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できるだけネタバレせずに映画『この世界の片隅に』をほめる

映画『この世界の片隅に』を観た。いい映画だった。どうして「いい映画だ」と思ったのか、できるだけ内容には触れずに語りたい。

まずは結論。この作品は、物語として直接描かれていることと、そこから観る側が受け取るものとが違うから、「いい映画」である。

どういうことか。

たとえば、ホラー映画を観たとする。恐ろしいモンスターが2時間ずっと暴れまくるという話だったとする。観る側は、「怖いなぁ」と思う。恐ろしいできごとを恐ろしく描いているのだから、客を怖がらせることができたら、その時点で成功だ。だけど、観る側がそこで「怖いんだけど、これは『愛』の物語だよね」と感じたとする。その瞬間、それは「いい映画」になる。というのが、俺の考え方だ。

まわりくどい説明になってしまったけど、わかるかなぁ、わっかんねぇだろうなぁ。でも、わかってほしいこの気持ち。

もう少しだけわかりやすくするために、ここでひとつだけネタばれをすると、『この世界の片隅に』は、戦争映画だ。

戦争映画は(特に邦画の場合は)ふつう、哀しいできごとが重苦しい感じで描かれて、観る側は「戦争って悲惨だなぁ」と思う。Aが描かれて、A'という感情を抱く。当然、作る側も「Aを描くことで、A'という気持ちを抱かせよう」と考えて作っている。

でも「いい映画」は、「Aを描くことで、Bという気持ちを抱かせよう、Cについて考えてもらおう」という意図で作られており、「いい映画」であるがゆえに、その意図が伝わるように仕上がっている。

『この世界の片隅に』は、それが、もう、文句のつけどころがないくらいに、バチッ! とはまった作品だ。つまり、戦争映画なのに、そして(直接的な表現を避けながらも)悲惨なできごとを描いているのに、観る側はそこに描かれていない感情を抱くことができる。しかもそれは、描かれていることとは、逆のベクトルをもった感情だ。

それは脚本の素晴らしさによるものであり、絵の美しさによるものでもあり、のんを始めとする声優陣の演技力によるものでもある。

だから、すごい。だから、とっても「いい映画」なのだ。

では、また。


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