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犬丸のキャラクターデザインと犬丸ロボ

犬丸のデザイン

江戸時代の日本では、3回罪を犯した罪人の額には「犬」という入れ墨が彫られていたのだという。
今回の犬丸は「顔に大きく犬と書かれている、小さい極悪そうなおじさん」にしたいと川村監督からのオーダーがあり、まずは小川が、「小さいおじさん、妖怪、ヤクザ、マフィア」という4つの方向のキャラクターデザインを描いてきた。
デフォルメ感のある小さいおじさんバージョンは、歌舞伎と刺青をミックスしたような隈取りがみんなの思い描いていた犬丸像にバシッとマッチしたため、満場一致でこのデザインで進めることになった。

小川による犬丸デザインの初稿

犬丸の最終兵器を何にするか?

犬丸のデザインや造形と並行して、最後に犬丸がどう甚五郎と戦うのか、犬丸の最終兵器は何なのかという議論が撮影ギリギリまで続いた。当初の川村の脚本では、甚五郎作と言われている実在の彫刻「野荒らしの虎」をモチーフとした虎と甚五郎が戦うという、今よりも更に激しいバトルシーンが描かれていたのだが、このプランだと人形製作と撮影日数が大幅にオーバーしてしまうことがわかり、残念だがそのプランは今回は諦めなければいけなかった。それでもエンディングは妥協することなく、人形製作と撮影日数に合った結末を考えようと、チームで頭を突き合わせました。

長編では是非出演させたい野荒らしの虎の初稿デザイン

演出部は、現実的に撮影スケジュールに収まり、納得のいくエンディングを何度も検討した。その結果「犬丸の横にある煙草盆が実は操縦桿で、それを動かすと犬丸の座っている浜床が巨大ロボに変形する」というアイディアに行き着いた。(実際はもうちょっと中二病っぽい流れだったけれど)

「自走するロボ!」という川村のアイディアに対し、次のミーティングで小川が上げてきたスケッチは、建築と兵器がちょうど半々というようなルックスだった。犬丸は甚五郎の兄弟子だったという設定なので、大工感のある変形具合とビジュアルはただ驚きがあるだけではなく、しっかりとこの世界にマッチするものとなった。

小川による犬丸ロボデザイン

最終兵器のイメージが決まったところでアサインされたのが、犬丸ロボの制作を担当した武内である。祭りの山車の上に浜床が乗っていて、さらにそれに腕がついているロボットのようなデザインを形にして欲しいと言われたその時、納期まで1ヶ月ちょっとしか時間が残されていなかった。武内は制作時間も鑑みて、神棚、ガーデニングの飾りの車輪などの既製品を組み合わせてこのデザインを立体化しようというデザインを提案した。 

武内による犬丸ロボデザイン初稿

しかしこのロボは、一体どうやって登場するんだろう?
「ロボの胴体は床下に収納されていて、犬丸がロボを起動すると床をぶち抜いて登場する」というアイディアもあったが、それは様々な理由で現実的ではなかった。そこで、「犬丸が座っている2段の浜床そのものがトランスフォームして犬丸ロボになるってのはどうだろう?」というアイディアに行き着いた。演出部は「それは面白いね!」と盛り上がっていたが、震えていたのは武内である。高さでいうと、2段の浜床は23cmから54cmに変形し伸びることになるのだ。デザインもまるっとやり直しになるので内心「ひえ〜」と思っていたそうだが、逆にそれだけ伸びるにはパンタグラフ式にするしかないと頭を切り替え、浜床の上段がニョキ伸びて、下段が腕になる様なデザインを考えることにした。

プロトタイプと制作途中の犬丸ロボ

実はあんなものでできている…

犬丸ロボの大部分は、ミーティングでTECARATを訪れた際に美術部から譲ってもらった古材の素材で出来ているという。装飾は仏壇の唐草模様の装飾を切り貼りしており、浜床の手すりは雛飾りなどのパーツを使って作り上げた。
かなりの重量になるので、壊れにくいようにと、変形する部分はなるべく丈夫な工業製品を使用したという。本体を上下に伸び縮みさせる構造は、実験器具の高さを調整するのに使用するラボジャッキを採用している。パイロットフィルムだけでは伝えきれていないが、この犬丸ロボはアニメートする時は少しずつジャッキアップさせており、正真正銘トランスフォームするロボなのである。

また腕の関節には、肘から先の重さに耐えられるよう、金属製のガッシリしたスマホホルダーを採用。腕の関節は内側の部分はロープ、滑車、歯車で飾り付けされている。
川村監督から、腕のイメージはウルヴァリン的な雰囲気と聞いていたので、右手には草刈り鎌を3本装備し、左腕は大砲にした。この大砲が重くなりすぎないよう、素材はなんとペットボトルとのこと。作業途中に疲れを感じてたまたまC.C.レモンを手に取った時に、これだ!と閃いたそうだ。ということで、ペットボトルの底に穴を開けてアクリルパイプを差し込み、内側を樹脂で固めて表面を鋳物風に仕上げた。

左手の内側には弾倉もあり、連射が可能な装備に仕立てた。また起動シーン最後に収まる階段部分は、100均の木製小物入れがピッタリサイズだったとのこと。

短い時間の中で脳内をフル回転させて、まるでパズルのように組み立てられた犬丸ロボ。こうして犬丸はただの悪役なのではなく、どんどんクセの強さがプラスされていき、魅力的なキャラクターに育っていった。

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