん面白くありません。
自分で一度やって失敗しているのでそれについては断言できます。

もう一つ、気をつけなければいけないのは想定される読者のすべての疑問に答える必要はないという点です。
有名な言葉で

作者はすべての疑問に答える義務はない

というものがあります。僕にとってこれは金言です。
もちろん、疑問に対して作者がそもそも答えを持ち合わせていない、あるいは考えていないのは問題です。それはちゃんと裏で設定されていなければなりません。
でも、それをすべて作品の中に押し込む必要はないのです。
むしろ、全てを晒さない方が作品に奥行きと深みが出ると思います。

■最後にまとめると?

さて。延々と書きましたが、ここでちょっと要約してみましょう。

✅ 世界観とは世界を全体として意味づける見方・考え方のこと
✅ 要するに世界観とはキャラクターと舞台と時代設定を繋げて矛盾しないようにするためのルールである
✅ 実は世界観と物語には明確な切れ目がない
✅ 詰まるところ、世界観とはすなわち矛盾のない設定の塊である
✅ 世界観はキャラクター造形にも影響を及ぼす
✅ 世界観をすべて説明する必要はない
✅ 設定を説明しすぎる設定マニアにはならなくても良い

意外とたくさんありますね。でもこのルールに従って小説を書けば、骨太な世界観を持った良い小説を書くことができるはずです。微調整は常に行って構いません。何しろあなたの作品なのですから。
そして、納得したら今度は自分が読者になって自分の作品を読み返します。繰り返し、繰り返し、何度も呼んで粗探しをするのです。
そしてもうツッコミどころがなくなれば、発表するなり、投稿するなりして成果を試していくと良いと思います。

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ところで僕はほぼ毎日こんなタイトルでClubhouseに部屋を立てています。

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平日は不定期なのですが、概ね夜の9時から11時には開催していると思います。休前日なら夜9時に部屋を開くことが多いです。
眠れない休日前日の夜だったら、深夜にゲリラ開催することもあります。
もし、Clubhouseのアカウントを持っていたら、ぜひ遠慮せずに参加してみてください。基本的には雑談部屋ですが、執筆についての質問にも答えます。答えがない時は一緒に考えましょう。

それではまた。もしリクエストがあったらぜひコメント欄に書いてください。そうしたらまたネタバラシします。

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