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DADDY-LONG-LEGS あしながおじさん

 大学生になって以来、どこかで聞いたことのある文学作品や学術書を読み漁りたい欲に駆られ続けている。まだ読んでいないカフカの『変身』から川端康成の『雪国』、リチャード・ドーキンスの「利己的な遺伝子」...終わりがない(Netflixもたくさん観たい、塾のバイトもある、デートもしたい、もー欲だらけ)。
 

 私を悩ませると同時に幸福でもあるのは、ある本を読むと芋づる式に新たに読みたい作品、映画、聞きたい音楽が次々に生まれること。特に、学術書はその本が書かれた前後の学説や同時期の他の学問分野などが複雑に絡み合っているから迷宮に迷い込んだ気分になる(でも、だんだんと繋がりが見え始めるとワクワクする)。

 海外児童文学の名作『あしながおじさん』。本の裏表紙に書かれているあらすじ通りハッピーエンドな物語だ。

孤児院で育ったジュディの人生に、とびきりのチャンスと幸せが舞い込んできた。名を名乗らない裕福な紳士が、奨学金を出して彼女を大学に通わせてくれるという。ただし条件がひとつ。毎月、手紙を書いて送ること。ジュディは謎の紳士を「あしながおじさん」と呼び、持ち前のユーモアがあふれた手紙を書き続けるのだが―。最高に素敵なハッピーエンドが待ち受ける、エバーグリーンな名作。
『あしながおじさん』ジーン・ウェブスター 岩本正恵訳 

謎の紳士が孤児院で育ったある女の子に奨学金を与えて大学に通わせてくれる。その条件はたった一つ、「手紙」を送ること。
(この設定にまずキュンとくる)

私が思う『あしながおじさん』の最大の魅力は「ジュディの人柄が溢れる文章」と彼女の「成長の軌跡」だ。この本はジュディからあしながおじさんへの手紙のみで構成されているため、一見するとジュディを中心とした一方向のストーリに思える。しかし、著者ジーン・ウェブスターはジュディの手紙を通じてあしながおじさんもまた同時に描く。

ジュディは素直で、好奇心旺盛で、聡明で、感受性が豊かで、ユーモア溢れる女の子なのだ。奨学金を出してくれる紳士に「ジョン・スミス」と呼ぶようにと言われた彼女は彼への最初の手紙でいきなりこう語る。

でも、「ジョン・スミス」なんて、ありきたりの名前で呼んでほしいというかたに、どうすれば尊敬を抱けるのでしょう。どうしてもう少し個性の感じられる名前をお選びにならなかったのですか。これではまるで「馬のつなぎ柱さん」や、「物干し柱さん」に手紙を書いているようです  p20

(独創的すぎるよジュディ)

 あなたについてわたしが知っているのは、たった三つのことだけです。
Ⅰ 背が高い。
Ⅱ お金持ち。
Ⅲ 女の子が嫌い。
 あたたのことを「女の子嫌いさん」とお呼びすることもできますね。けれども、その名前はわたし自身を侮辱しているように聞こえます。あるいは、「お金もちさん」はどうでしょう。でも、今度はあなたに失礼ですね。まるであなたに関する重要なことはお金だけというものですから。それに、お金持ちというのは、その人のほんのうわべだけの特徴です。もしかしたら、一生お金持ちではいられられないかもしれません。ウォール街では、とても賢い人たちが大勢破産しています。でも、少なくとも背が高いのは一生変わりませんね!ですので、あなたのことを「あしながおじさん」と呼ぶことにしました。どうか不愉快にお思いにならないでください。ここだけのニックネームです-リペット院長には秘密にしてください。 p22

ジョン・スミスなんてありきたり!
ネーミングセンスどうかしてるわ!
「あしながおじさん」て呼ぶね!!
と天真爛漫な人柄が溢れている。

またある日には

おじさまは、マイケル・アンジェロという名前をご存じですか。
有名な画家で、中世のイタリアに住んでいた人です。英文学の受講者はみんな知っているらしく、わたしがアンジェロさんのことを大天使だと思ってそう言ったら、クラス中が笑いました。だって、大天使みたいな名前だとお思いになりませんか。大学の困ったところは、勉強したことのないたくさんのことを、知っていて当然だとされることです。そのせいで、ときどき恥ずかしい思いをします。 p26

(素直でキュート!)

生理学の講義を受けた日の手紙の結びでは

追伸
おじさまはお酒を召し上がりませんように
お酒は肝臓におそろしい害を与えます。

(優しい!)

英文学の授業を受けた日には

古典といえば、おじさまは『ハムレット』をお読みになったことがありますか。もしまだでしたら、すぐお読みください。ほんとうにほんとうにすばらしい本です。これまでずっと、シェイクスピアの名前は耳にしていましたが、こんなにすばらしいなんて思いもしませんでした。ずっと評判だけだと思っていたのです。 p116

(評判だけだと思っていた笑)

彼女はすごーく勉強している。そして日常の全てに感動している。子供が親にその日にあった新鮮な発見を自分でも止められないほど話尽くすかのように、大学で学んだこと、日常生活、夏休みに行った田舎での生活、あらゆる体験を嬉しそうに手紙に記して「あしながおじさん」に伝える。どんなに小さな幸せもこぼさず生きている。物語が進むにつれて悩みや葛藤も増え、「手紙」には彼女が「女の子」から「女性」へと変化していく様がありありと描かれている。

彼女の文章(ジュディというより、ある意味でそれは著者の)は等身大で、だからこそ美しい。彼女のような手紙、文章を書けるようになりたい。同時に、ジュディのような真摯に学問と向き合う大学生活は素敵だと思う。学問と生活から新たな視点を獲得して彼女は世界を広げる。

ジュディが「あしながおじさん」に手紙を書いたように、わたしもここに文章を佇ませておきたい。

ジュディというキュートな「女の子」を暖かく見守り、ジュディという「女性」に惚れる一冊です。

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