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エンタメ×DXはオンラインならではの付加価値の追求を!

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、リアルな会場で開催されるライブエンターテインメントは開催自粛が相次ぎ、従来のようなリアルライブの開催は困難な状況となってきました。一方で、外出自粛要請の影響を受け、消費者の巣ごもり需要が拡大し、オンラインを介したライブコンテンツの視聴・消費機会は高まってきました。この変化を体感されている方も多いのではないでしょうか。

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▲2020年の市場規模は140億円の見通し。2021年には前年比約2.2倍 314億円に急拡大と予測(株式会社CyberZ調べ)

1年以上前から仕込みを始め、関係各所と東京オリンピック開催期間中に照準を合わせて準備を進めていた大規模eスポーツイベント「RAGE」。こちらも新型コロナウイルスの影響を受け、変更を余儀なくされる事態に。
この逆境下で柔軟に発想を転換し、去る8月29日、30日に「RAGE ASIA 2020」としてオンラインでのイベントを開催。その結果、170万以上の視聴数を記録する成功を収めた立役者が今回話しを聞くCyberZの大友真吾さんです。

大友さんは同社でのeスポーツ事業のみならず、オンラインイベント事業も担当するなど幅広くエンタメジャンルのビジネスを管轄している方ですが、今なお現場の仕事にも出ている一面を持っています。大友さんから見えるエンタメ×DXの景色はどのように映っているのでしょうか。

CyberAgentの看板があってこそを痛感した2年目

――冒頭は大友さんご自身のことを聞かせてください。大学卒業後、サイバーエージェントに入社されてインターネット広告事業本部に配属されますが、学生の頃からインターネット広告に興味があったんですか?

大友:サイバーエージェントへの入社を決めた理由は、「働いている人たちが魅力的だった」からです。正直言うと、やってることは当時はよく理解していなかったと思います(笑)。インターネット関連の会社なのは理解してましたが、インターネット広告事業に特別な思いがあったわけではないですね。

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――入社の翌年にはマネージャーに昇格されてますが、これはすごいことですよね。

大友:運が良かっただけです(笑)。当時、インターネット広告事業の営業部にいたんですが、ちょうど上役が変わったタイミングでした。自分がなんとかしなきゃとなって奮起しましたね。

――その後、2009年にCyberZの立ち上げメンバーとして取締役に就任。現在は、eスポーツ事業管轄取締役として、RAGE総合プロデューサーや「PLAYHERA JAPAN」代表取締役社長を務められているのは、さすがに運が良かっただけではないと思います。

大友:若手にチャンスを与えて、経営者としてのスキルを身に着けさせるという社風がサイバーエージェントグループにはあるので、それが追い風になったのはあると思います。

千載一遇の好機であることは間違いないので、二つ返事で承諾しました。

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――会社経営となるとチャンスではあるものの、いろいろ考えることもあったんじゃないですか?

大友:大学卒業して2年目(当時24歳)の若いときの出来事なので、あまりあれこれ考えずにチャンスだという気持ちを信じました。ですが、経営者になって結果がなかなか出なかったこともあり、最初はしんどかったというのが本音です。

そのとき、「今まで営業できていたのは、『サイバーエージェント』という看板があったからだ」ということを痛感しました。CyberZがサイバーエージェントの子会社であることは理解してもらえるのですが、すでにサイバーエージェントと付き合いがある中で新たに子会社とお付き合いを始めなくても……といわれることもあったぐらいです。CyberZでの経験で、会社名に頼らない本当の意味での実力がついたようにも思います。

――大友さんは経営者でもあり、DXを推進される立場でもあると思いますが、ご自身をDX推進者に求められるビジネス(B)、テクノロジー(T)、クリエイティブ(C)の3要素のトライアングルでマッピングするならどのポジションでしょうか?

大友:どれか1つに突き抜けているというよりは、3要素全部網羅できる点が自分の強みだと思っています。

私自身はエンジニアではないですが、サービス立ち上げの経験もあり、テクノロジー的に実現可能かどうかなど事業側で必要な知識はありますし、RAGEはじめクリエイティブ周りを考えるのは好きですし、デザインのディレクションをすることも今でもあります。ビジネスの部分に関してはここまでお話したとおりですね。なので、ポジショニングとしてはちょうど真ん中になるんじゃないでしょうか。

CyberZにおいては、広告事業に加え、海外、メディア事業、eスポーツ事業など、全く経験したことがない領域へのチャレンジを多数してきていますし、それを大胆に任せてくれる文化もあります。そのたびに事業責任者としては、特化した強みがあることは重要ですが、責任者として事業を推進する上で、3要素すべてにおいて一定の知識がないと、強いチームが作れないとも思っています。もちろん大変なことも多いですが、大きな責任やポジションが人を育てるなと実感しています。

eスポーツ+イベント事業の経営から現場仕事までを担当

――大友さんは現在CyberZでどういった活動・業務を担当されているんでしょうか?

大友:担当領域としては、まずeスポーツ全般があります。具体的には3つあって、

1. 国内最大級eスポーツイベント”RAGE”の総合プロデューサー
2. ゲーマー向けeスポーツ大会&コミュニティプラットフォーム”PLAYHERA JAPAN”の代表取締役社長
3. eスポーツイベント制作・運営・企画を行うCyberZの子会社であるCyberEの担当役員

です。

これに加えて、オンラインイベント事業部も担当しています。2019年末にサイバーエージェントグループのIPを活用したイベント・興行を担当する専門部署として立ち上がった事業部です。

直近ではライブ活動ができなくなったアーティストの方々に「OPENREC.tv」(ライブ配信が楽しめる動画プラットフォーム)のスタジオをご活用いただき、弊社のイベント制作知見を生かしてオンラインライブ配信することを行ってます。ですので、事業としてはeスポーツとオンラインイベントの2つを主に担当している状況です。

事業計画の作成や戦略の策定はもちろんなんですが、今でも現場の仕事はしています。お客様への営業もしますし、制作に関する内容にもフィードバックしています。

――新型コロナウイルスの影響は大友さんが担当している領域においてどういったインパクトがありましたか?

大友:大規模集客型のオフラインイベントができなくなったので、eスポーツ事業においては大きな舵取りを急ピッチで実施する必要がありました。具体的にはオンライン化ですね。eスポーツはオンラインとの相性は悪くないので、その点では不幸中の幸いではありました。

見方を変えると、エンタメ業界のオンライン化へのシフトにドライブがかかったという解釈もできます。

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――とはいえ、経験したことがない事態の中での方針転換で現場の混乱はあったのでは?

大友:イベント主催側としての思いとして、ぎりぎりまでオフライン実施の可能性も考えつつ、オンラインでの実施も考えるという2つのパターンを常に持つ必要があったので、現場の仕事量は増えてしまいました。準備や制作進行は大変だったと思います。

――オンラインでの音楽ライブ配信についても、新型コロナウイルスの拡大を見ながら準備をしたんですか?

大友:「OPENREC.tv」を使ったPayPerView(有料配信サービス)機能は、新型コロナウイルスとは関係なく1年ほど前から機能実装に着手していました。というのも、東京オリンピックの開催に伴って、中規模ライブハウスなどの場所が不足するという見込みを立ててました。実際、音楽業界からもそういう声が届いてました。

ですので、今年に入ってからPayPerView機能開発の優先度を上げて、実装したという流れです。

中止の判断は最初からなかった「RAGE ASIA 2020」

――8月29日、30日に行われたRAGE史上初となるeスポーツ国際大会の「RAGE ASIA 2020」ですが、実施までの経緯を聞かせてください。

大友:昨年時点では、2020年夏に東京オリンピックが開催される予定だったので、これに合わせてeスポーツの国際大会をRAGEブランドで実施したいという着想から始まっています。東京に注目が集まる時期に世界へ向けて日本のeスポーツを発信すべく、「RAGE WORLD(仮)」として東京で開催する予定でした。海外のeスポーツイベントを見慣れた方々にも「日本のRAGEってすごいね」と思っていただけることを目指して準備を進めてました。

ところが、新型コロナウイルスの影響で東京オリンピックが延期になり、オフラインイベントの開催ができなくなる事態になりました。オンラインでの開催を模索していく中で、eスポーツの競技性を担保するために時差の問題やレイテンシーを考えなければならず、まずはアジアという括りで実施するのがいいだろうと決定しました。

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――オンラインで「RAGE ASIA 2020」をやるというのはすぐに出てきた結論なんでしょうか?

大友:関係者とはかなり協議しました。ただ、ありがたいことにゲームの許諾もスムーズでしたし、関係者のみなさんも基本はやりましょう! のスタンスでした。なので、どうやってやるかの協議はしましたが、中止するという判断は最初からなかったですね。

――「RAGE ASIA 2020」では「V-RAGE」(VR空間でeスポーツ観戦を楽しめる)での展開も話題になりましたが、これは「RAGE ASIA 2020」としての開催を競技する中で出てきたアイデアなんですか?

大友:「V-RAGE」は「RAGE ASIA 2020」を開催する前から計画していました。私たちが感じているeスポーツの課題の1つに、海外と比較して日本ではeスポーツの観戦文化が根付いていないということがありました。そこで、オフラインでの観戦や配信での視聴とは異なる新たな観戦体験を提供したいという思いから「V-RAGE」は始まっています。

VRというと大きなヘッドアップディスプレイが思い浮かびますが、「V-RAGE」はスマートフォンで体験できるのも大きな特徴です。アバターを操作して、いろんなエリアに行ってというユーザー体験は、モバイルゲームの体験と似ているんです。「ゲーム感覚で楽しめて、コミュニティ形成ができて、さらにeスポーツも観戦できる」。これが新しい観戦体験になるのではないかと思ってます。

オンラインならではの点を向上させ、新たな体験を生み出す

――さまざまな事業を見られている大友さんの目から見て、エンタメ×DXの難しさを感じますか?

大友:eスポーツでも音楽ライブでも、「オンラインでの価値」を上げていく必要があると考えています。オフラインでやっているイベントをそのままオンラインで配信に乗せるのではなく、「オンラインならではの」といえる部分を提供していかなければなりません。例えば、ユーザーが関与できるインタラクティブ性(双方向性)は有力だと思ってます。

大規模開発を始めてますというのはないですが、日々試行錯誤はしています。音楽ライブの配信でも最近ではZOOMを利用したコールアンドレスポンスの事例もありますし、いろんなオンラインライブ配信も見てますね。

今後、新型コロナウイルスが収束してもオンライン配信は1つのサービスとして続いていくと思っているので、仕込みはしています。

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――コト消費はオンラインへのシフトが急激に起こっており、まだないユーザー体験を生み出すことがエンタメ×DXのポイントなんでしょうか。

大友:そうですね、さきほども申し上げましたがオンラインならではで付加価値のある視聴・観戦体験をどれだけ作れるかはポイントになると思います。これを実現するために新しいテクノロジーを使うのか、あるいはちょっとした工夫で可能なのかなどの模索が続くでしょう。ライバルになるのはある意味「オフラインでの体験」なので、これを超える新たなオンライン体験を実現すべく活動していきます。

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新型コロナウイルスによる影響が大きいイベント・興行の領域にも関わらず、新しいアイデアと推進力で新たな付加価値を追求し続ける情熱に圧倒されました。同時にDXと相性がいいエンタメ領域だからこそ、考えなくてはならないこともたくさんあることもわかりました。
大友さん、ありがとうございました!

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大友 真吾 氏
中央大学卒業後、2007年サイバーエージェントへ入社。インターネット広告事業本部配属となり、翌年マネージャーに昇格。2009年より株式会社CyberZ立ち上げメンバーとして、取締役に就任し、営業担当役員を経て、現在はeスポーツ事業管轄 取締役として、RAGE総合プロデューサーや「PLAYHERA JAPAN」代表取締役社長、エンタメ×DXプロジェクトの推進などを務める

写真:大塚まり
取材・文:辻 英之

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