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【ナイトメア・アリー】隠喩の仮説(ネタバレ有り)

この記事は映画を鑑賞した方向けの考察記事となっています。
現時点で私が思った仮説3本を、備忘録も兼ねてまとめました。


仮説① モリーの服装は"経験済み"かどうかを表している

この映画、エノクやリリスの傷(帝王切開?)などといった、たびたび胎児出産のメタファーが出現する。
思い返せば、スタンが降霊術をやり始めてから出会った客はかつて出産に苦しめられた者、苦しめた者だったり。

映画見た直後は気づかなかったけど、スタンがモリーをドリーに変装させた際の衣装、あれは流産を表していたのではないか。
スタンはざっくりと「血を塗ってくれ」としか指示していなかったけど、両手・股から大量出血しているように見えたので、あれはドリーが経験した流産を示したものだと思う。

且つ、スタンと結婚してからモリーの服装は雰囲気がガラッと変わり、赤いものが目立つ。

胎児やお産の隠喩が重ねて出てくるので、モリーの服に関してもお産にまつわる出血なのか…?と一瞬思ったけど、モリーは「"最近"抱いてもくれない」って言ってたから妊娠してる可能性は多分ない。
そこで仮説を立てたんだけど、赤い服は非処女だというメタファーなのでは?

それなら、結婚前にモリーの私服が赤とは無縁の素朴なものだったことや、プロポーズ前に「私、最後までしたことないの」ってわざわざ言わせた脚本にも納得できる。

ん?でもモリー、電気椅子に縛られてる時とか赤いビキニみたいな衣装着てたよね…と思い返したけど、それに関しては『(体の)一部分に赤い衣装を纏っている』すなわち『キスなどの部分的な性行為は経験あるけど、本番は最後までしたことがない』で説明がつくかなと。

結婚後からは、極端に全身赤い服でいることが多かったから、まあそういうことなのかなと思ってる。

ちなみに、赤が性に結びつく描写だけど、ミッドサマーでも同じ表現が使われていた。
"儀式"を済ませた娘が、目の覚めるような赤い色のリップを塗っていたのが印象的だった。

ビスチェ?のような衣装の赤も、ひときわ目立つ


仮説② ジーナの風呂は沐浴の隠喩

一緒に見た友人から、エディプスコンプレックスという精神分析があることを知った。リリスは精神科医だし、この映画の重要なテーマになっているのは間違いなさそうだ。

エディプスコンプレックスでは、母親も重要な存在になってくるらしいが、スタンにとっては母親の存在がないよねと指摘を受けた。たしかに、彼の回想シーンや自分を語るときに母親の話は一切出てこない。

そこで私が思ったのが、スタンがジーナとリリスに惹かれた理由、それは彼自身も自覚していない潜在的な母親への憧憬だったのではないか?
一般的に見ると、あの2人って母親になっていたとしてもごく自然な年齢だ。

すると、ジーナの風呂屋のシーンは沐浴の隠喩ではないかという気がしてくる。

バスルームではなく、広い部屋のなかにポツンと置かれた大きなバスタブに浸かるスタンに体を洗うジーナ。(噂程度にしか知らないが、あれが"ソープ"ってやつなのか)
あの後スタンのとった行動って、そこから体の関係をさらに迫るでもなく(ソープなら本番までしないのか?)、ブルーノと一緒に団欒することだった。

そして、ブルーノに関しては後に実の父親と重ねてトラウマに苦しむことになり、最終的には殺してしまう。
彼の意識のなかでは二度、父親を殺しているのだ。


仮説③ スタンは腕時計を盗むために父親を殺した

ブルーノから読心術を受けた時、スタンは多く語らず「この腕時計は父親のものだ」と、まるで『父親の形見を腕時計として持ち歩いている』かのような印象を受けたけど、あれって実は父親を殺した後に盗んだのではないか。

終盤の回想シーンだと、スタンによって放火される直前まで、うずくまった父親の手には腕時計がついていて、自ら手放すような描写はなかった。

且つ、彼らの家は老朽化が進み、ボロボロでかなり貧しい印象を受けた。
そこでまた仮説を。
スタンは『父親の腕時計を盗みたいがために殺した』とすると、『ブルーノの読心術を盗みたいがために殺した』という行為にも一貫性が見えてくる。

そして、リリスに吐き捨てた「俺は金のことしか考えていないんだ」という台詞には、金に目がくらんで父親を殺めたことに対する自戒の意味が込められていたのではないか。

盗んで人を殺すのは彼の本質なのか、貧しさが産んだ後天的なものだったのか…


以上、ナイトメアアリーの隠喩に対する仮説でした。
読んでくださり、有難うございました。

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