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「生き続けた男」SFショートショート

日本の東京のどこか地下深く、男がいた。

地下の極めて狭い部屋で、男が苦しいと思っても、彼を助けるものはいなかった。

男は自分の意思で、この地下にいるわけではない。他の人間に無理やり、ここに入れられたのである。

男は体の臓器があったとされる様々な部分に、管がつき、その先に機械が完備され、いわば人工の臓器で生きていた。生かされていた。

男は、ぴくりとも体を動かすことも出来ないようにさせられていた。

男はいっそのこと「死んでしまいたい」と何度も考えていたが、それすらも許されなかった。

生きる意志も、死ぬ意志も尊重されない、そんな暗闇で男は生き続けているのだった。

ただ生き続けさせられ、あらゆる臓器を奪われ、もう何年経ったのか。男は分からなかった。

今日が何年で、何月で、何日なのかも分からず、相当に長い期間が過ぎた。

男が生き続けさせられている内に、世界は様々な、そして重大な事が起きていた。

1番大きな出来事といえば、地球に隕石が落ちたことである。

大きな隕石が地球を襲い、それに伴う地震、津波、突風が人々の生活を根こそぎ奪った。

もちろん、地上にいた人々は一瞬で命がなくなり、地下に避難して生き延びたと思えた人々も、以前のような資源も食糧もない世界では、生き続けることはできなかった。

人間が絶滅したのである。

しかし、地下にいる男は生きていた。
男には食糧もいらないように、体をいじられていたからである。
男に繋がる機械達は、地上の出来事もお構いなしに、動き続けている。

人間ももういない世界で、ずっと生きる男。
男は地下にいるため、地震等は分かったものの、地上で何が起きたのか、人間に何が起こっているのかもわからなかった。
何も知り得ることも出来ず、男はひたすらに生かされていた。

とてつもなく長い年月が流れた。
地上の風や波もおさまり、地球が改めて生物の住める環境に変わった。

ある時、新しい生命が地球に生まれた。
新しい生物は長い年月をかけて進化し続けて、ついに、過去に絶滅した「人間」に似た「新人類」が生まれ、その新人類は瞬く間に地球を埋め尽くしていった。

そして、ついにその時が来た。

新人類の1人が、地下で生きる男を見つけたのである。

新人類は、地下で生き続ける旧時代の人間を見て驚き、喜んだ。

新人類の科学の力を全て使い、新人類は男の体を作り、男は「旧時代の人間」として、再び地上に出ることが許された。

男は変わり果てた地球の姿に驚いた。
男を取り囲む新人類達にも驚いた。

新人類達は、興味深く男を見ている。

次の瞬間。
男は、目の前の新人類の首を掴み、捻り、ちぎり、殺した。

新人類が悲鳴を上げてもお構いなしに殺した。

何人も何人も素手で首を引きちぎり、返り血だらけの男は、ついには新人類の手によって、現代でいう銃で射殺された。


それ以降、旧時代の文献を新人類は見つけていくわけであるが、そこであの男の正体が分かった。

男は連続殺人が原因で死刑囚になっていたという。
しかし、死ぬだけで罪から解放されるのは、被害者達が報われないという世論によって、永遠に生き続けさせる代わりに、その臓器を臓器提供に使い、また行動の自由も一切与えないという、「生刑」というものが生まれ、その1人目が、その男だったらしい。

また、その「生刑」になった「生刑囚」は、後500人ほどいるらしい。

新人類はその捜索と、殺処分をすぐに始めた。

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