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映画『コロンバス』

数多くのモダニズム建築を見ることができる、アメリカの地方都市コロンバスを舞台にした映画『コロンバス』。

ざっくりと内容を述べると、

建築学者の父親に対して複雑な感情をもつ、韓国系アメリカ人のジンと、図書館で非正規職員として働きながら、地元の建築について独学で勉強しているケイシー。コロンバスで偶然、出会った二人が「建築」を媒介として心を通わせていくストーリー
https://www.houzz.jp/ideabooks/132828857/list

ということで、あえて細かく内容を紹介しないのには、今回の記事の内容にも関係しています。(映画の内容をストーリーに沿って、細かく伝えるのが苦手というのも実際ありますが。)なので、内容は下記のページが分かりやすいかと思います。

心に残ったシーンを一つ紹介したいと思います。
エーロ・サーリネンというこれまた有名な建築家が設計した素晴らしくモダンな銀行があります。その銀行の前で主人公2人が会話するシーンです。

地元の建築好きのケイシーが、建築嫌いのジンにその銀行が好きな理由を聞かれます。その理由をケイシーは話し始めます。しかし、彼女が話し始めた内容は、その建物の特徴や歴史的背景でした。そこで、ジンは「観光ガイドか?君が本当に感動した理由を聞きたい。」と、もう一度、問いかけます。

その後のシーンです。

映像では、ケイシーが本当に好きな理由を話しているのが分かるのですが、映像だけで突然無音になる。映画を見ている私たちには、その好きな理由が何か分かりません。

このシーンが個人的にはとても嬉しかったです。
YouTubeでそのシーンがありましたので、共有します。

我々の建築の世界では、名建築を実際に体験する前に、その建築の知識や先に訪れた建築家たちの意見が情報として入ってくるため、先入観が邪魔をしてしまいます。もちろん、その前情報があることによって、より建築の見方が分かってくるので面白くなるのも事実です。

しかし、やはり、大学での建築の設計課題や実地調査、現代社会のビジネスの場においても求められるのは、「具体的に説明できる」ことが評価されるため、純粋な感動を素直に表現することが、なんとなく嫌われる傾向にあるように思います。(私の周りだけかもしれませんが。)

映画の中で、ケイシーが純粋に感動した理由を話しているシーンでも、彼女の表情が本当に好きなものを話しているのが伝わってきます。演技も素晴らしいです。この映画監督も、おそらく、現代社会においてあまりにも「名建築」がその社会的・歴史的背景や技術的な内容ばかりに注目されがちで、詩的にその建築を感じる感覚が失われていることを少しでも伝えたかったのではないでしょうか。

映画監督が、ケイシーが話した「本当の理由」をノーボイスにしたのも、それを見た鑑賞者がまた先入観を持ってしまうのを避けるためだったと思います。

そのシーンや建築の映像の切り取り方をみると、監督は本当に建築好きだと感じます。

情報に溢れた時代。映画や建築、旅やレストラン、音楽や絵画などなど、できる限り事前情報をシャットしてから、体験してみるのはいかがでしょうか。


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