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「出前戦争勃発! ほぼ無料ランチの裏側には・・・」

【ホット検索ワードから見る中国 vol.1】

中国版Twitter“微博(ウェイボー)”で話題になっているホットな検索ワード“热搜(rè sōu)”をもとに、中国の今を紹介していきます。刻々と変化するホットキーワードの中で、今回注目したのは

「外卖(wài mài)大战」。

「外卖大战」とは日本語にすると「出前の戦争」。この戦いを支えるのはこの人たち。

配達に向かうバイク(凤凰网江苏より)

このヘルメットをかぶり、バイクに乗った人たちが「外卖大战」の戦火の中を飛び回る人たちです。彼らは「外卖骑手(qíshǒu)」と呼ばれる配達員です。一般的に配達は車やトラックではなく、この電動のバイクが使われます。中国の多くの都市は車道と自転車・電動バイク道がわけられているので、バイクの方が渋滞の影響をうけにくいのです。

さて、ますます訳がわからなくなってきたと思います。ここで、まずは簡単に中国の外卖のしくみについて説明します。

■外卖とは一体何なんだ?

 外卖(wài mài)とは出前・デリバリーサービスのことを指します。日本の場合、出前を頼む場合は直接そのお店に電話やネット注文、その店の店員が家や職場まで配達する、というのが一般的だと思います。ですが、中国の場合は「出前のプラットフォーム」を通じて注文をします。

 「出前のプラットフォーム」とは、簡単に言えば「出前アプリ」のこと。私たちはこのアプリを通して、出前を頼みます。それぞれの出前プラットフォームに専属の配達員がいて、注文を受けると、プラットフォームはレストランに注文を、配達員に配達の指示をだします。


 現在、出前アプリは無数にありますが、その中でも上位を占めているのは、「饿了么(腹減った?の意味)」と「美团外卖」の2つ。

 アプリを開き、自分が食べたいものに合わせて、お店を選びます。アプリには商品へのコメントや自分の現在地からの距離、配達時間も書かれているので、それらを参考に選ぶことができます。

( 美团のアプリ画面)

 私は外卖を頼むとき、アプリを見て頼む店と商品を決めたら、一度そのアプリを閉じます。なぜか。それは、同じ店の同じ商品でもプラットフォームによって価格が違うからです。

 出前プラットフォームが増え続けている今、ただ単純に出前サービスを提供していても、ユーザーの心をつかむことができません。そのため、各アプリは、毎日様々なキャンペーンを打ち出し、ユーザーの獲得に努めています。期間限定のクーポンを配布したり、「2つ買ったら1つプレゼント」といったサービスを付けたり、その種類はとても豊富です。

 なので、私が外卖を頼むときは、複数のアプリで価格やキャンペーンを比較してから頼むようにしています。

例えば、以下のように同じ店の同じ商品でも、アプリによって配送料・割引サービス・使えるクーポンが異なる。その結果値段が違ってくる。

実際に私が頼んだ外卖

■外卖大战の火種は…

 まさに、この“キャンペーン”こそが外卖大战(出前戦争)の発端でした。タクシー配車サービスプラットフォーム最大手の滴滴が、出前事業に参入したのです。

 滴滴がサービスを開始する都市として選んだのは、江蘇省・無錫市。滴滴はサービス開始に合わせて、近隣の都市からもたくさんの配達員を動員し、特大キャンペーンに備えました。
 そのうえ、「選手宣誓」ならぬ「騎手宣誓」を行い、スローガンを掲げた横断幕まで用意。それに呼応するようにライバル2社「饿了么(腹減った?の意味)」と「美团外卖」も「騎手宣誓」を決行。「饿了么」は横断幕に「干死美团、碾压滴滴(美団を倒し、滴滴をすりつぶす)」と掲げ、堂々と宣戦布告。

新規参入の滴滴「追求极致 风雨兼程 不负所托 使命必达」

(合肥网新闻より)

ライバルの饿了么「干死美团,碾压滴滴!饿了么和你一起拼!」

(合肥网新闻より)

バチバチの火花が散る三者鼎立のなか、熱い戦いが繰り広げられました。街中を外卖のバイクが飛び回り、多くのレストランが品物を取りに来た配達員でいっぱいに。 しかし、なんと外卖大战はあっけなく2日で終戦を迎えてしまいました。

■大激戦、たった2日で終了

 戦いでやはり有利だったのは、新規参入の滴滴。クーポン券をばらまき、重ねて割引キャンペーンを実施。その結果、多くの商品がタダ同然で頼めるという事態に発展したのです。そのため、滴滴にユーザーが殺到する事態になりました。

割引により33.9元(約580円)がほぼ無料に(新浪微博 @天天无牌より)

商品を取りに店に殺到する滴滴の配達員(CCTIME飞象网 より)

 これに困惑したのは、商品を作る飲食店。あまりに手が回らなくなった店は、滴滴の注文を優先し、その他美团外卖や饿了么からの注文受付をストップしてしまいました。結果、実質滴滴以外では出前が頼めない状況になり、ますます滴滴へ注文が集中していきました。

 この状況を見た無錫市の工商局が、滴滴に業務改善を命令、これにより外卖大战はたった2日でおわりを迎えました。

■中国市民の生活に浸透したわけは?

 なぜこんなにも広く使われるようになったのか。それはやはり安くて便利だからだと思います。日本の場合、出前を頼むと実際にお店で食べるより高くついてしまいます。ところが、中国の場合、出前の方がかえって安くつくことが多いのです。その背景にあるのは、やはり先ほど説明したキャンペーンです。実際ほとんどの期間キャンペーンをやっていて、日替わりで色んな店の商品の割引が行われます。

 例えば、美団は曜日ごとに異なる割引キャンペーンを実施しています。

水曜日は「半額の日」(美团アプリ画面より)

 安いうえに、自分がお店に行かなくてもいい。天気が悪いときも、具合が悪いときも、時間がないときも、スマホでぱっと選べば、家や職場、学校まで届けてくれる。使わない理由が見当たらないと思います。

 我々外国人にとってうれしいのは、ゆっくりメニューをみて選べること。辛さの選択やにんにく・パクチーなどの薬味の有無もアプリ上で入力することができます。

 中国の庶民的なレストランに行くと、メニューが壁に書いてあることが多いのです。その時は、まずメニューを解読して、中国語で読んで伝えなければなりません。その上、レジのおばちゃんが「なに食べるの?」「辛さは?」「ご飯いるの?」「〇〇つけるかい?」などまくし立ててきます。

 これも中国の面白いところではありますが、慣れない人にとって、スマホでゆっくりメニューを見て選べるのはとてもありがたいと思います。
 

■出前とキャッシュレス社会

現金を使わない社会に移行しつつある中国は、ネット決済が主流。ほとんどの人が財布を持ち歩かず、携帯一つで生活しています。主に使用されている手段はアリペイ(支付宝)とウィーチャットペイ(微信支付)の2つです。

これらを出前アプリと連携させれば、それだけで支払い完了。小銭をかき集めてちょっきりの金額を用意する、なんて手間がないのです。配達員もパッと商品を渡して、そのまま次の配達先へ行けるので時間も節約できます。
もし時間通り届かなければアプリで催促することもできますし、間違っていた場合すぐに配達員やお店と連絡をとることができます。とても便利です。

どこにいるのかも一目瞭然(饿了么アプリ画面より)

■プラットフォーム間の競争がもたらすもの

外卖大战を描いた風刺画「混戦」(北京晚报より)

 今回の外卖大战の激しい戦いの中、ユーザーにもたらされたものも決して良いことばかりではありませんでした。

 安く出前を取れる反面、注文が集中したことで商品が届くまで時間がかかるようになり、「お昼ごはんが夜になっても届かない」、「注文と全然違うものが届いた」といったサービスの質の低下もみられました。また、出前配送のバイクが急激に増加したことで、交通事故のリスクも高まりました。
 
 中国では新しいサービス・コンテンツが出るたびに、多くの企業が勢いよく食いつき、競争を激化させるという現象がよく見られます。

 現在、市民の足として定着したシェアサイクルも、サービスが始まった頃は多くの会社が乱立し、街は自転車だらけとなりました。結果、淘汰され、倒産してしまった会社のデポジットがユーザーに返されず、当時社会問題にもなりました。

 目まぐるしいスピードで変化する中国。新しく出てくる様々なコンテンツとその競争。そのスピードにどうついていくか、それらとどう付き合って生活していくかがここでは重要なのだと実感しています。


参考サイト
合肥网新闻 “无锡外卖大战 昨日却被工商约谈,究竟发生了什么”
http://news.wehefei.com/system/2018/04/12/011241089.shtml

北京晚报“滴滴美团饿了么引发外卖混战 专家:各平台应该回归理性”
http://www.takefoto.cn/viewnews-1449099.html

CCTIME飞象网 “外卖大战,换电模式让骑手赢在起跑线”
http://www.cctime.com/html/2018-4-18/1375356.htm

凤凰网江苏 “无锡外卖大战里的年轻人:以为能爽一月 结果就2天”
http://www.jlonline.com/a/20180424/803500.html

新浪微博 @天天无牌
https://weibo.com/234708801?refer_flag=1005055014_&is_hot=1

竹内亮

ドキュメンタリー監督 番組プロデューサー (株)ワノユメ代表

2005年にディレクターデビュー。以来、NHK「長江 天と地の大紀行」「世界遺産」、テレビ東京「未来世紀ジパング」などで、中国関連のドキュメンタリーを作り続ける。2013年、中国人の妻と共に中国·南京市に移住し、番組制作会社ワノユメを設立。2015年、中国最大手の動画サイトで、日本文化を紹介するドキュメンタリー紀行番組「我住在这里的理由」の放送を開始し、2年半で再生回数が3億回を突破。中国最大のSNS・微博(ウェイボー)で「2017年・影響力のある十大旅行番組」に選ばれる。番組を通して日本人と中国人の「庶民の生活」を描き、「面白いリアルな日本・中国」を日中の若い人に伝えていきたいと考えている。