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「趣味は何ですか?」はハラスメントなのかもしれない

 
きっと誰もが、一度は訊かれたことがあるであろう、こんな質問。
 
「趣味は何ですか?」
 
私は「あること」をきっかけに趣味を答えるのが怖くなってしまった。
 
 
今から十年ほど前の出来事。
当時、私はダーツにハマっていた。マイダーツを購入し、週に一度は友人たちとダーツをしていた。
 
そんな折、たまたま誘われた飲み会(いわゆる合コン)に参加した。和気あいあいと一次会を終え、さて二次会どうする?となった時、男性メンバーの一人から「ダーツとかどう?」という声が上がり、二次会はダーツバーへ。
 
日頃からやっているダーツ。しかもその日、私はマイダーツを持っていた。当時は、いつでもダーツが出来るよう、マイダーツを持ち歩いていたのだ。
 
 男女がペアになってのチーム戦ダーツ。マイダーツを持っている私に対する期待は大きかった・・・がしかし、

趣味だからといってダントツに上手いわけではない。ただ、楽しいからやっていただけで、プロを目指して日々練習していたわけでもない。
 
結局、他の男性メンバーとそれほど大した違いを出せぬまま、ゲームが続いたのち、その日初めて会った男性からこう言われた。
 
「趣味だっていうし、マイダーツ持ってるから上手いのかなと思ったのに、全然大したことないじゃん」
 
お酒の影響もあったのかもしれないけれど、そのキツい言い方に私はとてもイヤな気持ちになった。

もしかしたら、その男性に悪気はなかったかもしれない。初対面であるがゆえ、普段のその人を知らないので、もしかしたらカレにとってはただの冗談だったのかもしれない。
 
しかしそれ以来、ダーツに限らず、私は趣味を答えるのが怖くなり、そして「趣味って何?」恐怖症になってしまった。なぜなら、どんな趣味であっても、その熟練度や習熟度によっては心無い言葉を浴びせられる可能性があるからだ。
 

例えば、趣味が読書なら、たくさん本を読んでるのかなと思うし、映画鑑賞ならいろんな映画を観ているのかなと思う。
 
料理が趣味だと言われたら、料理上手をイメージするし、ゴルフならお金持ってそうとか、野球やサッカーならそれなりに上手なのだろうと思ってしまいがち。

「趣味」を宣言することによって、意図があるなし関係なく、「普通よりは上」みたいな印象を与えてしまうのである。
 
本来、趣味というのは、誰かと競い争うためのものではなく、自分が愉しむためのもののはずなのに・・・
 
 しがらみやストレスなく、趣味を純粋に楽しむ方法はないものか───私は考えた。
 
 例えば、漢検とか英検みたいに、一瞬でその趣味の習熟度がわかるような指標があったら、どうだろう?

趣味が料理の場合は、カップラーメンが作れたら10級、味噌汁が作れたら9級、チャーハンなら8級、肉じゃがなら7級、みたいな。
 
これなら、たまたま同じ趣味だった場合に、それぞれが相手のレベルがわからず牽制しあったり、逆にマウント合戦になったりすることも減るはず。なぜなら、検定は他者との闘いではなく、自分との闘いであり対話だからだ。
 
」はそれぞれが自分のペースで自分がやりたいように自由気ままに趣味を楽しむための「あしあと(足跡)」である。
 
級が近ければ親近感がわくし、仲間意識が芽生えるかもしれない。逆に級に大きな開きがあれば、抵抗感なく、教えたり教えられたりするかもしれない。
 
それに、自分が全く知らない趣味だったとしても9級と聞けば「初心者なんだな」と思うし、2級なら「かなりの上級者なんだな」と思って、相手を見る目が違ってくるかもしれない。
 
 
大人になって初対面の人に会うと、相手の勤務先だったり学歴、あるいは見た目やその雰囲気などで、その人となりを判断しがちだが、「趣味と何級か」がわかることで、相手の別の顔を見れる気がするし、全く違う判断材料がそこにはある。
 
それまでの社会的な価値観には囚われない、優しい「あしあと」だ。
 
 
世の中にはたくさんの趣味がある。
メジャーな趣味もあれば、マイナーな趣味もあり、「それって趣味なの?」という趣味だってある。名乗れば何だって趣味になるのだ。
 
ただ、「人には言えない趣味」というのもある。「言えない」などと隠されればそれを暴きたくなるのが人の性だが、それは「趣味を愛する者」として決してやってはいけない。
 
今や、どんなことでもハラスメントが叫ばれる時代である。「趣味は?」のそのひと言が「趣味ハラスメント」になることだってあり得るので注意が必要だ。たとえそれが世間話の延長だったとしても「趣味は?」などと軽々しく訊くのはよろしくない。
 
「趣味ぐらい聞いたってよくない?」というのは、もはや昭和のオッサンの発想である。
 
 
とはいえ───
相手の趣味は気になるだろう。昭和のオッサンじゃなくても、気になってしまうその気持ちは、わからないわけでもない。
 
そんなときは「趣味は?」という、ド直球でドストレートな訊き方は避け、こんな感じで尋ねるといい。
 
「最近ハマってること、あります?」
 
趣味を訊いているようで、訊いていないような、ぼんやり感。この「最近どう?」みたいな気さくで気軽な感じなら、きっと大丈夫。
 
 ちなみに、私自身が「趣味は?」と訊かれたら、最近はこう答えている。
 
「寝る前に怖い話を読んで、うなされること」
 

すると、たいていの場合、
「・・・何それ?」
という反応ののち、やんわり引かれながら会話は終わる。ただ───
 
最近は、ほとんどうなされない。
理由は、なんとなくわかる。

 
どんなに怖い話を読んでも「怖い!」と思えないのである。だからうなされることもない。怖い話をたくさん読み過ぎて、怖い話不感症気味になっているのかもしれない。これはもはや「級」を通り越して「段」のレベルなのだと思う、有段者な私。
 
 
趣味について、あれやこれやと想像を巡らせながらこの記事を書いていたら、趣味に限らず、私は昔から人の話をいろいろ聞くのが好きだったことに今気づいた。
 
自分ではない人の人生について、その生き方についての話はどんな人であっても面白い。

もしかしたら、それが私の趣味なのかもしれない、と今さら気づいた。
 
わかっているようで、実はよくわかっていない、自分のことなどいくつになってもよくわからないものなのかもしれない。
 
でも───
自分のことをそんな風に思いながら生きていくのは、なかなか楽しい。
 
明日はまた、自分の知らない自分に出逢えるのかもしれない。
 
そして今夜もまた、まだ見ぬ怖い話に胸ときめかせながら、私は泥濘ぬかるみの眠りにつく・・・

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