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【エッセイ】なんかクサい

私は時々、ペットの兎に鼻をくっつけてみるのだが、見事に何の匂いもしない。
野生では弱い立場なので、匂いを消したのは進化の一環なのだろう。
やはりイキモノというのは、本当によくできている。


しかし私はクサかった

その日、私は妹の犬を散歩させた後、友人の家へ行くことになっていた。
やけにじっとりと蒸し暑い、日曜の午後のことだ。
犬の散歩コースである堤防は、普段は風が心地良いのだが、この日はやはり湿っぽかった。

そんな中でも、犬のテンションは無責任に高い。
「うっふふぅ、可愛い可愛いボクちゃんのお散歩だよぉ」と言わんばかりに、跳ねたり走ったり大騒ぎだ。
私も汗をかきながら、時折一緒に走ってあげたりして、何とか犬を疲れさせようとしていた。
(この犬をうまく疲れさせると、帰宅後におとなしく寝てくれる)

いや待てよ、汗をかいているということは。
あることが心配になった私は、ふと思い立ち、自分のTシャツのニオイを嗅いでみた。
しかし、もう時すでに遅し。
心配は、見事なまでに現実になっていたのだ。

「私、クサぁぁぁぁぁぁぁい!」

親しき中にも礼儀あり

犬につき合っているうちに、私のTシャツは、世にもクサい服と化していた。
どうしよう、これは我ながら本当にクサい。
この世のものとは思えない、とまではいかないが、この世に存在してはならぬレベルにはクサい。

問題は私がこの後、友人の家へ行くということだった。
こんなにクサい服を着て、誰かを訪ねていくなんて、人としてどうなのだろうか。
万が一、友人は黙って我慢してくれたとしても、おそらく同居猫はうなるだろう。
あの猫を怒らせたら、出入り禁止の刑は免れまい。

仕方なく、私は通り道にあるし〇むらに寄り、着替え用のTシャツを購入した。
背中に大きなベティ・ブープが描かれた、バブルガムピンクのTシャツ。
私はさっさとそれに着替え、クサい服を袋に放り込むと、何食わぬ顔をして友人の家を訪ねた。
勿論、袋の口はしっかりと縛ったので、ご心配なきよう。

これは何とかしなければ

どうにかこうにか、し〇むらとベティ・ブープに救われた私だが、あくまでこれは応急処置だ。
汗をかくたびにTシャツを買っていては、あっという間に破産してしまう。
今年の夏も、汗拭きシートやデオドラントスプレーなど、対策グッズを用意しなければ。

こんなことを書きながら、今着ているTシャツを嗅いでみたところ、兎並みに何のニオイもしない。
散歩の後ほどではないものの、ある程度の汗はかいたというのに。
これなら友人の家に行っても、猫に怒られることはなさそうだ。

それにしても、あの日に嗅いだ自分のクサさは、いったい何だったのだろう?

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