見出し画像

【#11】D:燕三条の職人のサステナビリティとは

今回は、産業クラスターのフレームワークの最後かつコアのパーツである「職人」についてフォーカスを当てていきたいと思います。

フレームワークでは、今回は赤枠の部分の話です

検証フレームワークで職人が中心にあるのは、燕三条はものづくりの街であることから、職人無くしては成り立たない産業クラスターだからです。産業のコアとなる職人の存在。この地に職人が生まれ、定着していくためにはどのような仕組みになっているのかを紐解いていきたいと思います。

技術継承のための燕三条全体としての職人採用と育成の取り組み

もともと30年前の新潟県は大学進学率が全国46位と低かったことに加え、特に燕三条の地域では、第三次産業(サービス業)の層が薄く、雇用の受け皿として金物産業以外が存在していませんでした。そのため、若者は地元で就職するしか現実的な将来の選択肢が乏しかったことも、他地域に比べて後継者に恵まれた状況の要因となりました。

しかしながら、燕三条地域も少子高齢化に伴い後継者問題が顕在化しています。そのような時代の変化に対応すべく、産学官がいち早く連携し、若い職人の採用育成のための施策を打っていきました。

燕三条では、産学官それぞれが役割分担をしながら、子供が成人するまでのライフタイム全般にわたって燕三条のものづくりとの接点を創出しています。例えば、小学校・中学校・高校では、遠足や社会見学など教育の一貫として、ものづくりとの触れ合いの場が提供されています。オープンファクトリーや三条ものづくり学校、三条鍛治道場、燕市産業史料館、三条市歴史民族産業資料館などがその一例です。そしてこのような場を利用し、他県からの修学旅行の誘致も行っています。

ものづくりとの接点をもち、早い時期から職人になりたいと考える若者も多く、地元の企業に就職する子供たちは7〜8割にも達します。工業専門学校も多数設置されており、新潟県は全国1位の数を誇っています。こうして域内の子供たちには、幼少時代から成人になるまでの長い年月をかけて、教育現場と燕三条地域との連携により、「燕三条の企業で働きたい」「職人になりたい」と思う地域への誇りや愛情を醸成し、この地で働くための流儀を伝えています。

 また、官民が一体となりリクルーティングを行うことで、企業の環境を整備し、域外の若手の採用にも力を入れています。域外の若者にとっては、ものづくり産業に飛び込む際の心理的ハードルとなる金銭的不安、過酷な労働環境への懸念をやわらげるために、助成金やインターンシップなどの仕組みづくりも行っています。

 近年では、工場の祭典の開催や海外展示会への出展、FACTARIUMによる次世代を育成するための情報発信、EkiLabによるモノづくりのHUBシステムとして利用者のアイデアを形にする場の提供、燕三条青年会議所の未来のためのまちづくり事業や人づくり事業など、若い経営者たちによる新しいアイデアが採用され、燕三条地域の人たちの交流や技術を身につける場が構築されています。そして、こうした活動を、メディアを通して積極的に発信することによって、域外の人だけでなく、燕三条地域に住む域内の人たちへ伝えることも目的としています。

燕三条全体としての職人採用と育成の取り組みの全体像

なぜ、燕三条は産学官が連携して職人採用・育成にいち早く動けているのか?

それでは、職人の採用・育成に向けて、なぜ燕三条では産学官が連携し迅速に動けたのでしょうか?その要因として、以下の4点が考えられます。そしてそれらは地域の持つ6つの資本+αが大いに関連していると考えます。
 
 ①仕事が豊富にあり、高い技術を習得できるから(製造資本・知的資本)
高い金属加工技術によりBtoBビジネスが活況となったことで、「燕三条地域には仕事が豊富にあり、生きていくために困らない、また、燕三条地域の世界に誇れる技術を習得できる」という安心感を、その地にいる職人に対してアピールすることができたと考えられます。

②活発な同業者同士のつながり、産学官交流にて「場」の醸成(社会関係資本)
分業を基軸とする産業形態であるため、元来より同業者同士のつながりが強く、若手経営者の活動、工場の祭典など産学も含めて地域が交流する機会が基盤として存在していました。そのため日頃から地域課題を共有していたことが迅速な地域としての行動につながったのでしょうか。
 
③地域産業として「製造業」しかないという危機感(財務資本が影響)
前出のように、燕三条地域において第三次産業の層は非常に薄く、金属加工を中心とした製造業の存続こそが地域存続の生命線です。職人の存在は、「血液」に等しいとの思いから、職人採用・育成への危機意識が他地域より強かったといえます。

④「地元愛」「地域の人々との絆」「変化に対応する気質」
これらは、6つの資本には分類されない要因なのですが、地域の方々のインタビューを通じて、「地元愛」「地域の人々との絆」「変化に対応する気質」という言葉をよく伺いました。
燕三条地域の人々の根底に流れる「地元を何とかしたい」と言う想いが原動力となり、少子高齢化と言う変化にいち早く反応し、産学官連携でスピード感をもって課題に手を打つ行動を起こすことができているのではないかと考えられます。

燕三条の6つの資本による職人のときめきの創出

燕三条地域の職人が存続するための産学官の仕組み以外にも、職人がこの地でものづくりを続ける要因には、「ときめき」という概念があるのではないかと私たちは考えました。「ときめき」とは、期待や喜びで胸躍る状態のことを言います。燕三条の産地型産業クラスターにおいては、その地における6つの資本の要素により、「ときめき」と呼べる職人の感情が沸き起こる環境となっているのではないでしょうか?

 例えば、以下のような点が挙げられます

他の山を登る職人の存在(人的資本)は、職人たちと切磋琢磨しながら刺激を受けることで、自分自身のものづくりに対するモチベーションを向上させる
世界一を目指している職人同士の技術が組み合わさる環境(製造資本/知的資本)は、これまで世の中にはないような素晴らしい製品・技術が誕生する喜びを感じられる
燕三条が様々なメディアに取り上げられ、オープンファクトリーなどの体験価値を提供する場が豊富にある環境(社会関係資本)は、子供にかっこ良いと思われたい親心を満たしてくれる
燕三条地場産業センターや磨き屋シンジケートなど外部から舞い込む仕事をマッチングさせる機能があり、ものづくりの仕事や機会が多様にある環境(社会関係資本)は、自身の技術をさらに習熟する欲求と向上心を満たしてくれる 
工場の祭典や燕三条ものづくりメッセ、オープンファクトリーなど様々な産業観光やイベントの機会がある環境(社会関係資本)は、自分たちが当たり前だと思っていた技術が外部から賞賛されることで、技術に対する誇りを持つことができる

燕三条の6つの資本による職人のときめきの創出

燕三条地域に限らず、全ての職人にとって、自分の思い通りの商品が出来上がった時、注文を受けたお客様に商品を渡した時に望み通りであると言ってもらえた時など、経験や技術を用いてお客様の希望を実現できることが嬉しい瞬間だと感じている職人は多く存在します。しかしながら、産地型産業クラスターでは、このように6つの資本からときめきが生み出される地域の環境こそが、職人に喜びや嬉しさをさらに与えることができ、ものづくりを支える職人が地域で存続していくための強み・重要な要素となるのではないかと、私たちは考えています。

Team想 髙橋佳希

↓過去記事はコチラ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?