見出し画像

人類史上最も大規模な移動?「春運」

【ホット検索ワードから見る中国 vol.9】

中国版Twitter“微博(ウェイボー)”で話題になっているホット検索ワード“热搜(rè sōu)”をもとに、「中国の今」を紹介していきます。

今回のホット検索ワード「春運」

(人民铁道网より)

 「春運」とは「春節期間の帰省ラッシュ・Uターンラッシュ」を指しています。中国のお正月である春節近くになると、地元を離れて働いている人たち、大学に通う学生たち、都市部に出稼ぎに来ているたちがこぞって年越しのために里がえりをします。中国の総人口を越えるのべ約30億人が移動する春運は「人類史上最も大規模な移動」とも言われています。

(浙江24小时より)

 オリンピックが「奥運」、アジアオリンピックが「亜運」などと呼ばれることにかけて、“「春運」も中国国民の体育大会の一つ”という冗談を言う人もいます。確かに、「春運」では多くの体育大会に匹敵するほど激しい競争が行われているようです。一体どんな競争が行われているのでしょうか?今回は、中国の「春運」についてお伝えします。

■時代と共に変化する列車チケット争奪戦
 列車のチケットは約一か月前から発売されます。が、発売された瞬間に売り切れる場合がほとんどです。現在はネット上でチケットが購入できるため非常に便利になりましたが、これまでは必ず駅まで行って購入しなければならなかったため、チケットの発売日の数日前から駅に長蛇の列ができていたそうです。

(视觉中国より)

こちらは2005年の写真です。駅が人であふれかえるので、ちかくの体育館に臨時のチケット売り場を設置して、春運のチケットを販売していたそうです。

(视觉中国より)

以前のように寒い中並ぶ必要は無くなり、肉体的な負担は軽減しました。しかし、今度はネットで購入ができるようになったことで、チケット争奪戦を巡る高度な頭脳戦が繰り広げられています。

(北京亦庄发布より)

たとえば、「このアプリの方があのアプリよりチケットを購入できる確率が高い」、「まず、〇〇までのチケットを買って列車に乗り込み、後で乗り越し料金を払うほうが高確率でチケットが買える。」など、ネット上では様々な「チケット争奪戦攻略法」が飛び交っています。

多くの人は複数のアプリから予約したり、キャンセルが出たら自動的にチケットが購入されるシステムに登録したりと、様々な手段でチケット争奪戦に備えているようです。

■移動の神器
 中国の国土はとても広いため、列車に24時間以上乗って移動するということもよくあることです。少しでも快適な列車での時間を過ごすために多くの人は「春運神器」を持って列車に乗り込みます。

(合肥范儿より)


 写真のように自前のマフラーで乗り切る人もいるようですが、多くの人はU字枕や耳栓、アイマスクなどを持ち込むようです。その他にも、こんな風に顔を支える杖(?)のようなものを使う人もいるようです。

(BRTN新闻より)

ただこれらが活躍するのは、席が取れた場合だけ。席が取れなかった多くの人は、「站票(立ち席チケット)」という列車には乗れるものの、座席には座れないチケットを買って乗り込んでいます。このような人たちに絶対欠かせないのは折り畳み椅子です。

(齐鲁晚报より)


こんな風に椅子を持ち込み、空いてるスペースに座り込み列車で過ごすのです。ただ、実際のところ春運の季節は人が多すぎて椅子を置くスペースもなく、何十時間も立ちっぱなしとなることも多いようです。

ここ数年は高速鉄道(中国の新幹線)の建設も進み、これまで普通列車に集中していた人が分散されつつありますが、数年前までは人があまりに多すぎて、列車のいたるところに人がいるというのが当たり前の状況だったそうです。

(北京晨报より)

■帰るためなら手段は選ばない
 列車はチケットを買うのも一苦労、乗っても一苦労。ならばいっそバイクで帰省しよう!と考える人も少なくありません。寒さや雨風は辛いものの、自由に動け、チケット代を節約することができる。その上、バイクで帰省する人同士で助け合うことができ、人間の温かさを味わうことができる。そんな理由から、バイクでの帰省が選ばれています。

(搜狐より)

バイクでの帰省を選ぶのは、比較的暖かい地域の人や実家の近くまで行く鉄道やバスが無い人が多いそうです。

(容济点火器より)

■意外と空いている空港
死に物狂いで奪い合う「春運」のチケットですが、意外と空いているのが飛行機なのです。列車よりも値段が高い、故郷から空港までが遠い、電車の方がゆっくり寝られる(寝台チケットを買えた場合)などの理由で、飛行機ではなく列車を選ぶ人が多いようです。また、「飛行機が怖い」という理由で乗らない人も結構いるそうです。

(中安在线より)

春節は多くの中国の人にとって、家に帰れる一年に一度の貴重な機会でもあります。そのため、皆たくさんの荷物を抱えて家路につきます。飛行機の場合、荷物の重量や内容など様々な制限があるので、家族へのプレゼントをいっぱい抱えて帰る中国の人たちには少し不便なのかもしれません。

春節が近くなると、中国では宅配便のサービスが止まったり、多くの店先に「帰省のために店を閉めます」という張り紙が貼られていたりと皆が春節に帰省する準備を始めているのが感じられます。日本は年末年始も多くの店が開いていてとても便利ですが、逆に言えばその分、休めていない人や帰省できていない人がいるということになります。この点では、日本も思い切って中国を見習ってもいいかもしれませんね。

(記事作成: 竹内亮 石川優珠)


竹内亮

ドキュメンタリー監督 番組プロデューサー(株)ワノユメ代表

2005年にディレクターデビュー。以来、NHK「長江 天と地の大紀行」「世界遺産」、テレビ東京「未来世紀ジパング」などで、中国関連のドキュメンタリーを作り続ける。2013年、中国人の妻と共に中国·南京市に移住し、番組制作会社ワノユメを設立。

2015年、中国最大手の動画サイトで、日本文化を紹介するドキュメンタリー紀行番組「我住在这里的理由(私がここに住む理由)」の放送を開始し、3年で総再生回数5億回を突破。中国最大の映像作品評価サイト「豆辯」にて10点満点中9.3点を獲得。また中国最大のSNS・微博(ウェイボー)で2017、2018年二年連続で「影響力のある十大旅行番組」に選ばれる。

番組を通して日本人と中国人の「庶民の生活」を描き、「面白いリアルな日本・中国」を日中の若い人に伝えていきたいと考えている。