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チャリのグリップ

チャリのグリップが壊れた。

正確に言えばチャリのグリップが裂けてどこかに飛んで行ってしまったのだ。

チャリのグリップというのは頑強なようで脆い。儚いのだ。ひとたび亀裂が入ってしまったらもう崩壊は防げないのだ。

僕のクロスバイクに在庫の都合でママチャリ用のグリップがつけられていくさまを僕は何も言わず見ていた。

さぞかし悔しいだろう。

クロスバイクなのにママチャリのグリップ、さぞ辛いだろう。

僕はクロスバイクに何をしてあげるべきだったんだろう。

否、僕はクロスバイクに何ができただろう。

ママチャリのグリップを装着されて、各部の整備を施されたクロスバイクにまたがり、馴染みの店主に代金の1000円を払い僕は家へ帰る。

少しだけ快適になった乗り心地のクロスバイクで風を切りながら、僕は考える。


「何か巻いてあげるべきだったんじゃないのか?」


ママチャリのグリップなんて世のママ達の掌に握られっぱなしの物体を装着される前に、最期の矜持として何か相応しいものを巻いてあげるべきだったんじゃないか。

僕は自分のチャリのグリップ部分の最期を飾るものを考える。

最期に相応しい、ゴージャスで、頑強で、しなやかで、「これを巻いていただいたのであればもう私には一片の悔いもございません・・・」とチャリのグリップ部分に言わせることができる最高のもの・・・これは難しい選択になるな・・・。



………生肉はどうだろう?

………疲れてるみたいだ、今のは無し。
でも生肉、特に生で食べれるくらいの新鮮な肉というのは本当に素晴らしい。
しかし一旦落ち着こう、それはあくまでオレが食べたいものであってチャリのグリップ部分に巻くべきものではない。




…………純金のチェーンとか?

いやこれも無しだ。ダメだ。
ただ綺麗ではある。純金のものってオレは触れた記憶がないけど「金」は最も人の身体に馴染む事のできる鉱物だと聞いたことがある。きっとオレの手にも馴染む良いグリップになってくれるのではないか。

しかし、今回考えるべきメインはオレの身体じゃなくチャリのグリップ部分だ。
チャリのグリップ部分は鉄だ。チャリに詳しくないから本当に鉄かどうかはわからないが見た目で判断するなら鉄100%だ。
鉄と金、鉱物としてのランクが違いすぎる!チャリのグリップ部分の自尊心をオレは忘れない。ちゃんとそこら辺も考慮する。金は不採用だ。



………いっそナタデココ?

惜しいところまできている気がする。
しかしこれに関してはチャリのグリップ部分とオレ双方満足だがナタデココ側に問題があるかもしれない。
試してないから一切わからないがナタデココの固さを想像する限り、おそらくチャリのグリップ部分に巻いたらナタデココは裂けてしまうだろう。
嗚呼…なんて切ないんだ。一見優雅でそこそこの強度も兼ね備えているナタデココ。しかしこの食品は儚さもあるのだ。まるで数日前に裂けて無くなってしまったオレのチャリのグリップのようだ。


色々考えている内に自宅に着いてしまった。
何かできたのではないか…しかしこのifにもう意味はない。僕は発見できなかったのだ。チャリのグリップ部分の最期の矜持に相応しい相方を。

そして僕は冷蔵庫にあった唯一の食べ物である「刺身こんにゃく」を一枚食べて思わず叫んでしまう。


「コレだ!!!!」


皆さんはチャリのグリップ部分の最期の矜持に何を捧げますか?僕は「刺身こんにゃく」です。

#エッセイ #コラム #小噺 #cakesコンテスト

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