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燕三条 工場の祭典2022 現地レポート(前編)

今回は2022年10月7-9日に開催された「燕三条 工場の祭典2022」について書きたいと思います。今回、私も初日、2日目と現地に行っていろんな工場(KOUBA)をまわることができたので、その様子を少しでもお届けできればと思います。

燕三条 工場の祭典とは?

「燕三条 工場の祭典」は、金属加工の産地である三条市と燕市、その周辺地域のKOUBA(製品などを造る「工場」、農業などを営む「耕場」、工場・耕場でつくられたものを販売する「購場」)を公開して、地域内外からの見学者を受け入れる、燕三条の秋の恒例行事です。

普段はなかなか見れない燕三条の工場が、ピンクのストライブで彩られ一般開放される
工場の祭典HPより https://kouba-fes.jp/

2013年に始まった工場の祭典は、回を重ねるごとに広がりと盛り上がりを見せ、初回に54件だったKOUBAの数は、2019年(第7回)には133件に増加。見学者も、延べ5万6000人に上るまでになりました。

「燕三条 工場の祭典」のべ来場者数推移
回を重ねるごとに来場者が増加し、2019年(第7回)はのべ56,000人が来場した

しかし、2020年、新型コロナウィルス感染症の流行に伴い、2020年の工場の祭典は中止に。
翌2021年は、通常の各KOUBAの一般開放という形式ではなく、廃工場を会場にして、燕三条で生まれた製品と燕三条の歴史文化、工場の祭典の歩みを紹介する、「Tsubame-Sanjo Factory Museum」が開催されました。

2021年はFactory Museumという形式で、廃工場を活かした会場で集中開催された
https://kouba-fes.jp/2021museum/

そして、2022年、満を持して従来の工場の祭典が3年ぶりに復活し、10月7-9日に燕三条の各KOUBAで実施されました。

世界的なデザインの大会でグランプリ受賞!!

先日大変喜ばしいニュースが飛び込んできました。
10月28日にドイツのベルリンで開催された「Red Dot Design Award2022」授賞式において、2021年に実施された展覧会「燕三条 ファクトリーミュージアム」が、ブランド&コミュニケーションデザイン部門でグランプリを獲得しました!
「Red Dot Design Award」は、世界三大デザイン賞の1つとされている、大変権威のある賞で、約50カ国・9,000を超える応募の中から選ばれた6件のグランプリの一つに選ばれました。
我々Team想も、昨年のファクトリーミュージアムに行きましたが、燕三条の地域の歴史や工業の成り立ちが詳しくわかると共に、ビジュアル・音響・廃工場の雰囲気も素晴らしく、まさに五感で燕三条の工場の雰囲気を楽むことができる素晴らしい展覧会でした。

廃工場を活かした五感で感じる素晴らしい展覧会でした

この快挙に、今現地は沸きに沸いているとのことです(^-^)

工場の祭典2022に行ってきた!(前編)

さて、そんな世界的にも注目されている燕三条 工場の祭典ですが、今年は3年ぶりに従来の形で10月7-9日の3日間、燕市・三条市および周辺地域の82の拠点で開催されました。

従来の工場の祭典が3年ぶりに復活

私も、従来型の工場の祭典を訪れるのは初めてだったので、胸を躍らせながら新潟に向かいました!

伊丹空港からいざ新潟へGO!

新潟空港からレンタカーを走らせて約一時間、「三条燕IC」を降りて、燕三条に到着です。

なぜかインターチェンジは「三条燕」
燕と三条の関係性の複雑さが垣間見えます(^-^;)

さて、ここからは、今回の旅で廻った燕三条のKOUBAを紹介していきたいと思います(^-^)

①玉川堂(ぎょくせんどう)

鎚起銅器の老舗として有名な玉川堂
建物は国の重要文化財に指定されています

燕市で200年の歴史を持つ鎚起銅器の老舗として世界的に有名な玉川堂さんです。

鎚起とは鎚(つち)で打ち起(おこ)すという意味で、職人が数百種類の金槌と当て金を使い分けながら、一枚の銅板から立体的な造形物に見事に成形する技術です。
昨年玉川堂を訪れた際に、銅器の美しさに一目ぼれして、見事な片口とぐい呑みを購入させていただきました。

昨年購入した酒器(私物) ぐい呑み(左)と片口(右)
見事な色合いと模様 晩酌時に自宅で愛用してます

30分に一回のKOUBAツアーに参加。カンカンカンと職人さんが叩く音が響く作業場を開放し、若い職人さんが鎚起銅器の工程について説明し、多くの人が聞き入っていました。

職人さんが働く作業場を開放
KOUBAツアーの後には、実際の製品の鑑賞もできました
私のぐい呑みを製作してくれた職人の田子森さん(左)と再会
こういった職人さんとの交流ができるのも工場の祭典の魅力の一つです

②ミノル製作所

次は、同じ燕市にあるミノル製作所を訪れました。
雰囲気はどこにでもありそうな中小ものづくり企業です。
ピンクのマスキングテープで工場の祭典の雰囲気を手作りで演出しています。

ミノル製作所の門構え どこにでもある中小企業という感じです
このような段ボールを積んで正面に飾って、工場の祭典の雰囲気を手作りで演出しています

ミノル製作所は「へら絞り」という金属成形加工を専門とする会社です。
へら絞りとは、へらと呼ばれる金属の棒をテコの原理を利用して、回転する金属板を金型に押しあて、少しずつ伸ばしながら成形する手法・技術です。

通常、金属成形には「プレス加工」という製法が用いられるのが一般的です。これは一度金型を作ってしまえば、プレス機により次々と成形できるため、大ロット生産の場合は確実にコストは少なく済みます。
一方、小ロット生産や試作品作成の場合は、そのために精巧な金型を作るよりも、職人の手作業により簡易な金型を使用して柔軟に成形できる「へら絞り」の方が先行投資が圧倒的に安くすむため、今でもこの「へら絞り」加工の技術は重宝されていると、6年目の職人のかいどうさんが教えてくれました。
かいどうさんは1年前のFactory Museumでもへら絞り実演されていました。

動画は実際のへら絞りの実演をしてくれたものです。
見事な職人技で、ただの金属円板が瞬く間に器型に成形されていきます。

へら絞りの工程を説明する図
へら絞り実演をしてくださった、若き職人 かいどうさん(右)
へら絞りによってさまざまな形に成形できます

「課題は、このへら絞りの技術をいかに未来に残していくか」と社長の本多さんは語ってくれました。
このミノル製作所は若い職人を育てて、自動研磨機など新しい工作機器も導入するなどして、この先10年以上の未来を見据えた先行投資と育成を行っています。
一方、燕三条には他にも何軒かへら絞りの工場、職人さんが存在していますが、いずれもご高齢で、事業継承において大きな問題を抱えています。
それらの工場・職人は技術は確かなものがありますが、長期的な事業継続を見据えていないため、償却済の機材と安い人件費で事業を行っており、かなり「安く」仕事を請け負っているとのこと。
これだと、仮にその工場・職人さんが廃業し、ミノル製作所に仕事が流れてきたとしても、先行投資を行い設備償却や人材育成費を抱えるミノル製作所ではなかなか価格が合わないことも多いのが実情のようです。
このような根深い地域問題を抱えつつも、燕三条の将来を見据えた経営方針に共感してくれる顧客・仲間と良い関係を築いていくことが大切だと、社長の本多さんは力説されていました。

③日野浦刃物工房

三条市側に移動し、鉈や包丁づくりで有名な「日野浦刃物工房」を訪問しました。

住宅街の中に立地しており、結構迷いました(^-^;)
日野浦さんの鉈は、黒い刃肌が特徴 カッコいい!
工場の中も入れました 残念ながら鍛造加工はやっていませんでしたが、窯は火入れしていました

日野浦刃物工房が作る鉈や包丁で特徴的なのは、独特な漆黒の刃肌にあります。これは、焼き入れした後の酸化鉄となる過程で、土を塗すことにより、参加の具合をコントロールすることでできる技術だと教えてくれました。
これが酸化しすぎると、この黒い表面がはがれてしまうし、酸化が抑制されすぎるとこのような色合いが表現できないため、長年の技術・ノウハウが蓄積されたものなんですね(^-^)

さて、ここまで読んでいただいたありがとうございました。
実は、もっと色々な工場をまわったのですが、この回ではとても書き切れないので、続きは次回の後編でUPしたいと思います!

Team想 髙橋佳希

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