ゲノム編集で作られた作物と、それを可能にした圧倒的な技術


本記事では、ゲノム編集が私達の「食」にどのような影響を与えるか考察する為に、「ゲノム編集の食への実用例」「食への実用化を可能にした技術的特徴」について考察していきたい。

初めに

ゲノム編集は今後、「食」「健康」「医療」等、私達の暮らしや生活に計り知れないインパクトをもたらすことが確実視されている。

中でも現時点でゲノム編集が盛んに行われているのは、農作物や家畜、養殖魚等、「食品の品種改良」である。


どれくらい実用化されているのか?

結論、ゲノム編集による品種改良は、科学者の想像力が及ぶ限りのものが試されている。

〈生産者の農家向け〉

雑草だけでなく作物も枯らせてしまうことのある除草剤を、リスクを気にすることなく使える「除草剤に耐性のある大豆」が代表例である。

〈流通・小売事業者向け〉

「白くならないマッシュルーム」「茶色くならないレタス」等、健康に害はないものの、見た目の劣化によって売れ行きが悪くなったりフードロスを引き起こしていた作物を、より長期間保存が可能になるような取り組みがなされている。

〈消費者向け〉

人体に悪影響を及ぼす「トランス脂肪酸」を除去した大豆がアメリカのベンチャー企業によって開発され、既に大規模農場での生産が行なわれている。

日本でも、市場に出される初のゲノム編集作物として、サナテックシード株式会社によって、2021年春から、血圧を下げるGABAを豊富に含む「高GABAトマト」が、家庭菜園用として希望者向けに販売がされている。

個性的なものでは、「緑色に光るビール」「毛と肉量を増やしたカシミヤ山羊」等個性的な研究もされている。

以下の図が、理論上実用化が可能でこれから期待されているものも含め、簡単にまとめである。

画像2



ゲノム編集を支える技術的特徴


様々な作物の品種改良に活用されていることは理解できたが、従来の品種改良は数十年~数百年もかかっていたのに、なぜこんなにも多くの作物の品種改良を実現することが出来たのか?

多くの品種改良を可能にしたゲノム編集の技術的特徴について見ていきたい。

前提として、ゲノム編集技術は最近できたものではなく、現在のゲノム編集は「CRISPR-Cas9」と呼ばれる、第三世代のものである。第一世代は「ZFN」第二世代は「TALEN」、そして第三世代が、2020年10月にノーベル化学賞を受賞した「CRISPR-Cas9」である。

通信規格が約十年スパンで2G→3G→4G→5Gと進化してきたように、ゲノム編集技術も改良を重ねて今に至る。

本章では、最新の「CRISPR-Cas9」の技術的特徴について考察していきたい。

結論としては以下の3点に集約される。

①正確性&スピード ➁汎用性 ➂技術の使い易さ


①正確性&スピード

ゲノム編集とは異なる育種方法の一つ、遺伝子組み換えと比較したい。遺伝子組み換えは、品種改良の際、狙った遺伝子に作用させることが出来ず、偶然に頼るしかなく技術と呼べるものではないというのが正直なところである。

一方ゲノム編集は、DNAのハサミの役割を果たす酵素を使って、非常に高確率で狙った遺伝子に作用することが出来る。

結果、新しい品種を開発するのに、遺伝子組み換えは10年前後かかるのに対し、ゲノム編集は1~1年半で可能になると言われている。

また、その正確性から、遺伝子組み換えでは「除草剤に強い」等、作物に対して限られた効果しか発揮できなかったが、ゲノム編集は「栄養素倍増」「作物の毒素を抜く」等、作物への効果も多種多様になった。


➁汎用性

遺伝子組み換えでは、菜種、ジャガイモ、米、トマト等主要作物に加え、動物ではマウスのみしか技術を応用することが出来なかった。

しかし、ゲノム編集は、DNAが解析されれば全ての生物に応用可能なため、今後、ほぼすべての作物で品種改良が可能になると言われている。


➂技術の使い易さ

遺伝子組み換え技術は、技術の複雑さから、一部の科学者が何年も訓練を重ねてやっと使えるようになることから、扱える人間の裾野が狭かった。

一方、ゲノム編集は、非常に簡単に扱うことが出来る

倫理的な問題や危険性といった問題はさておき、アメリカでは、中学生が放課後の遊び感覚で、市販のキットを使って興味本位の品種改良を試している。

上記は極端な例だが、開発力や資金のある大企業しか取り組めなかった遺伝子組み換えと違い、ゲノム編集はスタートアップでも取り組むことが出来ることから、スピード感のある様々な作物の開発が可能である。


本記事は以上とし、次の記事では、ゲノム編集作物の抱える問題点やそれを解消する為のヒントが隠されている育種の歴史について考察していきたい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?